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異世界に連れて来られた理由は、こんな感じ

異世界に連れてこられました。

 正確には、協力という名目で私こと朝倉(あさくら)(ゆい)が、同じ高校のクラスメイトである鈴木拓斗(すずきたくと)に呼び出された、らしい。

その初めに呼ばれた場所は、その異世界に行くための中継地点の様な部屋だった。

どうしてここまでとばされたのか説明がなく、しかも呼び出した拓斗はゲームに夢中。

なのでゲーム機の電源を人質に、話を少し聞きだして、呼び出した理由を聞いた私はこの拓斗を道連れにこの異世界にやってきたのである。

拓斗が往生際悪く、まだ記録をしていないんだぁあああ、と悲鳴をあげていたが、聞こえなかったことにした。

以上、この世界に連れて来られた私の状況の説明でした。


 よく寝た気がする。

 そう思って目を覚ました私はベッドの上で上半身を起き上がらせて、朝の光の中で私は背伸びをする。ちなみに隣のベッドでは拓斗が眠っている。

 年頃の男女が同じ部屋なのってどうなんだろう、と思うかもしれないがこの世界の私の体は拓斗が魔法を使って作ったものらしい。拓斗、曰く、自作美少女フィギュアに恋愛感情を抱く性癖はないそうだ。

 そんな私の形だが、手の感触や味覚視覚聴覚と言った五感から体の形まで全部元の私と違いがない感じである。

ただ欲を言えば、もう少し胸のあたりに肉があって腰が細いほうが嬉しかった。

それにどうやら今は私自身いくつかのことを覚えていないらしい。

呼び出された時に何かあったらしく、記憶が混濁しているらしい。

 本当に元の世界の私の体は大丈夫なのだろうかと不安に思ったが、私は今考えてもどうにもならないので考えるのをやめた。

 さて、そんな私達は、現在あるお家に泊まらせてもらっている。貴族のお屋敷らしい。

なのでベッドもとてもフカフカで寝心地が良かった。なので、

「もう一回二度寝したいな。でもそんなわけにもいかないか」

 そう思ってこの前教えてもらった服を変える魔法を使う。

一瞬にしてパジャマが、薄いピンク色の花がらのワンピースに変わる。

しかもこうやって服を変えると、身体自体もお風呂に入った後のような効果があるらしい。この部分だけは夢があると思う。

 そこで拓斗もようやく目を覚ましたらしい。私が起きているのに気づくと、

「おはよう、というわけで早速ゲームを……」

「そんな暇があるなら歪みを直しに行こうよ。そして私を元の世界に戻せ」

「あー、はいはい。はあ……」

 面倒臭そうに拓斗がため息を付いて、のろのろとベッドから沖合gリ始めたのだった。


 私がこの世界に呼ばれたのは、この世界の“歪み”を修正するためらしい。

 ちなみにこの世界の魔王と魔族は力も知識もあるので、“歪み”の修正にあたっている都のことだ。神である拓斗が怠けていたせいで、その魔王達は頑張っているらしい。

 そしてついこの前、幾つかの誤解からこの歪みの原因がその魔王だということとなってしまい、その時王子であった勇者のシルヴァンという人が、魔王に攻め入る……と見せかけて交渉に向かったのだが、その時の女魔王様に一目惚れして今は良好な関係らしい。

 ただそちらの方の問題は解決しても、歪みを修正しないことにはどうにもならないので、ようやく動いた拓斗は私をこの世界に呼び出したのだ。

 そんなわけで私は、拓斗の力の一部を借りた状態で、“歪み”を修正することになっている。ちなみに力の補給は、拓斗と手をつなぐことらしい。

 でも手をつなぐだけで妙に意識してしまうし、そもそもやけに優しげに私を拓斗は見ている気がする。けれど私は、同じクラスだったという程度で、拓斗を覚えていないのだ。

 拓斗が言うにはこの世界に呼ばれた時に何かがあったらしい。けれどそれを拓斗は言わないのである。そのうち絶対にききだしてやると思いながら、私は、拓斗を急かして“歪み”の場所に連れてきてもらう。

 移動は一瞬だった。私にとっては、拓斗に手を握られた次の瞬間その場所に立っていたという、何がなんだか分からない移動だった。

 そしてやってきたのは、周りが草原に囲まれた、丘の上。緑色をした背の低い草が生い茂る見通しのいい場所だった。

 その草原にはやけに沢山の白い兎がはねている。

 跳ねる度に耳が揺れて周りを伺うように首を振り赤い瞳を瞬かせている、そんな可愛らしい兎が沢山放し飼いにされているような景色が私の眼前に広がっている。そのほのぼのするような光景を私は見ながらほっこりしていると、

「あの兎全部が歪みだから、捕獲な」

 拓斗が無慈悲に、私に告げた。なのでそれを聞きいた私は、一瞬何を言われたのか分からなかった。けれどすぐにゆっくりと拓斗の方を見て、兎を指差しながら、

「……あれを、全部? 私がやるの?」

「そうだ」

 私は草原で飛び跳ねて走る白い兎を見回して、こんな沢山の量を捕まえるのかと血の気が引くような思いをしながら、

「……拓斗は手伝ってくれるんだよね?」

「いや、俺は解説係だから」

「手伝ってよ! あんなに沢山の兎、私一人じゃ無理!」

 私が指をさした先で、うさぎが跳ねる。けれどそれに拓斗が、

「俺の力を貸してやっただろう、一部だが」

「え? で、でもどうやって使えば……」

 そこで拓斗が深々とため息を付いてから、私の手を握る。そして、

「それで、どうやってあいつらを捕まえたい?」

「どうやってって……」

 飛び跳ねる兎を見ながら私は、やっぱり捕まえるなら、

「虫取り網みたいな大きな網と、捕獲したのを詰める袋、とか?」

「じゃあそれをイメージしながら、手の平に現れるように念じてみろ」

「う、うん……出ろ~、出ろ~」

 くり返し私がウンウン唸っていると、やがてポンと大きな音がして、網と袋が出てきた。

 そして私の中で何かが減った気がする。と、

「ちなみに、こまめに補給しないとその力は、燃料切れになるからな」

「ええ! ……切れるとどうなるの?」

「力が発動しないだけだ。副作用はない」

「そ、そうなんだ。良かった」

「ちなみに補給は俺が手を握るだけでいい」

 そう言われた私は、お手軽だなと思いつつ、再び兎捕縛に向かったのだった。


 こうして、私の兎捕獲作戦が始まったわけだが、余りにも量が多すぎて、捕まえられない。そんな兎を追いかけ回す私を楽しそうに見ていた拓斗に私は、息を切らしながら、

「はあはあはあ、拓斗、何か案が無い?」

「そうだな、俺だったら風魔法で一箇所に兎を集めてから捕縛するな」

 大したことではないかのように拓斗が告げる。けれどそれを聞いた私は、

「もっと前に教えてくれていても良いじゃん! というかこの世界って魔法があるんだ、そうよね。拓斗が魔法を使っているみたいだから当然よね。というか解説役きちんとしてよ」

「聞かれなかったし。それに兎を必至に追いかけ回す私を見ているのも楽しかったからな」

「この……でもやり方さえ分かれば、えっとこうして」

 私は教わったばかりの魔法を、先程のように使おうとする。けれど上手くいかない。

 差し伸べたてからは小さな風の渦巻きが現れてすぐに消えてしまう。

「な、何で……」

 焦る私の後ろで拓斗は笑う。

「まあ、難しいからな。この力を扱うのは」

「も、もう一度教えて欲しい!」

「別に構わないが、今の失敗で魔力がまた抜けているな」

「まさか魔法を発動させるのに足りなかったりする?」

「そうだな」

 コスパ悪すぎと私は思いながらも、もう一度手をつなぐ。

けれど、ただ手をつなぐだけなのだが、私は妙に意識してしまう。

「手をつなぐだけなのに緊張してるんだ。ぷーくすくす」

「むかっ、良いから早く寄こしなさいよ!」

 そう言って、けれどまともに拓斗の顔を見れずに俯いていると、拓斗がくすりと笑う声が聞こえた。

何でこんなに拓斗は余裕なのよと思って見上げると、何となく拓斗のほほも赤い。

 おかげでさらに恥ずかしい気持ちになって私は俯いて……そっと拓斗と手をつなぐ。

 繋いだ手から、何かが流れ込んできて私の体を満たしていく。

 多分これが力なのだろうが、それでもこうやって手を握っているだけでドキドキして、何でこんな子供みたいな事になっているのよ、私は高校生なんだからと私は必死で自分に言い聞かせた。

そこで拓斗から手を放される。

 放されれば放されたで、何となく口惜しいような私は不満を感じてしまう。と、

「じゃあもう一度力の使い方を教えてやろう」

「……何で偉そうなのよ」

「教える立場だから。ほら、もう一度手を握って」

 そう言われて、私は緊張してしまながらも手を握る。体の中にある力が具にやりと動いて、ああ、こんな感じなんだ、魔法を使うって、と私は思う。

 同時に体に蠢くその“力”を私が感じて、そして風が巻き上がる。

「「みにょおおおおお」」

 多分あの兎の鳴き声だろう、それが大合唱して聞こえる。

 なんて素敵な鳴き声なんだろうと私は今まで散々舐められた態度を兎に取られていたので、そう思った。やがて風が収まり、

「私、終わったぞ」

「一箇所にウサギが集まってる! しかも気絶している奴がいっぱい!」

「良かったな」

「……その、ありがとう」

 嬉しそうに声を上げる私だが、そう言われて協力してくれた拓斗にお礼を言う。

 それに拓斗は、頑張ってこいと私の背を微笑みながら押す。

 その後、どうにか兎を倒し終えた私。

「……よし、兎を回収して」

 どうにか立ち上がった私は、ふらふらとした足取りで歩き出すが、

「結衣」

「何? 拓斗……う、何で突然手を握っているのよ」

「いや、効率が悪くて力がまた随分と減っていたから」

「う、うぐ……もしかしてこの能力、なんでもできる分、減りが早いんじゃ……」

「いや、結衣が魔法を使うのが下手なだけだ」

「……練習するからいいもん」

「まあ、連れてきたのは俺の責任だし、魔法の練習には付き合ってやるよ」

 こういう所は、良い人だなと思うのだけれどなと私は思った。そして補給ついでに細かい擦り傷も拓斗は直してくれている。それにお礼を言って私は、また目をさまされると面倒なのでその三匹の兎を袋に入れて、再び拓斗の前にまでやってくる。

「これでいいかな」

「そうだな。それで歪みの直し方は知っているか?」

「分からないけれど」

「ここをこうやってこうやってこうして……これで終了だ」

 目の前で拓斗がやって見せてくれたのだが、私にはさっぱりわからない。

「もう一回、お願いしていいかな」

「これはその歪みに対して一回しか出来ない。次にまた教えてやるよ」

 そう拓斗が嘆息したと同時に、袋から歪みが修正された兎が次々と飛び出して行って、逃げるように森の中へと消えていったのだった。


 屋敷に戻る頃、おやつの時間の辺りになっていた。

 一応はその屋敷の門の前に私達は瞬間移動したのだが、そこで、シリルが泣いていた。

 シリルとは、私がお世話になっているお屋敷の持ち主の息子さんで、水色の髪に紫の瞳の絶世の美少女にしか見えない女装男子である。ちなみに彼はメイドのフルールが大好きで、元々その女装も少しでもフルールの側にいたいという理由から……であったらしい。

今は趣味であるらしいが。

 そんな彼が、家を後にしようとしているフルールにすがりついていた。

「行かないで、フルール。僕を捨てないでぇえ」

「……随分と長い間お世話になりましたシリル様。それでは」

「まって、待って、お願いだから、考えなおしてよぅ」

 フルールにすがりつくシリル。相変わらずシリルは女装していて、しかも見かけ美少女が泣いている。どことなくこの構図を見るとメイドのフルールの方が、美少女を捨てる側のような悪い方に見える。

 ただどちらも女性に見えるので百合の、痴情のもつれというマニアックな状況にも見える。というか見物人が集まってきているあたり、皆興味があるんだなと私は人事のように思った。

 けれどフルールは、大きな旅行かばんを持ちながら、抱きつくシリルを冷たく一瞥する。

「……シリル様はご自分が何をなさったのか、分かっているのですか」

「うう、ぐすっ。フルールが僕に振り向いてくれないので、他の人にも見てもらって周知の事実してしまおうと画策して、フルールとのキスシーンを、結衣に見せつけました」

 実はこのお屋敷にきた当初、私は見せつけられました。あの時は凍りついたな……と私が目をトロンとさせて思っていると、フルールが嘆息するように、

「それは悪いことですか? 良い事ですか?」

「良い事です!」

 シリルは言い切った。それを無言でフルールがシリルを更に冷たい眼差しで見てから、

「さようなら」

「行かないでフルール! 僕が、僕が悪かったから。もうしないから!」

「……偶然誰かに見られるなら仕方がないですよね」

「……気づきやがった」

「やっぱり実家に帰らさせていただきます」

「いやぁあああ、行っちゃいやぁああっ、フルール行かないでぇえ……は!」

 そこでシリルはようやく私の存在に気づいた。気づいて、私ににやぁと笑った。

「もしもフルールが僕の元から去っていくって言うなら、結衣を法律上の手続きも含めて僕の妹にする!」

「なんで!」

 いきなり部外者だったのが、関係者にされた私。だがシリルは、ふふふと暗く笑って、

「だって仕方がないじゃないか~、フルールが僕の相手をしてくれないんだし~」

「いやいやいや、妹は私以外でも良いんじゃ……」

「いいんだ、僕、妹が欲しかったし」

 何故か私はシリルに気に入られ、妹にされかかっているのだ。何でも姉妹でおそろいの服とかに憧れているらしい。

 色々とつっこみどころの多い話はとりあえず寄せておいて、

「む、無理です! フルールさん、何とかして下さい!」

 私は必死になってすがりつく。それを見たフルールは、

「相変わらず姑息な手を使いますね」

「時間稼ぎって意味だよね?」

「ええ、いずれ私は実家に帰りますから」

「少しでも時間に猶予があれば、フルールを口説いて落とせるから別に構わないよ」

「それを聞いたのは何回目だったか。はあ……お客様に御迷惑をお掛けするわけにはいけませんから、仕方がありません」

 フルールが深々と嘆息して、シリルの首根っこを掴んで屋敷に戻っていく。

 それに私は、助かったと安堵しながらも、あれ、私、何でこんなことになっているんだっけと思って……気づいた。

「……関係のない痴話喧嘩に巻き込まれた……」

 その時ようやく私は、衝撃の事実に気づいたのだった。


 部屋に戻ってきてどうにか一息ついた私。

「まさかこんな形で巻き込まれるとは思わなかった」

 先ほどのシリルの件。私を妹にすると言ってフルールを引き止めたシリルである。

 どう考えても彼らの色恋に巻き込まれている。

「なんで私の事をそんなに気に入っているのかな? 一応平凡ぽい容姿……だよね?」

「人の趣味は色々だからな。まあ、結衣が可愛いのは事実だし。それにシリルは、見かけはああだけれど中身はとても男らしくて凶悪だからな」

「凶悪?」

 そこで拓斗は私を見てうむと頷いた。

「結衣はあまり聞かない方がいいと思う」

「いや……え? あのシリルは、そんなに怖いことをしているの?」

「水際で抑えている感じか。あのメイドのフルールが」

「……そうなんですか」

「ああ、本当に愛は偉大だな」

 良い話に聞こえるが、多分違うきがすると私は思いつつ、そんな事を考える暇があったら、私は早く歪みを直しに行ったほうがいいかもしれない。

「拓斗、もう一箇所歪みを直しに行こう!」

「……もう夜で危険だから止めた方がいい」

「ええ、でも……」

「ここは現実世界と違って……いや、現実世界もそうだが、地方の灯りのない暗闇は、その歪みを探すにも適当ではないな」

「それはそうだけれど……」

「焦るのはわかるが、今日が初めての歪みの修正だ。それにあいつらと戦っただけで、大量に力を使ったし、怪我だってしただろう? 俺が治したが」

 確かに私は体の疲労とか傷を拓斗に治されたのだ。

「その節はどうも。でも……」

「それにまた俺の力を補給しておいたほうがいいんじゃないのか? まさか手を握るだけで恥ずかしいというわけじゃないんだろう?」

「あ、当り前でしょう!」

「じゃあ力を補給して、魔法の練習を少ししようか」

 それに私は頷き、おずおずと拓斗に向かって手を伸ばしたのだった。


 魔法の練習をしていた私だが、

「だからここをこうやって……」

「そんな抽象的な説明じゃわからないわよ!」

「……じゃあ、手をこうやって頭の両側につけて」

「こ、こう?」

「そして、にゃーん」

「にゃーん」

「……本当にやると思わなかった」

「あ・ん・た・ねー。許さない……やってられるかこんな事」

 そう言って、私はその場を後にした、というか逃げ出したのだが、そこで私は目撃してしまった。

少し開けた屋敷の庭の一角。建物に隠れるように私はこっそりと見る。

 別に隠れる必要はないのだが、何故か私は隠れてしまったのだ。

 そんな私の目の前で、あまり表情の変わらないお堅そうなメイドのフルールさんが周りの様子を伺いつつ、そっとかがんで、小鳥たちに餌をあげている。

 しかもとても楽しそうに微笑んでいる。

 ああ、これはシリルは惚れちゃうだろうなと思って私が見ていると、

「可愛いでしょう、フルール」

「ひ、シリル、何処から?」

「もともとこの時間にフルールがああしているのを見ているんだ。可愛いよね。……本当はもっと僕が、僕の前でフルールがあんな風に屈託のない笑顔でいられるようにしないといけないのだけれど、なかなか難しくて」

「……シリルがフルールさんが大好きなんですね」

「うん。僕の手で幸せにしてあげたい女性なんだ」

 ためらう様子も見せずきっぱりと言い切るシリル。

 その表情はどこからどう見ても女性には見えないなと私は思いつつ、

「あ、私練習中で……」

「魔法のだっけ。自分の身を守るためにも必要だから、がんばってね」

「ありがとうございます」

 シリルと受け答えして、もう一回がんばるぞと私は拓斗の元に戻ったのだった。


 魔法の練習が思いのほか大変で、その日は死んだように眠った私。

 そして次の日の朝、私が目を覚ますと、目の前に拓斗の顔があった。

「な、何よ」

「いや、無理をさせすぎたかなと思って様子を見ていたんだが、大丈夫みたいだな」

 どうやら心配してくれていたらしい。しかも手を握っているので力を補給してくれていたようだった。

 そして食事の時間になる。ちなみに私や拓斗は食事する必要がなかったのだが、朝食と聞いてふらりと私は誘いに乗ってしまった。けれど出されたものはベーコンや卵にパンといったもの……だと思うそれらしきもので、私はそれに安堵した。

 そして口をつけてみれば、確かに香ばしい麦の味や、ベーコンの旨味が感じられる。

 良かった、普通の食料だった。私は心の底から喜びの声を上げる。

 ふかふかのパンはまだ温かくて、中にはドライフルーツが細かく刻んだものがちりばめられており、それには紫色のジャムと白いクリーム、バターを好きに選んで添えられるようだった。実際にその三つをつけて食べると、口いっぱいに甘酸っぱいアンズのジャムとクリームチーズのような香りが私の口の中いっぱいに広がった。そしてベーコンのような何かはカリカリですごくおいしい。そんなこんなで異世界の食事を堪能していると、

「フルール、許して。僕の気の迷いだったんです!」

 フルールにシリルがすがりついていた。先ほど食事を呼びに来るのに、シリルが私に妹に無理やりしてやるー、と襲うというか巻き込みに来て、それを見たフル―ルが、

「……約束を守れない方に、私も約束を守る必要はありませんね?」

「ご、ごめんなさい……フルール?」

 そこで、フルールが沈黙して、

「……私以外に、誰かを見るなら……いえ、その方がいいですね」

「そ、そんな寂しいことを言わないで、フルール」

「ですが貴方様は次期党首としてこの家をつぐ方です。しかもこれほど女の子の格好が可愛らしく可憐な方は他にいません」

「へへへ、でしょう?」

「ですから、その容姿で騙せば、警戒心解き放題で令嬢とお近づきになれて、幾らでも入れ食い状態です」

「いや、まあ、確かに警戒心がゆるくなるらしくて令嬢の人達も僕と仲がいいし、僕はモテモテだけれどね?」

「知っています。ですからそれで私以外の方を……シリル様?」

 そこでシリルはニッコリと微笑んだ。微笑んだまま、フルールの腕を掴み、

「フルール、ちょっと試してほしいものがあるんだけれど」

「? 何でしょう?」

「まあ、いいからいいから」

 そう言ってシリルはフルールを連れて行く。

 シリル、フルールさんに関しては心が狭そうだったから、大変だなと私は思っていると、

「結衣、他人事のような気持ちでいると巻き込まれるぞ?」

「……事前に修正よろしく。私、シリルの考えがよくわからない。何で妹なのよ」

「一人っ子だから兄弟に憧れるんだろう、だが、そうだな」

 拓斗は私のお願いにうなづいたのだった。


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