第9話 彼にとってのつまらない
『プレイヤーが減りました。』
俺が目覚めるとその通知が入っていた。
また1人、減ったのか。
残りは2人、ここに身を潜めていれば大丈夫だろう。
俺らは2人で生き残ってみせる、そう誓ったんだ。
「そういえば、相変わらずレンくんの才能は何も起きない箱を出すだけなの?」
「それを言うな、それを。俺だって少し気にしてんだよ。せっかくこの世界に来たのに、こんな役立たずな才能なんてさ。」
確かにこのステージの才能自体がショボイのも理解してはいる。
それでも最低限、シーナみたいに役に立つ才能が欲しかったよ。
俺らの日課としては朝ご飯を食べたり支度が住んだら建物の屋上へと行く。
そうするとちょうど荒れ果てた街が見えるのだ。
その中心あたりにあの時のレベルunknownが座り込んでいる。
「ずっとああしてるよね。」
「ああ。少なからず俺らが起きてる間は微動だにしていない。」
何か不具合でもあったのか、やつは全く動かなくなっていたのだ。
それとレベル測定は視界に入っていれば可能なようで、俺らはここから奴のレベルを確認するが。
20まで上がった今でもやつはunknownのままだ。
あいつはレベル120以上って事なんだが、やっぱり不自然だと思うんだ。
同期のプレイヤーしかいないはずのこの世界にそんな奴がいるのが。
もしかしたら俺らみたいに人間以外を殺してって可能性も考えたが、1日も経たずにレベル100を越えてた事になる。
それはもっと考えにくい。
説明書にあいつが何なのかを聞いてみたんだが、
『他プレイヤーに関する情報は一切口外できないので。』
なんて返されてあいつについてわかった事は、あいつもプレイヤーだということだけだ。
「あの人も何か理由があってここにいるのかな。」
「……理由?」
「あ、私の勘っていうか、そう思っただけなんだけどね。ほら、あの生き物とかも意図しているから。もしかしたらあの人も何か意図的にここにいるんじゃないかなって。」
意図的に……か。
そうなるとゲームを盛り上げるための一つの仕様って事もありえる。
全く未知だった存在が少しだけ理解出来た気がした。
「ありがとう、シーナ。その可能性は有力だと思う。」
「力になれてよかった。勘だけどね。」
勘でも、それは限りなく真実に近いものな気がした。
だから、俺は救われたんだ。
俺は彼女のそういうところに惹かれていってるのかもしれない。
そんな気持ちを胸にしまって、俺は今日も1日過ごそうとしている。
×××
「(みんな、どこかで期待してたんじゃないかな?僕みたいな嫌な奴がランク1ではもう出ないんじゃないか、ってさ。残念だけど……もう少し付き合ってもらうよ。僕の、エンターテインメントにさ。)」
僕はあれから彼に近付くのもやめたんだけど、それから何人か殺してね。
残りは12人、その内の1人が僕の前に立っていた。
彼は僕を殺す気のようだね。
でも、無駄だよ。
誰も僕を殺せないはずさ、ただ1人を除いてね。
「俺の才能上、俺が負けるのはありえない。そう、だから温存してきたんだ。」
「へー、じゃあ君はこれが初めてって事かな。」
なんだ、これは非常につまらないゲームになりそうだ。
君の"才能"なんかはどうでもいいんだよ。
僕は君を殺せる自信がある。
それに僕はこの世界の"神"を目指してるんだよ。
君のようなプレイヤーに負けるようじゃ僕は到底"神"なんかになれっこない。
このランク1の中じゃ僕は既に無能者で、他は有能者だ。
だけど、そんなアウェイは何度も越えたよ。
現に僕は5人殺してるんだ。
有能者を、さ。
だから、いくら"才能"に自信のある彼でも僕の前じゃ無力なんだよね。
「じゃあ、死んでもらうよ。」
僕はナイフを右手に構え、上げたステータスを駆使し迅速に距離を縮める。
「な!?速い……。」
ナイフが……通らない?
彼の数センチ前で僕のナイフは止められていた。
薄い膜のようなものが壁となり、僕の進行そしてナイフを妨げているんだ。
「俺の才能は『守』、計30分間バリアを張れる能力さ。まあ、バリアを張ってる間はこっちも攻撃できないんだけど、それでも俺のタイミングでバリアを消せばお前の体勢は崩れる。俺の勝ちだよ。」
彼は非常にバカだ。
僕はナイフを降ろし、少し下がる。
ここまでは彼の予定通りだろうね、そのままナイフを当てられるのであれば、不意にバリアを消して僕に迎撃。
僕がこうして離れるのであれば、それを追撃して殺す。
実に単純だ、どうせここで僕がナイフを振り上げてもバリアを張れるようにしているんだろうね。
とんだ茶番だよ。
君にも、彼のようなワクワクは実現出来ないんだね。
彼は実に素晴らしかったよ。
僕の望んだ通りのプレイヤーだった。
ああ、もう1度彼とゲームがしたいな……。
そのためには、前提としてここを生き延びるって事なんだけど。
"神"を目指してる僕がこんなとこで終わる事はありえないんだよ。
僕は身を引きながら、ナイフを持った手を上げる。
彼は僕のその手を見つめている、そうだよね。
だって君が警戒してるのはナイフだけだから。
僕はそのまま腕を大きく上へと振り上げ、ナイフを投げる。
彼の顔は明らかに予想外の事が起きた時の表情だった。
「嗚呼……。やっぱり君は、つまらないよ。」