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魔王様がほほえむ

 次の日朝、シルヴァン王が訪ねてきた。

 追い掛け回していた魔王エーファさんはどうしたんだろうと私が思っていると、

「エーファを放っておいてどうしたのか、と思っただろう」

「ええ! どうして分かったんですか?」

 まさか心が読めるのではと私が思っていると、シルヴァン王が嫌そうな顔をして、

「どいつもこいつも……俺がエーファに夢中だが、それしか頭にないと思っているのか」

 私は沈黙した。ここで、え? 違うんですか? などと言って、シルヴァン王の機嫌を損ねたりなどしない。そう、私は空気を読んだのだ! だが、

「お前もそう思っているみたいだな」

「何故バレたし!」

「沈黙は肯定と同じだからな。しかし、エーファのお気に入りだからな、結衣は」

 そういえばそんなことを言われたような気がしないでもないなと思いだしていると、シルヴァン王が苛立ったように、

「あいつ、あんな可愛い子一人に任せるのは可哀想だ、危ないと騒ぐから、結衣は我々の神の力を借りて歪みを修正できるし、あの神も付いているから大丈夫だと説得したんだ。エーファはそれを聞いた後何か考えこんでいるようだったが、その後すぐに何も考えられないようにしてやったがな。エーファの落とし方など俺にはいくらでも考え付く」

 自慢げに言うシルヴァン王だが、あの嫌がりようから察して私は心の中でエーファにご愁傷様です、と思ったのだった。そこで拓斗が、

「それで、何か用があったんじゃないのか?」

「ああ、魔族が現在判明している範囲で修正に向かった歪みを、エーファから聞き出した。これでもっと効率的に歪みが修正できるだろう」

 そう言って地図を渡してくるシルヴァン王に私は、

「あ、ありがとうございます」

「礼はいい、手伝ってもらうのはこちらの方だからな」

 そう言ってシルヴァン王は、去っていったのだった。


 フルールが、私達の部屋を丁寧に掃除してくれるらしい。

「そんなことより僕の相手をしてようっ」

 涙目ですがりつくシリルを冷たく一瞥して、フルールは掃除をはじめた。そんなフルールに更に食い下がるシリル。この展開は、私が巻き込まれるような気がする! 私は動物的な勘で危険を察知した。

 なので面倒なことに巻き込まれる前にと、私は拓斗を急かして歪みの修正に向かうようお願いする。それに拓斗は頷いて、すぐに場所を移動した。

 私達がやってきた場所は、海だった。

 白い砂浜。青い空。広がる青い海。

 そして、砂浜に歩く、根っこをもぞもぞ動かしながら移動する椰子の木が、砂浜を歩いている。

「……あの椰子の木が今回の歪み?」

「いや、あれは元々そういう生物だ。基本的に光合成をして動きまわる生き物だから、石をぶつけたりしなければ襲ってこない」

「そうなんだ、じゃあ今回の歪みは何?」

「亀だ」

「亀? ……いないよ?」

「いるぞそこら中に沢山。ほら、あの椰子の木を見てみろ」

 拓斗が指差すその先には一本の椰子の木が歩いている。

 だがそこで一歩その椰子が足?を踏み出した所で、そのままその場所から飛び上がる。

 なにか痛いものでも踏んでしまったかのようだ。ただ私には椰子の木が数メートル飛び上がる様子に、何あれ、という気がしなくもなかったのだが、そこで拓斗が、

「ここにはウニ亀という、海に棲息する亀がいたんだが、それが全て透過しているんだ」

「こ、光学迷彩……とかいう場合じゃなくて、えっと、どうしようか。絵の具を溶かした色水でも投げれば、形は分かるかな?」

「それでいいんじゃないか?」

「動きを止めないと修正できないし、何処にいるか分からなければ動きなんて止められないし……とりあえずは大量の、墨汁?」

 それをここ一体の砂浜にぶちまげるように私は呼び出す。みるみる浜辺一体に、亀の背にハリネズミのような刺が大量に付いているものが砂浜いっぱいにのそのそと歩いている。

 何処を捕まえて歪みを修正しようと思っていると、その亀の瞳が赤くキラーンと輝いた。

「結衣、走るぞ」

「え?」

 拓斗に促されて走りだす私だが、同時に背後で集団で何かが走りだす音がする。

 後ろを見ようとした私だが、そこで私は拓斗に腰のあたりを抱えられてそのまま飛び上がる。

 眼下に広がるのは、先ほどの背中に刺のある亀達だ。

 そのまま椰子の木の上辺りに、拓斗は着地した。

 そこで私は、そういえばウニ亀といっていたと思いだして、

「まさかウニみたいに背中にトゲがあるからウニ亀?」

「よくわかったな、その通りだ」

「ウニ、いるんだ」

「まあな」

 中途半端に生態系が似ているなと私は思いながら、さて次はどうしようかと考え始めたのだった。


さて、どうしようかと私が見下ろしていると、そこでウニ亀が頭を空に向けた。

 私は一瞬自分達が狙われているんだろうかと思い空を見上げるが特に何もなく、どうも違うようだ。そして、

「ぼえぼえほっほっほ」

「ぶひゃららぶほほ」

 亀が不気味な声で鳴き始めた。

 その声の不気味さに私は周りを見回しているとそこで、海の中から何かが3つ現れた。

 それは先程のウニ亀のようだが、周りに群がっているウニ亀よりも三倍の大きさだ。

 それが現れると、その小さなウニ亀達が道を開ける。

 その大きなウニ亀は拓斗達の前にやってくると、

「お前達、また我々の刺を取りに来たのか!」

「……また亀が喋ってる」

 横に並んだ三匹のうちの真ん中の亀が怒ったように言う。私はこの前の魚といい、何故亀がしゃべるのかと思うも、私はよほど変な顔をしていたのだろう、そこで拓斗が、

「会話ができるのは、一応この世界でも少ないからな」

「そ、そうなの。うん、分かった……所で、あの亀がなんで怒っているのか分かる?」

 拓斗に聞く私だが、拓斗が答える前に、

「とぼけるな! 我々の背にあるこの太くて大きくて立派な刺を取りに来たのだろう!」

 そう言われると、確かにその大きな亀の中心部には他と違って太くそそり立つような刺が一本生えている。

 それはどこか赤みを帯びた琥珀色をしており、よく見ると細い刺が中心部に集まって組み合わさって、その一本をなしているようだった。

 透き通って陽の光に輝くそれは、確かに加工すれば宝石になりそうな澄んだ色をしている。そういえばべっ甲のかんざしとか、高級品にも亀の甲羅って使われていたんだっけ? とうろ覚えの知識が私の頭の中にも浮かんだ。だが、

「……なんだかガラス玉で十分な気がする」

「何がだ! 何となくわかるぞ! 今バカにしただろう! だがこの美しき棘、これを持つものこそが、我々ウニ亀の長の証なんだぞ! それをお前達人間は、子亀を人質に取り、何本も持って行きおって」

「……拓斗、この世界ではあれは貴重品なの?」

「高級な品だ。希少価値と専売している所の値段のつり上げで高くなる、その一例だな」

 それを聞きながら、また俗っぽい設定がと思いつつ私は割りきった所で、そこで先程の亀が、

「だがそんな卑怯な真似は許さん。我々に堂々と勝て!」

「えっと、あの私達の目的は歪みの修正で……」

「魔族がやっていることを人間がするはずない! そうやって口車に乗せられ何匹ものウニ亀が長の座を降りたことか! だがそんな風に言うのなら我々に勝利すればその歪みとやらを直すのを、協力してやろう!」

 それなら話は早いと私は思う。すぐに思考を切り替えて、何か傷つけずに全員を動けないようにして歪みを勝手に修正する方法はないだろうかと思う。

 だってわざわざこうやって勝負を仕掛けられるのも、正確には歪みを治すこと全般が面倒くさいのだ。そこで、はっと私は気づく。

「拓斗、時間を止める技とか無いの? 動きを止めれば幾らでもやりたい放題じゃない!」

「都合よく動きを止める方法だと設定が難しいから魔法に慣れていない結衣だと危険だろうな」

「そういう所はご都合主義なファンタジーでいいのに……」

 私が嘆いた所で、そこでその亀が私達の乗った椰子の木に突進する。

 その衝撃で、椰子の木が幹の部分を振り回し始め、私と共に拓斗も地面に落ちてしまう。

 尤も拓斗に抱きかかえるられるように私は地面に落ちたのだが。

 けれど私はすぐに拓斗に背を押されて、

「頑張ってこいよ。俺は見守っているかな」

「あーんーたーねー。人に丸投げしすぎじゃない?」

「色々こっちにも事情があるんだよ。だから結衣にお願いしているし……その、結衣だから信頼できる部分もあるというか」

「し、しょうが無いわね。いいわ、がんばってくる!」

 私がそう叫んだ所で、

「我々を無視するな! もういい、行くぞ!」

 気の短い亀が、私に攻撃を仕掛けたのだった。


 私は亀達の攻撃に備え風の魔法の準備を始める。

 背中の棘を飛ばしてきたり、体当たりした場合風で吹き飛ばそうという考えからだったのだが、

「フォーメーションG!」

「へ?」

 亀達が叫ぶと同時に、私に向かってごろりと横に転がり、刺を私の方に向けてくる。

 この後、一体何をしてくるのかと私が警戒していると、

「ははは」「これで我々に」「攻撃できまい」

 勝ち誇ったような亀の様子に私は更に警戒するが、それ以上亀が動く様子はない。

 そこで私は気づいた。この亀達ただ単にこうやって転がって威嚇するくらいしか出来ないのではないかと。先ほどの消えながら集団で向かってこられるよりは現在の状況はとてもいい。一見回りには他の亀がいなさそうだが、時折瞳らしい部分が赤く光って見えるので、一応この三匹を倒した後私の方に突撃してくるかどうかも気をつけないとなと思ってその三匹に私は視線を戻す。

 本当にこの亀は致命的な弱点に気付いていない。

 そう、すごく簡単な方法でこいつら倒せるよなと私は気づいたのだ。

 なのでまず、噛まれても大丈夫そうな頑丈な手袋を呼び出す。

 そしてそれを装着してから、私はその亀に近づいていく。

 とりあえずは二匹と思いながら、本来歩いている時の下の部分の刺のない場所に手を伸ばし、体重をかけて私は自分の方に引き寄せるように倒す。

「「ぐおおおお」」

 亀が不気味な声を上げるが気にしない私。そして残る一匹も同様に倒してやる。

 ひっくり返った亀状態の三匹が、ジタバタ手足をさせて呻いているが気にしない。

 しかも砂に棘が刺さってより地面と密着しており起き上がるのは難しそうだ。

 更にいうなら、刺が結構な長さになっていたので、ひっくり返ると地面に手足が少しもかすらない。そんな三匹の様子を見ながら私は、

「どう、負けを認める?」

「う、ぐっ……完璧な作戦だと思ったのに」

 呻く亀のうちの一匹。それでもまだ亀達は諦めきれないのか、しばらくじたばたを繰り返す。なので私もしばらくその様子を観察していたのだが、やがて体力が尽きてきたのか亀達は手足を甲羅の中に引っ込めた。それを見ながら私は、

「どうする、降参する?」

「「「……」」」

「拓斗、焼いた亀ってこの世界の人は食べる?」

「いや、食べなかったと思う。でも動物は食べるかもな」

 そんな拓斗の言葉に亀達が悲鳴を上げて、降参しますと甲羅の中から首を出していったのだった。


「そんなことならもっと早く言ってくださればよかったのに」

「……言ったよ。でも聞かなかったんじゃん」

 半眼で亀達にいう私。

そして光学迷彩をまとった亀達を元に戻し、歪みを修正したわけだが。

「勝ちは勝ちなのでこれを持って行ってください。それに最近生え変わりの時期が近いみたいで」

 亀達に極太の刺を渡される私。

 この世界で貴重品……確かに持ってみると軽いし、加工すれば綺麗な宝石になりそうだし、貰ったらこの世界の人は喜ぶかなと思ってシリル達のお土産にもらうことにする。

 貰わないと、勝利したという手前、亀達に失礼になってしまう。

 ただ生え変わりするものなのに、何故に勝負をする必要があったのか私は疑問を持つが、

「一応、人間達にも悪い人間がいるので、戦い方で様子を見ているのです。勝とうが負けようが、いざとなれば集団で攻撃して追い払う寸法でして」

「そうなんだ。じゃあ私達は安全だと思ってくれたのかな?」

「即座に攻撃して終わらせられるような力をおもちなのに、こういった穏便な形で終わらせていただけましたから。さて、とうっ」

 そして三本私の目の前に差し出された。それをとりあえず拾う私。

 円錐形の形をした赤茶色に透き通ったそれは、そのまま部屋のインテリアにしても綺麗に見える。

 しかも持ってみるととても軽く、プラスチックよりも軽いような印象を私は受けた。

 と、そこで三人のうちの一匹の亀が話し出す。

「それと最近ここから少し離れた海域が変なんですよね?」

「どんな風に?」

「さあ」

 こんなフラグみたいに中途半端な言動で言わないでくれてもいいのにと思いながら、私は少し離れた場所まで拓斗と歩く。手には先ほどのあれが三本。そこで私は拓斗を見て、

「拓斗は一本いる? 軽くて綺麗だけれど」

「……そうだな。一本貸してみろ」

 言われるままに差し出すと、その棘が拓斗の手の中で光に包まれたかと思うと、二重になったネックレスや花の形をモチーフにした髪飾り、植物の模様が彫りこまれた腕輪に変化する。こうやって加工をすると、この絶妙な色合いが宝石とも遜色なく輝いていて貴重なものに見える。

 それを拓斗は私に差し出した。

「どうだ? こんなものしか俺には思いつかなかったが……」

「すっごく綺麗。私にくれるの?」

「ああ。どの道この世界のものはこの世界でしか使えないし、だったら結衣に楽しんでもらえた方が良いから」

「……ありがとう」

 素直にお礼を言って受け取り、試しにそれらをつけてみる。

 それから加工してくれた拓斗に、

「似合っているかな? 変じゃない?」

「似合っているよ。大丈夫」

 そう言われて、私は照れたように拓斗に微笑んだのだった。


 戻ってきた私はシリルと遭遇した。

 泣きはらしたようなシリルだが、私の持っているものを見た瞬間に目を輝かせた。

「それは、伝説のウニ亀の棘!」

「……知っているんだ」

「あたりまえだよ! 良いな、欲しいな……」

「そうなの? これシリル達のお土産にしようと思って持ってきたから、丁度いいかも」

「わーい」

 シリルに渡そうとする。元々、お土産に上げるつもりで、これで加工するなりして贈り物にすれば少しはシリルとフルールの仲が上手く行くといいなと私は思った。

 だって拓斗に作ってもらったこの飾りは、日の光を浴びると特に艶をおびて、天然ものらしい独特の濃淡もまた何とも言えない良い味を出しているのである。

 女の子はこういった綺麗なものが好きなのでそれでご機嫌伺いをするのも良いと思うのだ。機嫌がよくなってくっつけば、私にもとばっちりが来ないし。

 そこで、私の手からシリルに渡そうとした刺が消えた。

 気づけばすぐ側にフルールが立っており、私がシリルに渡そうとしていた棘を持っている。しかもやけにフルールは楽しそうだ。

「これを加工しまして、良さそうな令嬢に加工品の飾りを添えて、シリル様名義の偽造した恋文を送りましょう」

「フ、フルール……今何だか酷い事を言っている気が」

「口説くのをやめないならば強制的に結婚させてしまえばいいと気付きましたので。シリル様のためにシリル様が幸せになれるように、シリル様に見合った令嬢を探し出して必ずや結婚させてみせます」

「いやいやいや、それは絶対おかしいよ」

「大丈夫です。何人も仲人を務めさせて頂きましたので、その能力を今度もまた生かさせていただきます」

「……いつの間にフルールは仲人をやっていたの?」

「シリル様が延々とお見合いをばっくれましたので尻拭いをさせて頂きました。ええそれはもう何人も。皆様幸せなご家庭をおきずきになられております」

「……フルールは僕とは駄目なの?」

「はい」

 淡々と答えるフルールに、そこでシリルが俊敏な動きでフルールからその棘を取り上げた。

「シリル様、お返しください。それを使って御令嬢との……」

「ふん。本当に取り返したかったら僕から直接奪うんだね。だってこれは僕が結衣からもらったものだし。じゃあね!」

「シリル様! ……こうなったらシリル様を絶対に捕まえてみせます!」

 そうフルールがシリルを追いかけて走り去る。

 その二人の姿が見えなくなった頃に私は、

「……何だかフルールさんすごく楽しそうだったような」

「ああやって、じゃれあっているんだろう。考えるだけ時間の無駄だぞ、いずれどちらかが諦めてくっつくだろうし、そもそもどっちの両親も、何時くっつくかな状態だし」

「……両親公認の両片想い……コント?」

「だから巻き込まれないようにしとけって言っただろう」

「……そうだね」

 疲れたように私は答えた。そこで、

「今戻ったのか。それは!」

 現れたシルヴァン王が、私の手にあるそれに目を輝かせる。

 そしてつかつかと近づいてきて、

「ぜひそれを譲ってくれないだろうか」

「あ、はい、どうぞ」

「本当か! ありがとう!」

 やけに嬉しそうなシルヴァン王だが、本当に皆、どうしてこんなに目の色を変えるのだろうと思っていると、

「これはお守りとして最高の材質なのだ。相手に送ると、恋人同士がうまくいくと言われている」

「……聞いてないよ。え? 待って、それって私は拓斗からもらったから……」

「そうなのか? おめでとう」

「違います! 私は拓斗の恋人では……」

 焦る私だがそんな私を見てシルヴァン王は、

「エーファも初めはそんな感じだったな、今は俺にべた惚れだが。では失礼する」

 この人も人の話を聞かないと私は呻くように呟く。そのシルヴァン王は大喜びで、エーファがもっと俺に夢中になってくれるといいと小さく呟いたのはいいとして。

「何だか疲れてきた」

 私がそう呟き、その日は早めに眠ったのだった。


 部屋をノックする音で、私は目を覚ました。

「失礼します。紅茶をお持ちしました」

 ふらふらと部屋に入ってくるフルール。確かに紅茶を持って来ているのだが、服装も乱れているフルール。いつもよりも上等な雰囲気のメイド服に昨日渡したあの亀の棘で作ったらしいアクセサリーを服に付けている。

 ようやく諦めてくっついたのかと私は思いながら、

「シリルとくっついたんですか?」

 ベッドから起き上がった私がシリルと口にだした途端にフルールの動きが止まった。

 言ってはいけないことを言ってしまった不安が私を襲う。

 そしてフルールはそこでプルプルと震えてから、

「結衣様、話を聞いていただけますか」

「え、はい……」

 押しの弱い私は拒めなかった。するとフルールが私の側に来て、

「昨日、シリル様を追いかけまわしたのですが結局取り逃がしてしまい、シリル様は一晩帰ってこなかったのです。そして今朝……シリル様の手にはその棘を使った飾りが……」

「あ、はい。それで」

「フルールのために作ったんだ。だからつけて? 口説くわけじゃくて、それくらいは駄目かな? そんなに僕のこと嫌い? と延々と言われてしまい、私は耐え切れず、それを受け取ってしまったのです」

「……そうなんですか」

「なのに受け取った途端シリル様は私に、恋人になるのを認めたんだね、嬉しいよと言いだして……なのに私は付き返す事も出来ずそれが嬉しくて堪らないのです。シリル様がそうやって私の事を好きだと示してくれるのが嬉しくてたまらなくて、なのに絶対受け入れてはいけないなんて……」

「……もう受け入れたらどうかなと提案してみたり」

「いえ、ああ見えてシリル様は素晴らしい方なので、それに見合った令嬢が必要なのです!」

 何故かフルールがきりっとした声で言い切った。けれどまたすぐに愚痴も含めて色々なうっぷんがたまっているらしく、フルールは一方的に私に話し続ける。

 このものすごく面倒くさい感じは何なんだろうと思いながらも私はとりあえず相槌を打つしか無い。きっと女性同士でこの世界とすらも関係のない私だからフルールは話しやすいのかもしれない。そこで、

「済まないが、拓斗様はいるか?」

 シルヴァン王が今度は現れた。

 それに私の隣のベットで寝ながら存在感を消していた拓斗が起き上がり、

「何か用か」

「歪みの件で、少しお話が」

「……分かった」

 頷く拓斗がベッドから起き上がり歩いて行く。しかも魔法で服装まで着替えている。

 やはり魔法って便利と私が思っていると、私はフルールに、

「結衣様、聞いて……」

「あ、うん、聞いているよ」

「それでシリル様は、『フルールは僕だけのメイドだよね?』って聞いてくるんです。何ですか、スパイか何かだと思われているんですか? 他に主がいると?」

「いや、それは悪く考え過ぎだと思うよ?」

 さり気なく私が口を挟むが、フルールとエーファが首を横に振り、

「ですが……シリル様は調子に乗りすぎだと思うのです!」

「その通り。あいつだって偉そうに、本当は俺の事なんて好きじゃなくて他に男がいるんじゃないかとか言うし。何よ、私がそんなに信じられないのかって不満だわ」

「そうですね、私もシリル様に実は他に男がいるからシリル様になびかないんじゃないかと邪推されますし。そもそも他の男性とお付き合いしようとすると、大抵男性の方から怯えたように断られるというのに」

「そうそう、しかも付き合うわけでもないのにちょっと他の男と話していただけで、浮気したのかって聞いてくるし……」

「分かります。独占欲が強いくせに……どちら様ですか?」

 そこでフルールと私は、エーファの存在に気づいた。そこでエーファはフルールを見て、

「初めまして、魔王のエーファです」

「ああ、あのシルヴァン王のお妃様の……」

「アイツの話はしないで欲しいわ。ふんっ。何が俺だけだからな、よ。そうやって私が浮気するとでも思って不安でいるのが信頼されていない気がして気に入らないわ。まあいいわ。それよりも結衣、ちょっと魔王城まで一緒に来てくれないかしら?」

 話を振られた私は何でと思ってエーファを見上げると、

「もちろん、シルヴァンの奴への嫌がらせも含めてね。ちなみに拒否権はなくってよ?」

 そう、魔王様は私に傲慢に笑ったのだった。


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