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第11話:第二皇子リュシオン

長らく停止していましたが更新を再開します。それほど長いお話では無いので、最後までお付き合いいただければ幸いです。

 僕がアルフレド皇子から過剰すぎるドレスのお返しを貰ってから数日、状況はさらに加速していった。主に悪い方向に。


「お、おはようございます皇子」

「ああ」


 僕が森に誘ってからというもの、皇子はやたら早起きするようになった。


 それまでは日の光が苦手だのなんだの理由を付けて、夜遅くまで本を読んで、好きな時に起きて好きな時に寝るみたいな生活をしていたっぽいのだけど、よく分からないけど今は毎日僕が起きるのとほぼ同時に起きているらしい。


 そして、今まで僕が着ていた国から用意されたドレスとは違い、皇子から無理矢理押し付けられたドレスを身に纏い、彼の元に挨拶に行く。来いと言われてるんだから仕方ないでしょう。


 もちろん、バレないように着つけはミカにやってもらうのだけど、服の構造が複雑すぎて最終チェックは皇子のメイドがやる。この時にバレないかひやひやするのだけど、男だと思われている様子は微塵もない。

 嬉しいような悲しいような微妙なところだった。


「……今日は空色のドレスか。お前には寒色系はあまり似合わんな」

「はぁ、そうですか……」


 皇子は毎朝僕を部屋に呼び付け、ドレスチェックをする。

 そして凝視したあと、シンプルな感想を述べる。


「すまんな。やはり急場凌ぎで選んだ物だから、あまり似合うものがない。今、追加分を発注しているところだ」

「また注文したんですか!?」

「安心しろ。ちゃんと装飾品の類も合わせて注文しておいた。家具なども上質な物を揃えている最中だ」

「……はぃ」


 なんかもう感覚がズレすぎていて突っ込む気力すら失せてきた。

 僕は近いうちにフェードアウトする予定なんだから、いくら皇子のポケットマネーといえど無駄遣いをしないで欲しい。


 ともかく、僕としては皇子を騙しているようで申し訳ないのだけど、一応、僕が皇子のお気に入りだという事にはメリットもあった。


 というのは、田舎の第二王女が皇子のいけにえになってくれているお陰で、他の国から集められたやんごとなき方々が安心している事だ。


 いつ自分が皇子の生贄にささげられるかと不安で仕方なかったみたいだけど、僕にご執心な事が周知されてきているせいか、各国の貴族様達は若干余裕が出てきたらしい。


 今までは熊の襲撃に怯え、巣穴に引っ込むウサギみたいに怯えて暮らしてた人達も、今では少しずつ外に出て交流を深めあっているらしい。昨日の昼も、僕の知らない女性陣がお茶会を開いているのを見た。


 もともとこの後宮はとても美しい造りだ。なのに、僕が来た直後は墓場みたいな雰囲気だったけれど、今は少しずつ緩和されてきている。墓場から療養所くらいにはなったのではないだろうか。


「そうだ、お前に言っておかねばならない事がある。今日、俺は少々用事があってな。森に散策に行ったり、本を読みに行ったり出来んのだ。残念だが諦めてくれ」

「本当ですか!?」

「……お前、喜んでいないか?」

「い、いえ。そんなことないですよ?」


 別に皇子が嫌いというわけではないのだけど、何だか最近妙に呼び出しをくらうので、いつ男だとバレるか不安で仕方ない。気に入られた状態でバレたら間違いなく惨殺されるだろうし。


「とにかく、今日は丸一日手続きで手が離せんのだ。その前に、一度お前の顔を見ておきたくてな」


 皇子はそう言うと、すぐに立ち上がって部屋からさっさと出て行ってしまった。

 僕みたいな辺境の第二王女もどきを自室に一人でほったらかしにしていいんだろうかと思ったけど、ここにいても仕方が無いので、僕も皇子の後にすぐ自室に戻った。


「きっと照れ隠しよ! お兄ちゃんと皇子の間に愛が芽生え始めたわね!」


 自室で待機していたミカにその事を離すと、大興奮でわけのわからない事を言い出した。


「そんなこと無いって」

「いいえ! 絶対にそうよ! だって、自室って動物で言うと自分の巣だよ? そんなところに無関係な輩を置くわけないじゃない」

「そりゃそうかもしれないけどさ」


 確かに、皇子が僕に対して警戒心を緩めているのは分かる。まあ、皇子が警戒心を無くして僕に近付くほど、僕は男だとバレないように警戒心を高めないとならないんだけど。


「皇子の孤独な巣が、これからお兄ちゃんと皇子の愛の巣になるのね……」

「訳分からない事言わないで」


 ミカは一人で妄想猛々しくまくし立てる。こうなるともうどうしようもないので、僕はミカを放置し、後宮内を散策する事にした。


 これまでほとんど見かけなかった他の国々の高貴なる方々と、割と多く出くわすことに驚いた。

 そして、僕が通るたびに向こうの方から会釈をしてくるので、僕の方も慌てて慣れない会釈を返す。


「本当なら、僕なんか見向きもされないだろうになぁ」


 僕は広々とした渡り廊下に辿り着くと、巨大な柱に身を委ねて溜め息を吐いた。

 本来、僕の国の、しかも第二王女なんか彼女達から比べたら鼻で笑うレベルなのだ。


 けれど、皇子のお気に入りであり、同時に生贄に一番近いポジションであるのもあって、他の方々も同情と畏敬の念がないまぜになった感じなんだろう。


「そういえば、ジャンはどうしてるかな?」


 後宮に押し込められてから、ジャンにほとんど会っていない。

 ジャンはあくまで護衛兵なので後宮までは入れない。


「……僕の方から会いに行ってもいいかな」


 今日は皇子も一日いないみたいだし、ジャンはミカから状況報告をさせるようにしてるんだけど、やっぱり直接会って話をしたい。


 リリィ王女も縦ロールさんも見当たらないし、そもそも僕はここにいてはいけない人間なのだ。

 むしろ、積極的に外に出ていく必要がある。そろそろ帰る準備をするなら、ジャンにも準備をしておいてほしいし。


「よし、今日はちょっとだけ外に出よう」


 僕は久々に後宮の外に出るために、入口の馬鹿でかい門の所へ向かった。

 ところが、僕の計画はあっさり頓挫(とんざ)した。


「なんじゃこりゃあ!?」


 思わずお姫様っぽくない声を出してしまった。

 でも無理もない。だって、入口の部分に戦争用みたいな巨大な馬車が、大量に並んでいたのだ。

 鉄製の巨大な箱がいくつも並んでいて、引っ張っている馬の量も尋常じゃない。


「え、えらいこっちゃ……戦争だ」


 とてもじゃないけど外に出られそうな雰囲気じゃない。ていうか、あの巨大かつ大量の箱は一体何なのだろう。


「そこの姫! そんなところに立っていては邪魔だ! どきなさい!」


 僕が呆気に取られていると、不意にそんな声が聞こえてきた。

 馬車の周りには馬やら、それを管理している兵士や御者などがわんさかいたが、声の主は外見からして明らかに身分が違うのが分かった。


 背はそれほど高くないが、はっとするほど綺麗な顔立ちをした金髪碧眼の少年だ。全体的に白っぽい服を着ていて、彼の髪や美貌をさらに引き立てている。あどけなさがまだ抜けきらない、これから青年になろうとしている男の子という感じ。


 あれ、この男の子……どこかで見たような。


「危ないと言っているだろう……ん? そのドレスは……し、失礼しました!」

「えっ?」


 面倒くさそうに近寄ってきたその男の子は、僕を、というか僕のドレスを見るや、急に頭を下げた。


「すみません。知らぬとはいえ無礼を働いてしまいました。どうかお許しください」

「いや、私、あなたのような身分の方にそんな謝られる立場じゃないですよ?」


 服装からして最高級品だし、第一、あの大量の人間を引き連れて来たのは間違いなくこの男の子だ。相当に身分の高い人なんだから、後宮に入ってるモブ姫もどきなんかに頭を下げるなんてありえない。


「いえ、そんな事はありませんよ。そのドレスは、兄さんが送れと言った物ですから。あなたのお話は手紙でよく書かれていますよ。シャルロット王女」

「兄さんって……まさか」


 そうか、ようやく合点がいった。

 どこかで見たと思ったけど、この男の子、皇子の部屋に飾ってあった肖像画にそっくりだ。

 僕が目を丸くしていると、おかしかったのか男の子はくすりと笑って、こういった。


「初めまして。僕はヘルシャフト帝国第二皇子、第一皇子アルフレドの弟。リュシオン=ヘルシャフトと申します。お会いできて光栄ですよ。シャルロット王女」


 リュシオン皇子は、アルフレド皇子とはまるで違う、人懐っこそうな微笑みを浮かべ、僕の手を取った。

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