背後の男
なんかまた……ゴメンナサイ
短編シリーズ 第3弾
どうして俺はこんなにも油断するんだろう。
「うぉらぁぁぁ!!!」
「ぐっふぅぅぅうああああ!!!」
俺の名前は佐々木。背後には最善に気を配らなければ、今みたいに殴られてしまう。
なぜ狙われているのかはわからない。
だが狙われているんだ。『背後の男』 に。
「いてて……今日も今日とていい拳っすねぇ……あの、そろそろ教えてくれないっすかね。なぜ俺を背後から殴りかかってくるんですか?」
男は答えない。
不思議なことに、殴るときの「うぉらぁぁぁ!!!」という声以外は全く存在が感じられないのだ。
後ろを振り向くのも気が引ける。
もしも振り向いた瞬間に殴られて、歯や鼻が折れてしまう……なんてことを考えれば、そんなことはとうていできない。
そんなわけで俺は、この「うぉらぁぁぁ!!!」の声と、存在しているか分からない男とともに、後頭部を殴られながら1週間近く過ごしている。
そして俺は当たり前のことに気づく。
鏡を見ればいい!!
そうすれば、後ろの謎の正体がわかる。どんなおっさんが俺を執拗に殴ってきているのか、一目瞭然だ。
俺は早速、鏡のある場所へ行く。
近くにスーパーがある。トイレの鏡を見に行こう。
俺はさっそくトイレのドアを開け、鏡を見ようとした。
その瞬間、
「うぉらぁぁぁ!!!」
「ぐっはぁぁぁららららぁぁあああ!!!!」
俺は後頭部をいつもより強めに殴られ、気絶した。
目が覚めた。場所は変わっていない。おそらく気絶していた時間は、そう長くはなかったのだろう。
そして俺は諦める。背後の正体を暴くことを。
これからもきっと、俺は『背後の男』に殴られ続けるだろう。
その正体を見ることは許されない。そうしようとすれば、さっきのように気絶させられるのだろう。
鏡のない人生。けっこうきついかもしれないが、それもまぁいい。
『背後の男』よ。俺がヘマしたときとか、身だしなみがちゃんとしてないときとか、とにかく、お前にしか見えない俺の欠点を見たとき、
すぐに俺を殴ってくれ。そして教えてくれよ。
そのときには、今度は俺が、俺自身をちゃんと見つめ直すから。
これからもよろしく。『背後の男』よ。
最後まで読んでいただきありがとうございました。




