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第68話 ウルフ

「お前が……操り人形(マリオネット)か?」

その格好は完全にピエロカラーで、仮面から服装、靴と至るとこまで誰もが想像する道化師だった。

観客席に他のプレイヤーはヒナ以外いない状態なのも気がかりだ。

「それとなんで観客がいない?不都合でもあんのか?」

「その通りです。私操り人形(マリオネット)はあまり顔を知られたくないのです。」

「だから観客がいないのか。」

「ええ。」

奴の固有才能(アイデンティティ)について聞き出したい所だが、喋ってくれるわけないか?

とりあえず、と言わんばかりに俺は尋ねるだけしてみる。

「お前の固有才能(アイデンティティ)って何なんだよ。」

「私の、ですか。私がプレイヤーネームのわかる者の首に触れる事で操作権を得ます。肉体的に操作が出来るものでしたら何でも自由自在になる素晴らしい才能ですよ。」

あっさりと吐きやがった。

プレイヤーネームがバレてる時点で俺も最早対象だということ。

それは同時に奴がほぼ勝ちを確信している。

だからこその余裕、そういう事か……。

こいつは俺の予想では都合のいい事しかしないだろう。

この戦いもそう、何かしらこいつに都合がいいからやるのだろう。

そういう無駄がない感じ、嫌いではないけどな。

ヒナを使った事を俺は絶対に許さない────。


×××


「まあまあ、これは単純なゲームです。あなたが勝てば彼女は解放しましょう。」

「お前の意思で解放するわけじゃないだろ?単純に俺が死んでヒナがそのまま、お前が死んで解放されるか。ただそれだけだろう。」

「話が早いですね。」

何が何でも今回は助け出す。

ヒナを2度と放さない。

今回は前とは違う、助けられるんだ。

なら諦めるなんてのはおかしな話だろう。

「御託はいい……さっさと始めるぞ。クソ野郎。」

こいつで『ウルフ』の試しもしてやるか、なんて余裕すらある俺だ。

やつの能力を聞いた感じだと首を触られなければ負けない。

そういう事だろう?

なら、俺は負けない。

まずは手始めに数の力ってやつを見せてやるとするか。

俺の背後から俺が2人現れる。

「ほう?分身ですかな?」

「ご名答。お前もご存知の固有才能(アイデンティティ)ウルフで出来る一芸ってところだ。」

実際、このまま分身に戦わせてしまえば良いだけなのだから楽なものだ。

「いやぁ、これはありがたい。試してみたい事があったんですよ。」

ハッタリの様にも聞こえるが、何しろ顔が見えないものだから、真意は全くわからない。

どちらにせよ、分身に戦わせれば一件落着だろ。

俺は2人の分身を操り人形(マリオネット)へと突進させていく。

分身にはそれぞれ意思があり、俺の指示に従いそれぞれの意思で動く。

「私にとって重要なのは実体。それがあるかどうかです。」

操り人形(マリオネット)はするりと分身を避け、その首にそっと手を触れた。

途端に自分の指示が通らない事に気づく。

「まさか……お前っ!?」

間違いない、あいつは分身のコントロールすら乗っ取れるんだ。

完全に肉体のみを操る……実体があるかどうかが重要……そういう事か。

ヒナが全く抵抗出来ないのも納得が行く。

むしろこの世界じゃ才能が絶対だ。

当たり前と言えば、当たり前なのだろう。

俺は分身を消す。

どうせいても奪われるのなら作り出す必要もないよな。

それにしても固有才能(アイデンティティ)は凄すぎるだろ……。

俺のウルフだが、分身の他にも嗅覚や視覚、聴覚まで強化されている。

他にもまだあるようだ。

強化された嗅覚や聴覚を使って辺りは手当り次第に確認したが、罠などはないようだ。

実力で勝つつもりだ、という事か?

狩りのための力としては最高クラスかもしれないな。

今目の前にいる奴を『狩りたい』、ただそう思っているだけで動きがよめるような感覚に落ちている。

敵がどうしようとするかが何となくわかる。

観察眼によるものなのか、他のなにかなのか。

どちらにしても非常にやばい状態だろう。

相手の動きがよめる、なんてのはゲームバランスとしてどうなんだ?

もしかして固有才能(アイデンティティ)ってみんなこんな次元なのか?それはそれで冗談じゃないぞ……。

「お前、どうやって俺に勝つ気だ?レベルを見ても大差はない。罠などがある気配もない。」

「罠……?そんなもの必要ありませんよ、私はあなたに勝つ秘策がありますから。」

俺に勝つ秘策?才能的にも俺に勝つための一手とは考えにくい。

……ハッタリ。

それが妥当だろう、奴はそうやって俺を惑わす事で勝とうとしてたんだ。

ある意味、秘策は既に使われていたって感じだな。

「そんな安い脅しで負けるほど俺は弱くねぇよ!」

俺は小型のナイフを出し、操り人形(マリオネット)を押し倒す。

そのまま両腕を固定するように膝を乗せ、首元にナイフを当てる。

完全に勝ちが決まった体勢だ。

これで負ける方が可笑しいだろう。

「何が秘策だ……。これで終わりじゃないかよ。」

「終わり?あなたはあれ(・・)を見ても同じ事を言えますか?」

「悪あがきもいいところだ。」

そうは言いつつも仮面の下から見える目線の先に目をやる。

そこにはコロシアムから飛び降りようとするヒナの姿がある事に気付く。

「なっ────」

「気付いたなら早くどいた方がいいのでは?落ちてしまいますよ、彼女が。」

「てめぇ!最初っからそのつもりでっ!」

「早く。」

「……っ!?」

俺はナイフを捨て、立ち上がり距離を取る。

確かに秘策だ。

こいつは最初っからヒナを利用して……。


そして、俺は気付く……とても微かなものだったが、それに気付けた。


これが俺の最後の一手、勝利の一手。


俺は強く踏み込み、吠えた(・・・)

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