黒羽 奏
嫌なことは忘れられない。
でも、それも思い出。
「疲れたわ……」
スーパーでの買い物を終えて帰宅する。
荷物を持っていたという疲労ではなく、精神的に疲れたというのが大きかった。
ちなみに買い物の荷物はスーパーを出た直後、申し訳なさそうにしていた新人さんに丸投げした。
最初は困惑していたが、薫さんに「男の子なんだからそれぐらい持ってあげなさい」と言われ、家の前まで運んでくれた。
「まだ17時か」
奏が来るにはもう少し時間がかかるはず。
夕飯は一緒に作ればいい。今日ぐらいはそれぐらいの贅沢はしてもいいと思う。
(少し休もう……)
私はリビングにあるソファーに身体を預けた。
「今日は久々の空お姉ちゃん家だー」
嬉しすぎて、思わずスキップしてしまう。
「高校生になって、それはどうなの?」と、空お姉ちゃんに突っ込まれそうだけど、嬉しさには勝てない。
歌いださないだけ、まだいいよね?
「本当、懐かしい道」
小学生の時に、空お姉ちゃんと一緒に帰った道を歩く。
あの頃は本当に毎日が楽しかった。別に今が楽しくないわけではない。
ただ、大好きな空お姉ちゃんと一緒に帰るのが好きだった。
あの事件までは……。
(あの出来事が、空お姉ちゃんの日常を変えた……)
私は今でも鮮明に覚えている。
血に塗れ、高らかに笑う少女を。
その姿は普通に見れば恐怖や畏怖を覚えるだろう。
(でも、私は違った)
小さな私は『悲しそう』と思った。
真っ赤に染まった、空お姉ちゃんは泣いていたのかはわからない。
ただ、虚ろな目をし、嬉しそうに笑いながら
「お父さん、お母さん、大好き……」
と何度も言っていた。
この出来事は当時の新聞の一面を飾る程の出来事だった。
見出しはこうだ。
『少女が虐待されたが故の犯行』、『狂気の少女、両親を殺害』、『心が壊れた子供が親を手にかける』
思い出すだけでも腹立たしいものばかりだった。
私は小さいながらも怒った。
どうして、空お姉ちゃんが酷い事を言われるの?と、両親にも訊ねた。
母は『空ちゃんに何があったの……』、父は『あんなにも優しい子がどうして……』と言っていた。
どうしてあんなことが起きたのか、理由は直ぐにはわからなかった。
(何もしらない人が騒ぐのは本当に酷い……)
この事件から数ヶ月後に理由が色々な方面で公表された。
発表内容はこうだ。
『愛情が裏返る』
ドラマや映画みたいな事としか思えないけど、それが現実に起こったと連日、ニュースで放送もされた。
でも、信じる人は少なかった。
だから、空お姉ちゃんは姿を消した。
……貴重な実験素材として。
(空お姉ちゃん、このまま一人の方がいいのかな……)
空お姉ちゃんと再会したのは二年前。
高校の入学式の時だ。
私は16歳、空お姉ちゃんは二つ上なので18歳だけど、学年は二年だった。
どこで何があったのか、詳しくは教えてくれない。
でも、再会した日。
『……奏?久しぶりね。あと、入学おめでとう』
と、昔と同じで優しい笑みを浮かべて祝ってくれた。
でもその後。
『私に話しかけてはダメよ?いい子なんだから理解しなさい』
と、突き放された。
納得するわけがないので、私はいつも空お姉ちゃんの傍にいるんだけど、空お姉ちゃんが下級生を苛めているようにとられるので困ったりもする。
あんなにも優しいのに、なんで皆は冷たくするんだろう?
「……空お姉ちゃんのことを知らないのに」
気が付くと、空お姉ちゃんの家の前だった。
隣は私の家でもあるけど、今は両親共々、この家には住んで居ない。
空お姉ちゃんがいるから、ここに住みたいのはあるけど。
……今は家に入れてもらおう。
「ここも昔と変わらない」
そっと、インターフォンを押す。
聞きなれた音が響くのが心地いい。
「……あれ?」
何度か押してみたが、空お姉ちゃんからの反応がない。
「え?どうして?空お姉ちゃん、家にきなさいって言ったよね?」
いくら待っても反応がないので、門を開けることにする。
「ガシャン」と音がなり、門は施錠されているのがわかった。
「開いてない……。どうして、空お姉ちゃん!?」
いくら動かしても門は開かないが試してみる。
無意識に『なんで!?』と声がでたりもする。
「……お風呂でも入っているのかな?」
芙蓉家のお風呂場がある方を見てみる。
湯気が出ていない。
「まさか、倒れてたり!?」
必死に門を開けようとする。
それでも、門は開いてくれない。
「こうなったら、蹴り破ってでも!」
私はスカートだということも気にせずに、門を思い切り蹴った。
「……痛いよぅ」
当然と言わんばかりに門は開かない。
ただ、蹴った足が痛かった。
「……女の子がスカートでそんな事してはいけません」
ふと、背後から呆れたような声が聞こえた。
「……薫さん?」
「こんばんは、奏さん」
空お姉ちゃんの『見張り』の女性だった。
「ところで……どうして、こんなことに?」
「空お姉ちゃんが家に来なさいって言ったのに反応がないから……」
「それで蹴ったのね……」
薫さんはため息を吐いていた。
「奏さんがくるのは聞いていたし、空さんは家にいるはずなんだけど、どうしてかしら?」
「空お姉ちゃん、倒れたりしてないよね!?」
「それはないとは思うけど……空さんなら具合が悪くても黙ってそうよね……」
「やっぱりそうなんだ!?開けてよー!空お姉ちゃんってば!家にいれて―――!」
叫んでも反応はやっぱりない。
「か、奏さん!?」
私が大声で叫んだりしているので、薫さんが慌てだした時。
「芙蓉様の安否……。強硬手段もありですね」
と、男の人の声が聞こえた。
「あなたまで変なことを言わないの!」
薫さんが男の人に向かって言った。
「……あなたは誰ですか?」
自然と声が低くなる。
空お姉ちゃんにまとわりつく悪い虫かな?
「私は芙蓉様の見張りの一人です。なま……」
「名前なんてどうでもいいです」
自分でも驚くぐらい、冷めた声をしている。
それに……空お姉ちゃんに危害を加える者は誰であろうと、私は許さない。
「あなたは『見張り』ということですが、本当にただの『見張り』ですか?」
「はい」
「空お姉ちゃんの恋人になろうとか考えてませんよね?」
少しずつ、男の人との距離が近くなる。
「空お姉ちゃんを辱めようとか考えてませんよね?」
「そんなこと考えません!」
「本当に?手籠めにしたりしようと考えてません?」
「手籠めって……奏さん、女の子がそんなこと言わない……」
「いいえ、薫さん!これは重要なことです」
私は自然と手を払う。
「空お姉ちゃんの傍に男が近寄るのすら腹立たしいのに『見張り』まで男ですよ?由々しき事態です!」
「だから、私はそんなことは考えたり……」
「本当ですか?空お姉ちゃんは美人です。とっても優しい人です。スタイルもいいです。そんな目で見たことはないと言い切れますか?」
「……それは」
「やっぱり!」
男の人が気まずそうに言う。
「空お姉ちゃんに近づくなんて許せません。見過ごせません。お願いですから、今すぐ消えてくれませんか?いいえ、消えて下さい」
「なかなか過激な事言うのね……」
薫さんは呆れ果てていた。
「私は『見張り』です。自分の任務から降りるわけにはいきません!」
「……そうですか」
思ったよりも意志はしっかりしているらしい。
でも。
「空お姉ちゃんに手を出したりしたら」
私は笑みを浮かべながら言う。
「去勢してあげます。拒否権はありません」
「………」
青ざめるのは確認できた。
これで大丈夫。
「では、私は空お姉ちゃんの家に入るのが大切なので……。空お姉ちゃん、いーれーてーよー!」
叫ぶのを再開した。
「……ん」
目の前に置いていた時計を見る。
時刻は18時30分だった。
「少し長く眠っていたみたいね。あら?」
意識が少しはっきりした時に、煮物の匂いがした。
「肉じゃが?」
ゆっくり、キッチンの方へ眼を向けると。
「ふっふふーん」
鼻歌を歌いながら、奏が料理をしていた。
「……来てたのね」
「うん!」
私の声に元気に返事をする奏。でも、少し機嫌が悪そうにも見える。
「どうかしたの?」
「空お姉ちゃん、門閉めてたでしょ?」
「戸締りは大事よね」
「何度も呼んだんだよ?」
「疲れてたから、寝ていたのよ」
「やっぱり、空お姉ちゃんが冷たい……」
「ごめんなさい。今日は疲れる事があったから」
「次はちゃんと開けてよね」
「次があると思ってるの?」
「酷い!」
奏は泣きそうになっていた。
「手伝うわ。あとは何をすればいいかしら?」
「……もう全部作ったよ。空お姉ちゃんは食べるだけ」
「そう。ありがと」
「……うん」
「見た目は美味しそうね」
食卓にならんだのは、ご飯、肉じゃが、焼き魚、漬物、お味噌汁。
見事な和食だった。
「味も自信あるから」
「奏の手料理ね……。少し勇気がいるわね」
「空お姉ちゃんが酷い……」
「冷めない間に食べましょ」
「うー」
奏は唸っていた。
「肉じゃがはどんなものかしらね……」
お箸でつまんで食べてみる。
思っていた以上に美味しいわね。
「………」
もぐもぐと味わっていると。
「………」
奏が人を殺せるような目つきでこちらを見ていた。
「………ん。どうしたの?」
飲み込んでから、声をかける。
「空お姉ちゃんの感想は?」
「そうね……」
「………」
奏が真剣にこちらを見つめている。
「残念ね」
「……え?」
心底、奏がショックを受けた顔をしている。
そんな顔しないでよ……。
まだ、続きがあるのに。
「そんなにも美味しくなかったんだ……」
奏がポロポロと涙を流し始めた。
「何を泣いているのよ」
「だって、一生懸命作ったのに……残念って……」
「人の話は最後まで聞きなさい」
「……どういうこと?」
この子は昔から少し早とちりするわね。
そこが可愛いけど。
「残念って言ったのはね」
「……うん」
「奏みたいな子をお嫁さんに出さないとダメねって思ったからよ」
「……え?」
「簡単に言うと、とても美味しいわ」
「……本当?」
まだ、薄っすらと涙を浮かべている奏が小さな声でいう。
「本当よ」
「よかったぁ……」
「……また泣いてる」
「空お姉ちゃんが嬉しいことを言うから」
「仕方がないわね」
奏は嬉しくても泣くわね。
ほんと、昔から可愛らしい。
「ごはん、食べちゃいましょう」
「うん!」
二人で会話を交えながら、夕飯をいただいた。
料理は本当に美味しいけど、私には届かないわね。
これは言うと、また泣くかもしれないから、秘密にしておきましょう。
「ごちそうさまでした」
「うん。おそまつさまでした」
食事を食べ終えたので、食器を片付けようとすると。
「空お姉ちゃん、私が……」
「ダメよ。料理作ってくれたでしょ?私は何もしてないんだから」
「気にしないでいいのに……」
「私が気にするのよ」
食器を重ねて、キッチンに運んでいく。
二人分のお皿を運ぶのなんて、いつ以来だろう?
「あら?」
ふと、コンロの上にある鍋に目が留まる。
鍋の中には肉じゃがが大量に残っていた。
「奏、この肉じゃがの量は?」
「えーと……嬉しくて作り過ぎちゃった……?」
「まったく……」
鍋の中身は軽く数人前はある。
明日は学校もあるので、お昼は家で食べるわけにはいかない。
「お弁当に詰めるのも少し戸惑うわね……」
美味しいので持っていきたい気持ちもあるが、汁気のあるものでもある。
色々と混ざると、お弁当が悲惨なことになるのは簡単に想像がつく。
「ごはんは……まだあるわね」
炊飯器の中もまだまだ大丈夫と強調するかの如く、大量のごはんが炊けている。
「仕方がないわね」
時刻は20時。
遅い夕飯を食べる人もいるから大丈夫だろう。
「奏、ちょっと外に出るわ」
「え?こんな時間に何か買い物?コンビニなら一緒にいくよ?」
「違うわ。家の前によ。さすがにこの肉じゃがは、私だけじゃ食べきれないし。それに、薫さんが外でおにぎり食べてるかもしれないから」
「わかった」
「じゃぁ、呼んでくるわ」
「うん」
呼びに行ったのはいいけど、まさかあんなことになるとは、思いもしなかった。
「………」
私は薫さんと新人さんを呼んできた。
二人とも、夕飯はまだだったらしく、薫さんは二つ返事。新人さんは、どうしたらいいのかわからないと言っていたが『空さんの料理は美味しいんだから、食べないと損よ』という薫さんの鶴の一声で、中に入るのを了承した。
「………」
私はキッチンからテーブルの方を見る。
私から見て左側に奏、右側に薫さんと新人さんが座っている。
簡単に見れば、静かなものだけど、奏は新人さんを睨んでいた。
「……薫さんはいいとして、その男の人がなんでここにいるの?」
「えっと、奏さん、彼は私が……」
「薫さんには聞いてません。そこの男に聞いているんです」
「奏さんってこんなに娘だったかしら……?」
凄む奏、肩を落とす薫さん。
新人さんは少し……いや、かなり居心地が悪そうだ。
あれだけ睨まれていたら、仕方ないかもしれない。
(どうしたらいいのかしらね?)
そう思いながら、私はのんびりと卵焼きを作っていたりする。
肉じゃがとごはんとお味噌汁だけだと寂しいし。
「やっぱり、私はここから出た方が……」
新人さんが椅子から立ち上がったのが見えたので。
「いいのよ。そこに居なさい」
と、私は言った。
「空おねえちゃん!?」
奏はかなり驚いていた。
私が呼び止めると思わなかったのかもしれない。
「奏も大人しくしてなさい。睨んでばかりいたら可愛いのが台無しだから」
「……はい」
「それに、せっかく卵焼き作ったのに、食べもせずに出ていかれると気分が悪いわ」
「空お姉ちゃんの料理を食べずに出て行こうとする不届き者がここに……」
奏がまた睨みはじめたので。
「追い出そうとしてたのは奏だから」
「……ごめんなさい」
「わかればよろしい」
私は卵焼きを器に装い、運んでいく。
「あ、手伝うわ」
薫さんが慌てて立ち上がったが。
「お客さんは座っていればいいのよ」
と言い、私は運び続けるのだった。
「美味しそうねぇ……」
「そうですね……」
薫さんは目を爛々と光らせながら、新人さんは驚きながら言った。
「ほら、冷めないうちに食べなさい」
「ありがとう、空さん」
「ありがとうございます」
二人が料理を食べ始めた。
「………」
奏は無言のまま私の隣に座っている。
「卵焼き、ふわふわなのに味がしっかりしてて美味しいわねぇ」
薫さんは幸せそうだった。
「この肉じゃが、とても美味しい……」
新人さんも大喜びだ。
「……うぅ」
奏が複雑そうな顔をしている。
素直に喜べばいいのに。
「あぁ、空さんみたいな、お嫁さんが欲しいわ……」
「既婚者でしょ?一児の母だし」
「それはそうだけど……家の娘、空さんみたいに料理上手にならないかしら?」
「三歳の娘に求めてはダメよ」
「なら、誰がこんなに美味しいごはんを作ってくれるの!?」
「……自分で作りなさい」
「はい……」
薫さんは料理が下手というわけではない。
普通という言葉が当てはまる。
美味しい、美味しくないの意見は出ず『普通の味』というのが感想らしい。
ちなみに、ジャンル問わずに作れるのは凄いと思う。
「あの、芙蓉様……」
「なに?あぁ……」
新人さんが遠慮しながら、お茶碗を出してきていたのに気が付いた。
私はお茶碗を受け取り。
「男の子が遠慮しちゃダメよ」
と言って、ご飯を装いにいく。
(男の子だし、多めに装っても大丈夫ね)
私はお茶碗の上が山になるよう、ごはんを装っていった。
「ありがとうございます」
「いいのよ。肉じゃがも食べる?」
「宜しければ……」
「遠慮しないの」
空になった器を手に持ち、またもキッチンへ戻る。
「どうしたの?空さんみたいなお嫁さんが欲しいってやっぱり思う?」
「理想です……って、何を!?」
新人さんが慌てて叫んでいた。
「空さんが好みらしいわよ?」
「それは光栄ね」
肉じゃがが山盛りになった器をテーブルに置く。
「空さんみたいなお嫁さんが貰える。男にとっては嬉しいわよね。少し気が強いけど、何でもできて、美人で。夜の営みも凄そうじゃない?」
「!?」
横でお茶を飲んでいた、奏が驚いてむせていた。
「大丈夫?」
「ごほっ……大丈夫……」
顔を少し赤くしながら、奏は咳き込んでいた。
「薫さん、未成年に対して言うことじゃないわよ?」
「でも、気になるじゃない?」
そう言いながら、薫さんは卵焼きを頬張る。
鬼っていうより、リスよね?
「私に尋ねられても困るわ」
私は目を瞑りながら、お茶を飲む。
「でも、そうね……」
私には望むことはできないことだけど。
「そういう相手がいるのなら、相手が参るまで頑張ろうかしら?」
「あら、お盛ん」
卵焼きを飲み込んだ薫さんが口に手を当てて言う。
隣の奏は真っ赤になっていた。
「まぁ、ありえない話よ」
「そう?……あなたから見て、空さんは理想なのよね?」
「え?ええ……」
新人さんも少し顔が赤い。
「料理も上手で可愛らしくて……ほんと、理想ですね」
「あ、ありがとう」
可愛らしいと言われたのはいつ以来だろう?
自分でも照れているのがわかる。
「空さんもまんざらじゃないみたいね」
「……ありえないことは望むものじゃないわ」
「彼と空さんの子供ね……。色々と期待が膨らむわ。そうだ!男の子だったら、娘の許嫁にでも……」
「残念だけど無理よ。私が普通じゃないのはわかってるでしょう?」
「……そうだったわね。忘れるぐらい、自然よね」
薫さんが悲しそうな表情をしている。
「あなたのせいじゃないんだから、気にしても仕方ないわよ」
「でも、色々とね……」
「心配症ね」
「長い付き合いだし」
そう言いながら、またも卵焼きを頬張っていた。
気に入ってくれたのは嬉しいわね。
「空お姉ちゃんはやっぱり……結婚とかしたいの?」
「……直球ね」
「!?」
薫さんが卵焼きを喉に詰めたのがわかる。
「はい、お茶よ」
「ん……ん………はぁ……。卵焼きに殺されるかと思ったわ……」
「斬新な死因ね」
「斬新もなにも嫌すぎるわ……」
薫さんが落ち着いたので、奏の方を向く。
「私が普通なら、結婚も考えるとは思うけど……」
私は愛情を心の底から持ってはダメだから。
だから、普通じゃない。
「普通じゃないからダメね」
「そっか……」
奏が少し俯く。
「だから、そんな……」
「でも、空お姉ちゃんが愛情を持たなければ、大丈夫だよね?」
「……真顔でとんでもないことを言うわね」
「爆弾発言なんて生易しいわね」
「………」
新人さんは頷きながら、食事を取っている。
「それ、結婚っていうのかしら?」
「えっと……たぶん?」
「言わないわよ……」
「既婚者からの意見で、奏の意見は却下よ」
ほんと、この娘はとんでもないことを言うわ。
天然って怖いと心底思うと同時に心配になる。
「空お姉ちゃんの子供が見たいのなら、そこの男……ううん、種馬をあてがえばいいんだ?」
「ちょっ!?」
「ぶっ!」
私は新人さんが吹いた味噌汁を派手に被るのだった。
やっと更新できました。
こちらの小説も主に書いている小説と同じでその都度書いています(なろうの保存機能は使いますけど)。
大人しい雰囲気の奏ですが、注意しないと危険だったりします。
猫を被っているわけではなく、完全に天然です(悪意のない)。
次回の更新は書き終わり次第となります。