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希望の天秤  作者: ネタの砂漠
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京都 2(後)


 そのゆかりさんが僕の隣に戻ってきた。座った瞬間香水の香りが僕の鼻腔をくすぐる。

 僕はゆかりさんの横顔をまじまじと見つめる。考えれば随分と失礼な話だが、その時僕は、そんな事お構い無しに彼女を見つめてしまっていた。

 

 「ビックリしたでしょ? お化粧落としてアイマッサージしてあげたの。クマも消えてるでしょ? 」

 美歩さんの声に気付き、ようやく僕はその無礼な視線を解く。

 「ねえ、平祇くん? ゆかりさんの年、幾つに見える? 」


 僕は女性の年齢は努めて若く予想する事にしているが、今回ばかりは15~6に見える、と正直に言う事が逆に憚られた。

 むしろ25~6と答えた方が、ゆかりさんは安心するのではないかとさえ思う。

 だが美歩さんは、どうやら自分で答えが言いたかったらしい。


 「どう見ても十代半ばにしか見えないよね! 」

 「もう、止めてください、美歩さん。平祇くん困ってるじゃないですか? ね、平祇くん? おばさんの冗談にいちいち付き合わなくていいですからね」

 どう見ても困っているのはゆかりさんなのだが、僕も助け舟を求められた以上放っても置けなかった。


 「そう言う美歩さんも凄く若く見えますよ。僕はてっきり幸留ちゃんのお姉さんだと思ってましたから」

 努めて冗談ぽく言ったつもりだったが、美歩さんはそう採ってはくれなかったらしい。


 「あらやだ、平祇くん。旦那の目の前で人妻口説くなんて」

 まんざらでもなさそうに笑う。


 大樹さんは未だにポカンと口を開けたまま、ゆかりさんを見つめていた。大樹さん、気持ちは痛いほど分かるけど、美歩さんが気づく前に止めた方がいいですよ。



 美歩さんが言っていたのだが、ゆかりさんは正真正銘35歳との事だった。実際19か20で紗希ちゃんを産んでいることになるので、若い母親には違いないのだがそれにしても限度がある。

 そういえば娘の紗希ちゃんも、小学生に見えると大樹さんの娘さんが言っていたし、そういう家系なのかもしれない。


 僕達はロビーで暫らく雑談の後、7時を待って席を立つ。朝食の予約が7~8時だったので、こうして小一時間ロビーで時間を潰していたのだ。

 部屋に帰ったら眠ってしまうだろうからね。


 美桜木夫妻は一緒にと言ってくれたが、僕は食事くらい夫婦水入らずにしてあげようと、その申し出を断り1人でテーブルに着く。

 1人になると、こうしている間にも園歌はどこでどうしているのかと考えてしまい、食事も進まない。

 僕の箸は一向に口には運ばれず、無為に納豆をかき混ぜ続ける。

 

 「相席よろしいですか? 」


 不意の声に手を止めると、トレイを手にしたゆかりさんがいた。バイキング式のビュッフェスタイルだったので、様々な料理が載っている。

 随分と時間をかけて選んでいたようだ。細身のわりに大食漢なのだろうか?


 僕が慌てて促すと彼女はトレイをテーブルに乗せ、対面に腰を下ろす。正面から彼女のすっぴんを見る事になった僕は、改めて息を呑む。

 髪をアップにまとめ、落ち着いたブルーのスーツは大人びた印象与えるものなんだろうけれど、全く意味を成していない。


 似合っていないという訳でなく、彼女がどんなファッションで身を包もうと、全て可愛らしいと言う形容詞に変ってしまうからだ。

 はっきり言って園歌の方が、胸やお尻が大きい分だけ大人っぽく思える。もっとも妹はお尻が大きい事を気にしていたが。

 

 「平祇さんの分も取ってきましたから。無理してでも食べてくださいね」


 どうやら大量にトレイに載っていた朝食は、僕の分も含まれていたらしい。てきとうに納豆と海苔だけで朝食を済ませようとしていた僕のテーブルに、彼女は味噌汁やら焼き魚などを並べていく。


 「ありがとうございます。なんか朝から豪華な食事になっちゃったな」

 「だって平祇さん、ずーっと納豆かき混ぜてるんですもの。放って置けません」

 「え? 僕そんなに長い事納豆かき混ぜてました? 」

 「ええ。美歩さんも心配してましたよ? 」


 美歩さんにまで見られていたのか。なにやら顔が熱くなって来た。ちょっと恥ずかしい。




 「皆家族のことを心配してますからね。わかるんです。平祇さんも私のことを心配して下さったでしょう? 同じです」



 彼女は悲しげな優しい瞳を僕に向けた。僕はまたしても、この人が笑ったらさぞ可愛いんだろうな、なんてことを考えていた。

 

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