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 所変わって、シリルの屋敷の客室にて。シルヴァン王と拓斗は話をしにきたのだが、

「うえぇえええんんっ、ひっくひっく」

 シリルが部屋の隅で泣いていた。

 それをシルヴァン王と拓斗は一瞥して、すぐに何事もなかったかのように、

「それで、新たに発覚した……」

「酷いです、シルヴァン王様も、拓斗様も、何でこんなに可愛い僕が泣いているのに無視するんですか!」

 シルヴァン王が何事もなかったかのように話を始めたのでシリルが、責めるように叫んだ。そんなシリルを再びチラッとシルヴァン王は見てから、

「それでその発覚した事実が……」

「また無視した、ふえええんんっ」

 泣き出すシリルに、シルヴァン王と拓斗が嘆息して、拓斗が、

「かまってちゃんは嫌われるぞ」

「何処がですか! 僕は、僕は本当に悲しんでいるのに!」

「フルールに逃げられる程度、よくある話だ。シルヴァン王がエーファに逃げられるのと同じく」

 おい、今聞き捨てならないことを言っただろう、我が神よと怒り出すシルヴァン王も無視する拓斗。理由は単純だった。

「……俺は、お前達二人が恋人を一生逃げられないようにする準備だけは淡々と行っているのを知っているんだぞ?」

「「……」」

「それであえてやらないのは本人の意志だ。しかも捕らえる道具を集めてひとしきり暗く嗤ってから『やっぱりこんな事をしたら嫌われるよな……』と一人でブツブツ言っているのも知っている」

「「!」」

「他には、自分の恋人に似た相手を囲おうとするが、どれも恋人以上になれる人に出会えないと嘆いでダメになったり……まだ聞きたいか?」

「「遠慮します」」

「ではその話を、エーファとフルールに告げ口して欲しいか?」

 拓斗の言葉にシルヴァン王とシリルは勢い良く首を横に振った。

 それを見てから拓斗は、

「それで、早く話を」

「さすが我らが神。全てお見通しとは……ですが恋人に対してやきもきするのは当然なのです。分かってはいただけますか?」

「それは分かる。だが俺は結衣と一緒にいる時間がもっと欲しいから話を早くしてくれ」

「……なるほど」

 シルヴァン王がなるほどと頷いてから、

「その歪みですが、特に魔王と人間の国の境界の海域に特に集まっているようです」

「あそこか……」

「ご存じですか?」

「昔魔族だけがこの世界にいた頃に栄えていたが、色々やって自滅した都市が沈んでいる場所だ」

「そうですか……魔族だけがいた頃ですか」

「……あの頃俺も若かったからな。まだきちんと仕事をしていたし」

「でしたらまたきちんと仕事を……」

「本当にそれでいいのか?」

 拓斗のその問いかけにシルヴァン王は肩をすくめる。

「……お断りですね。俺はエーファが好きですし」

「今で上手くいっているなら問題ないだろう。それで話は終わりか?」

「いえ、他に新たに魔族が修正した歪みの場所を追加した地図です」

 そう言って拓斗に地図の紙を渡す。それを受け取った拓斗が、そこではっとしたように右斜め上の方を見た。

 けれどその意味を、その時拓斗は他の三人には言わなかったのだった。


 魔王城は、外見から見る分には魔王城っぽかった。

 黒を基調とした城で、大きくて牙をむき出しにした獣のような像が飾られている。

 これで空が鉛色の今にも地面に落ちていた雲で満ちており、しかも渦巻いていて稲光が走る……そんな以前ネットの画像検索で調べた、ダウンバーストのような世界が広がっていれば良かったのだが、青々とした空が広がっているのみだった。

 こんなお城とかになると私達の世界では文化遺産みたいなものになるんだろうなと私は思った。

 城と言うだけあってこった彫り物がされており、それらは後世に残されたなら貴重なものとなるものと伺える代物だろうなと伺える。

 そして中に入って行くと、花や果樹で満ち、噴水からは透明な水が流れ、木々のどこかで小鳥の囀る綺麗な場所だった。

「魔王城のイメージとぜんぜん違う……」

 私が周りをきょろきょろと見渡しながら呟く。

 よく手入れをされた庭園で、丁度時期なのか見るからに美味しそうな果実がそこら中にたわわに実っている。

 よく熟していて、その数つのにおいらしい柑橘系の香りが私の鼻孔をくすぐる。と、

「そうでしょう! 魔族の庭師が丹精込めて世話をしているから。人間の城などには負けないわ! しかもこの庭のあっちの方には温室があって、違う時期の果実も花も愛でられるのよ! 後で案内するわね」

 嬉しそうにエーファが私に言うので、その時はよろしくお願いしますと答えながらも私は、今とても気になっている別の事をエーファに問いかける。

「ところでその、私は何で連れて来られたのでしょうか」

「嫌がらせと、この前のお礼を貰っていないからよ」

「びくっ」

 笑うエーファに私はビクッとするがそこでフルールが、

「エーファ様、結衣様は拓斗様が気にかけておいでですので手出しは……」

「そうだったね。でも結衣とは特に恋人同士というわけではないのでしょう?」

 話を振られた私は、当り前ですと答えながらも、何故か胸がチクリと痛む。

 気のせいだと思いながらも、その痛みは小さいながらも私を苛んでいた。

 それに気付いているのかいないのか分からないがエーファは私を見て、

「でも、少しぐらい可愛がってもかまわないわよね。とりあえずは……フルールといったかしら、一緒にお茶会でもどうかしら」

「……私もですか?」

「ええ、でなければお願いされても連れてきなどはしません。一緒にお茶会をして……恋人というか口説いてくるあの男共への愚痴で盛り上がりません?」

「ぜひ!」

 フルールとエーファはノリノリだった。

 それに私は、私が連れて来られたって意味ってと思っていると、そこでエーファとフルールに私は両方の腕を掴まれて、

「さあ、私は後学のためにも悪い男に引っかからないように、結衣達の愚痴に付き合ってもらいましょうか」

「そうです、これは結衣様のためなのです」

 口々に言う二人に、私は嫌がらせと愚痴を聞かされるために連れて来られたのかと、悲しさを覚えていると、

「でも愚痴は長く話したいわね。では先に結衣をここに連れてきた理由だけは話しておきましょうか。最近歪みがある一箇所に集まるように強くなっている件が一つ。あと、あの自堕落な神の力と同じものが結衣には使えるようだから、効率的に使う方法をあとで教えようと思ったの。こちらの魔族と連携したいし。でないと……シルヴァン達に危険が及ぶし」

 さりげなく惚気けるエーファに、やっぱりあの人が好きなんだと思う。

 これはあれか、ツンデレという素直になれない乙女心のようなもの? なのかと私は一人で納得した。

 同時に私は、力の使い方を教えるために連れて来られたのか、愚痴を聞かせるためだけじゃなかったのかと安堵をおぼえる。

 こういった恋愛の愚痴は、同意はできないのに、その場の雰囲気で同意しないと駄目な同調圧力のようなものがあるから私は苦手なのだ。

 いっそ私も恋人を作って愚痴を共有できたなら楽なのかもしれないが、私の中では恋人と言うには拓斗は私の中で大きな存在ではない。と思う。多分。と、

「しかしあの自堕落な神も大事にしているらしい結衣を連れさらわれたら焦るだろう。そう思うとおかしくて堪らない、くくく」

 笑うエーファに、この人も何だか性格が歪んでいるなと他人ごとのように感じていると、

「じゃあ力の使い方の説明や我々との連携は、魔法に詳しい私達魔族が後で細かく教えるから、まずは……お茶会ね」

「……え? 先に魔法の説明とか練習とか」

「面倒なことは後回しにする主義なのよ。さあ行くわよ。美味しいお茶とお菓子を用意してあるからね」

 促されて私は城の中へと向かっていく。

 そうされながら私も、このエーファって魔王も色々と一杯一杯なのかなと思ったのだった。


 テーブルに並べられたお菓子と紅茶、砂糖漬けの花が飾られたケーキに、紅茶らしきものには薄切りされたレモンのような芳しい香りの果物が浮かべられている。

 その側には一つづつ水玉模様の紙で包まれた角砂糖が二つ添えられている。

 それを見ながら私は思った。

「……女子会?」

「結衣は甘い物が嫌いなの? だったら、塩っぽいお菓子……お酒のつまみのようなものが良かったかしら」

「いえ、そういうわけではないです、普通にケーキとか甘いものが大好きです」

 ただこう、何となくだが気後れする。

 やっぱりこう、勝手に連れてこられると緊張するというか……と心の中で自己主張する私だが、目の前に切り分けられたケーキとたっぷりの生クリーム、添えられた緑色の清々しい香りのする葉っぱに砂糖漬けの花……食欲の前に、私のプライドは瓦解した。

「いっただっきまーす。ぱくっ……お、美味しい」

「ふふふ、うちの菓子職人が腕によりをかけて作ったものだからね。フルール、貴方は食べないのかしら?」

「いえ……お二方よりも先に頂くのは……もぐっ」

 そこでエーファが、ケーキを一口サイズにとりわけ、フルールの前に差し出す。

 次いで、何か魔法を使ったかのように私には見えたが、もぐりと一口。

「……これは」

「美味しいでしょう? うちのとっておきなのよ? 秘蔵のレシピで作ったケーキ」

「あ、後で作り方を教えて頂いてもよろしいですか?」

「あら? 構わないわよ?」

「ありがとうございます。シリル様がこういったケーキはお好きなので」

「シリルは確か貴方の恋人……のようなものだったわね。そういえばあのシルヴァンもこのケーキが好きで以前作ったわね……」

「そうなのですか? 好き嫌いが多いと聞いていますが」

「ふふ、私が作ったものは食べてくれるの。案外可愛い所もあるのよ、シルヴァンは」

「……羨ましいです」

「……シリルは貴方の恋人なのでは?」

「……私は未だ認めていいのかまだ迷っています」

「でも好きなんでしょう?」

「……はい」

 といった惚気のような会話がかわされた。けれどすぐに二人して俯き、

「こんなに可愛くて甘い物が好きなのに中味は全然甘くなくて、この前なんて私をだましてずっといちゃいちゃしたままアイツ仕事をしやがったし……」

「分かります。私もこの前なんて……」

 そう二人は呟きながら、ケーキにフォークを思いっきり力を込めて突き刺した。

 そしてそのまま八つ当たりをするようにガツガツと食べていく。

 その男らしい雰囲気に私は何も言えずに、ちまちまと食べていく。

 美味しいケーキなのだがその鬼気迫るような表情で食べながらこぼす愚痴が、私には恐ろしくて、味が少しわからなくなる。

 そして赤裸々に語られるその裏側は、初心な私にはきつかった。

 なので私は何も聞こえないと心の中で繰り返しながら、ケーキをつついて食べていると、気づけば二人がじっと私を見ていた。

「な、何でしょう」

「いや、可愛いなと思っただけ。そう思わない? フルール」

「そうですね、可愛らしいですね」

「……綺麗なお二人に言われても嬉しくないよ」

 それを聞いた二人はじっと私を見つめて、次に二人は顔を見合わせて、そしてエーファが、

「結衣は、あの拓斗という神と恋人同士なんじゃないのかしら?」

 そうに問いかけられ、どうしてそうなったと私は思う。その私の様子にエーファは、

「二回もカマをかけてみたのだけれど、その様子ではそうでもないらしい」

「は、はあ……」

「なので今後のためにを我々の愚痴を聞くべきだと思うわ!」

 結局は愚痴を言いたいだけなんだなと私は思いながら、拓斗の恋人と言われて、意外にも嫌悪感を感じない自分に気づいた。

 ちょっと待てと私は心の中で焦りを覚える。

 目の前でエーファとフルールが愚痴をこぼしているが、それも私の耳にはいらない。

 もしや、無意識のうちに自分は拓斗を求めていたのだろうか?

 いやいやそれはないと私が小さく呟いていると、

「……でもシルヴァンは、私にだけは特に優しいんだ。それにイザという時にはすごく頼りになるし、私よりも時々考えていることがあるし」

「分かります。ああ見えてシリル様、誰にでもいい顔をしているように見えて実は気を許していなかったし、でも私にだけは本当に甘えてきて。しかもイザという時には次々と手を打ったりその前から裏で手を回していたりと、主としては惚れ惚れとするような……」

 気づけば愚痴から惚気大会に変わっていた。それを聞きながら私は拓斗を思い浮かべる。確かに拓斗は優しい。けれどそれは私がこの世界の歪みを治すのに必要で、だから優しいだけなのだ。そう思うと胸が痛む私。

 ただ今の会話から、いざという時に拓斗が格好良いかどうかについて考えて、

「気のせいだった。うん」

 そこまで大変な目にあっていないからかもしれないが、拓斗がそこまで格好いいとは思ったことはない。気のせいだったわと安堵しながら私はケーキをつついていて、その味に舌鼓を打つ。そしてその間にも、フルールとエーファはえんえんと惚気話を繰り返していたのだった。


 そんなエーファ達が惚気話をしている頃。

 その部屋の外で、シリルとシルヴァン王が壁に耳をつけて、中の話を聞いていた。

「エーファ、そんな風に俺の事を思っていたなんて」

「フルール……やっぱり僕と、両想いなんだね」

 嬉しそうに聞いている二人。ゆるみきっただらしない表情の二人は頬を染めながらそれを聞いており、惚気話をしているフルールやエーファが今の状態を見たならば百年の恋も冷めるような様相だった。

 因みに先ほどから魔族の使用人達がちらちらと様子を見ながら何も言わずに去っていく。声もかけず何事もなかったように去っていく魔族の使用人は、もう少し声を上げて行動に移すべきだと常識的に考えれば思うだろう。

 だが拓斗は知っていた。

 いつも魔王のエーファがこの魔王城に、シルヴァン王と喧嘩して怒って帰ってくるたびに、海峡を船で渡ったシルヴァン王が一戦やらかして帰っていくことを。

 もちろんこの世界でトップクラスの二人が戦えば城が無傷で済むはずはなく、そのたびに魔族の部下達が修繕を施していた。

 とはいっても毎回城が壊されるのが嬉しいわけではないので、今の状態は魔族の部下達にもとても都合のいい状態であったので誰もが見て見ぬふりをしていたのだ。

 元の鞘に収まるのだろう事が誰の目にも明らかだったから。

 ただ、この状態のままだといつまでたっても事が進展しないので、とろんとした夢見がちな顔で聞き耳を立てている二人に拓斗は、

「そろそろ部屋に入っていいか」

「「ま、待ってくれ、後少し」」

「よし、開けるか」

 二人が静止するまもなく開かれるドア。

 中にいるエーファとフルールが固まった。

 さあっとみるみる血の気が引いていく二人を私は視界の端で見てはいたのだが、やってきた拓斗の姿に一瞬迎えに来てくれたのかなとどきりとしてしまい、どうして自分はこんな嬉しくなっているんだろうと焦る。そしてこの部屋の主であるエーファが、指を震わせながら化け物か何かを見たかのように指さし、

「な、何で……」

 そんなエーファに拓斗が短く告げる。

「神である俺に出来ないことはない」

「……その力を少しでも歪みに注いでくれれば私は、魔王として、『愚昧なる人間共よ、我が前にひれ伏せ』と叫べたはずなのに!」

「知らん。それよりも結衣、何もされなかったか?」

 エーファをあっさり無視した拓斗が、まっさきに私に聞いてくる。

 拓斗は一番に私のことを考えてくれているんだなと思いつつ、それが何だか嬉しくなりながらも私は、

「うん、何だか私の力を効率的に使って歪みを修正したいんだって」

 それに拓斗は、そうかと特になんの感情も見せず、初めから知っていたかのように答えたのだった。


 それから何故か六人でお茶会になったわけだが、

「放せ、放せ、放せぇ~」

「やだ、いやいや、放してください!」

 エーファとフルールがじたばたしていた。

 それを抱きしめながら、シルヴァン王とシリル、二人とも、これまでにない幸せそうな顔しながらエーファとフルールに抱きついている。

 そのいちゃいちゃっしている様子は、見ている私が恥ずかしさを覚えるようなものだった。

 微笑ましいを通り越して、見なかった事にしたいレベルなのだが、きっと彼らは二人だけの世界に閉じこもっているのだろうから、私が何かを言っても止める事はないだろう。

 なので何も聞こえない、何も見えないと私は現実逃避していると、拓斗が私に、

「それで結衣、連れて来られて災難だったな」

「いや、うん……そうなのかな? でも歪みの修正に協力をして欲しいらしくて……」

「その話は聞いたのか?」

「うんん、まだ。まずは愚痴会になった」

「……惚気大会じゃないのか?」

「あれ? 拓斗聞いていたの? どこから?」

「丁度愚痴から惚気に変わる辺りかな。そこのシルヴァン王もシリルも壁に耳をつけて聞いていたし」

 その拓斗の言葉に、くるっとフルールとエーファが拓斗に顔を向ける。

 その表情は今なんて言ったといった驚愕で血の気が引いている。二人揃って蒼白な顔をしているがそこで、シルヴァンがうっとりとエーファを見ながら、

「あんなに俺を思ってくれているなんて思わなかった、エーファ、愛してる……」

 放せと先ほど以上に暴れるエーファを捕らえながら顔を近づけてキスをしようとするシルヴァン王。その一方で、シリルは、

「僕わかったんだ、相思相愛だって!」

「多分気のせいです、幻聴か何かを聞いたのかと思われます。ですから……」

「そんなこと無い。他でもないフルールの声だもの、僕が間違えるはず無いよ」

「……嘘です。絶対に、私は、シリル様を好きではありません」

「そんな可愛くないことを言うと、もっと酷くフルールを追い詰めて……僕の事を愛してるって言わせちゃうよ?」

「残念ですが今までシリル様にそこまでされたことはありません」

「へぇ? 手加減してあげていたのに、そんな事を言っちゃうんだ、フルールは」

「……エーファ様、こちらで私を雇ってはいただけないでしょうか」

 そこでフルールがエーファにそう切り出した。

 だがそこでエーファはシルヴァン王にキスされて何も言えなくなっていた。

 フルールの顔が赤くなり、私も顔をゆでダコのように赤くする。

 何とも言えない空気に包まれながら、そこでようやくエーファから唇を放したシルヴァン王。だが、

「……」

「ん?」

「よくも人前で……絶対に、許さないんだからぁあああ」

 そうエーファが叫ぶと同時に部屋が煙で満たされ、窓ガラスが二つ割れる音がした。

 すぐに、シルヴァン王が、

「エーファ、逃げられると思うなよ!」

「フルール、僕から逃げられると思っているの?」

 といった声とともに風を切る音が聞こえる。けれど私は煙で視界も悪くのどに詰まって息ができない。苦しいとぜいぜいやっていると私の手が誰かにつかまれる。

 気付けば部屋の外の廊下に拓斗と私はいた。

「拓斗、ここに移動させてくれたんだ」

「それはまあ、俺も苦しかったし結衣も咳き込んでいたからな。まったく、何をやっているんだか」

 嘆息するような拓斗の発言に、私はそうだよねと頷いた。

 ただあの二人が逃げ回っている内はまだ魔王上に滞在する羽目になりそうなので、

「折角だから魔王城を見て回ろうよ、拓斗」

 廊下に出た私はそう、拓斗に提案したのだった。


 魔王城の中は一通り見て回ったので、魔王城の庭にやってきた私と拓斗。

 花や果樹で満たされた美しい庭だ。

 この世界の花はよく分からない私なのだが、現実世界で見た事のあるものに酷似していて違和感は感じなかった。

 先ほどの部屋のお菓子をこんな場所で食べて、お茶会をしたら楽しいだろうなと私は思う。

 おそらくは人間側にあった動き回るココナッツプリンは無さそうなので期待できる……そう思った所ですぐ傍の木からオレンジ色の熟した果実が落ちてくる。

 それは地面に落ちると同時に、鳥のような足が生えていずこかへと走り去って行った。

「拓斗、今、オレンジみたいのが走って行ったんだけれど」

「あの種は熟しすぎて食べてもらえないと、自分で育つのに良さそうな場所までああやって走って行くんだ」

「……そうなんだ」

 それ以上考えずに私は、とても良い果物や花の香りがするとぼんやりした。

 風も温かくて気持ちが良いので、散歩するには丁度いい。

「いい天気だね」

「そうだな。私は晴れ女だからな」

「? そうなのかな?」

「そうだぞ、いつも一緒に出かけると、決まって晴れるからな」

「そうだったんだ。あ、そういえば私には記憶はないけれど、“友達”だったんだっけ」

 それに拓斗は黙ってしまう。けれどすぐに笑って、

「……ああ、そうだ。色々な場所に遊びに行ったんだぞ?」

「そうなんだ、何処?」

「遊園地に行った時は、ジェットコースターに乗った時の結衣の悲鳴といえば最高だった」

「私、絶叫系のマシーンは苦手なんだけれど」

「でも意地を張って大丈夫だって言っているので乗せたら……な」

「う、ぐ……どうせ拓斗が挑発するような事を言ったんでしょう!」

「なんだ、分かっているじゃないか」

「やっぱりなんだ。わかってるんだ」

 だって拓斗ってそういう奴だったし、そう私は思って首を傾げた。

 何かを思い出しかけたような、そんな不思議な感覚。

 夢の中で、分かっているのにその状況から逃げられないようなそんな感覚。

 なので試しに私はほっぺたを引っ張ってみた。

 痛いので、夢ではないのかと思う。と、

「どうしたんだ結衣、自分の頬を引っ張って」

「何となく夢の中にいるような気がしてさ。夢の中って、簡単に分かりそうなことも全然わからなくなったり、記憶が抜け落ちて変な事を言っていたりするんだよね」

「そうなのか? でも、きっとそれまで訪れたことがあったり、知っている人だったり、何気なく通り過ぎた風景だったのかもしれないぞ?」

「そうなのかな?」

「もっとも夢の世界は違う世界に繋がっていることが多いけれどな」

 そうなんだと私は聞きながら、側をフワフワと飛ぶ蝶に目を移す。

 黒に色とりどりの色が織り込まれた蝶。

 この世界にも超がいるんだなと私はぼんやりと思いながら私は背伸びをして、拓斗の二人っきりの時間がすごく心地良いことに気づいた。

 むしろもっと一緒にいたいような……まさかこれが、恋?。

 自分を茶化してみるが、それでもその気持ちは無くならなくて私は顔を赤くする。と、

「そろそろ戻るか。終わったようだし」

「……そうなんだ。二人とも捕まったの?」

「ああ。今二人ともさっきの部屋に向かっているみたいだ」

 あの煙に満ちた惨状を思い出して私はげんなりし、けれど拓斗とともに元の部屋へと向かっていく。

 とりあえずはドアをノックすると、

「……どうぞ」

 エーファが、出迎えてくれて、シルヴァン王がやけに機嫌が良さそうだ。

 フルールとシリルもいるが、フルールはといえば瞳に涙を浮かべて、

「……転職してやる。こんな上司のもとでやっていられません」

「フルール! 待ってよ、今、愛を確かめ合ったんじゃ……」

「一方的な愛をね」

「フルールぅ」

 いつもの事なので、それに関しては私は放っておいたのだった。そこで、

「結衣の力を借りてする方法について説明するから。……結衣、こっちへ来て」

「あ、はい。じゃあ行ってくるね」

 拓斗にそう告げて、エーファに連れられて、隣の部屋に連れて行かれた私。

 その部屋は寝室だった。けれど椅子と机もあったので、そちらに座る。

 そこでエーファが近づいてきて、そんな私の横にエーファも座り、私は手を握られる。

「じゃあまず、目をつむって」

「え、でも……」

「大丈夫、変なことはしないから。やり方を感じるにはこの方法が一番いのよ?」

 緊張しながら私は目を瞑る。と、軽く頭を叩かれたようなものを感じた。

「これで終わりだわ」

「あ、そうなんですか、お疲れ様です……えっと、エーファさん?」

 何故かエーファは手を話してくれない。そして、

「やっぱり可愛いわ。うちの部下に入れてマスコットにしちゃいましょう!」

「ええ! いえ、なんで私が」

「可愛いは正義なの! じゃあ早速約束を破ると命を落とす契約書にサインを……」

「そ、そんな恐ろしいものに名前書きたくないです! だ、誰かー!」

 突然の事にじたばたし始める私だが、そんな私にエーファは楽しそうに笑いながら、

「ふふ、この部屋の声は外に聞こえないのよ。だから誰にも気づかれないの……」

「という展開になるだろうと思ったので、あの神に協力してもらった」

 調子に乗ったように話していたエーファが、その声に固まったのだった。


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