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【Under Ground Online】  作者: 桐月悠里
2:Under Ground(意訳――形式の否定)
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第六十四話:ドルーウ達の頼み


 

第六十四話:ドルーウ達の頼み




「と、戻ってきたはいいけども、第1層にこんな横穴があったとは」


 思わずそう呟いてしまうほど、横穴の入り口は巧みに隠されていた。アルカリ洞窟群、第1層横穴、ドルーウの巣穴にて、自分達はたくさんの視線を感じながら砂を踏みしめて奥へ奥へと進んでいる。


『この先だ。どーぞ』


「ありがとう」


 そっけなく顔を背け、案内を終えたと大広間への手前で座り込むドルーウ。捨て駒にされるくらいに群れでの地位は低いらしく、中に入ることは許されていないようだ。


「お邪魔します、と」


 3人で大広間に出た瞬間、自分達は色々な意味でほう、とゆっくり息を吐いた。目の前に座っているのは巨大なドルーウ。大きさはギリーを軽く追い越し、体高は3メートル程もあるだろうか。

 斑色の毛皮を揺らし、その巨大なドルーウはくりくりとした目で自分達を見下ろした。


「小さめの象ね」


「ほんとに」


『よくいらっしゃった、我らの友よ』


 弥生ちゃんと雪花の小声のやり取りも聞こえているのだろうが、聞こえないふりをしてそのドルーウは首を下げた。

 目線を下げ、自分としっかりと目を合わせるドルーウは、表情が作りにくい顔で申し訳なさそうな声を出す。


「まだ上辺だけの友人ですが、お邪魔してます」


『そうだな、そうだ。まだ、そうかもしれないが、私はそうありたいと思っている』


「……詳しい話は?」


 自分もそうありたいと思えるかは、このドルーウの返答次第だ。見せつけるようにギリーを侍らせ、じっとその目を見返せば言質を取るのは諦めたらしい。長い吐息と共にぽつりぽつりと事情を語り出した。


『大まかには聞いたと思うが、砂竜モドキは竜ではなく、分類するならば鳥竜系のモンスターだ。要するに、竜と鳥の合いの子のような種族と言うべきか。AIランクは最低のもので、学習性AIではなく高性能AIで動いている』


「モドキの方は学習性AIじゃない。竜と鳥の合いの子のようなモンスターらしい」


 ドルーウが語り始めると共に通訳も開始する。この中でドルーウの言葉を理解できるのは自分だけだが、とても面倒なものだ。


『奴らは秋になると寒さを嫌い、アルカリ洞窟群の地下深い所で繁殖期を迎える。冬の間に卵ができ、春になると子供を連れて出ていく。その越冬の間、親と雛の主な餌になるのが我等ドルーウというわけだ』


「要するに、天敵を排除したいと」


『全ての洞窟に潜む砂竜モドキを、などという無茶は言わない。この洞窟に巣食う2頭でいい。この洞窟に棲む個体を仕留めても、他の洞窟に棲む個体が狩りに来るのはいつものことだ。それでも、数が減ればそれだけ危険も減る』


「死に戻りでどうせ戻ってくる」


『すぐに戻ってくるのは人間と、人間と契約しているモンスターだけだ。野生のモンスターは、死ねば2~3年は戻ってこない。今、殺さなければまた数が増える。数が増えれば対処しきれなくなり、砂竜が重い腰を上げるまで、我らは狩られ続ける運命にある』


 狩られ続ける運命。それは正しく、神が作り上げた食物連鎖の枠からは逃れられないことを意味している。あるいは、時が経てば違うのかもしれないが、それはきっと今ではない。

 ドルーウ達は束の間の安定を求めて。自分達は、ドルーウの信頼と報酬を秤に乗せている。


「……大きさと、戦闘能力は? 雛とどれだけ違う」


『どれだけと言われれば、砂竜よりかは弱いとしか言いようがない。何か指針になるようなモンスターとの戦闘経験は?』


「陸鰐と相討ち……ただし、好条件下での幸運込み」


『ならば、陸鰐の皮膚よりは奴らの羽毛は脆いだろう。大きさは雛の2倍から3倍で、この洞窟に巣食っているのは夫婦だ。雌雄一対、雌の方が巨大だった』


「……だ、そうだけど。どうする?」


 後ろで難しい顔のまま立っている二人を振り返れば、どちらもうーんと唸りながらゆるゆると否定とも肯定ともつかない様子で首を振った。


「正直、この三人でなら狩れると思う」


「俺もそう思う。けど――夫婦ってことは、同時に二頭相手にしなきゃいけないってことで……」


 語尾を濁し、腕組みしたまま眉を寄せる雪花は、しばし黙ってから正直に懸念を口にした。そう、一番引っかかる部分は砂竜モドキが夫婦であるという点だ。

 その辺はどうなんだとちらりとドルーウに目を向ければ、彼は重々しく頷いた。


『その点では問題ない。全力で引き離すためのサポートをする』


「それで足止めしてる方が全滅したら元も子もない」


『それは……』


 そうだが……、と項垂れるドルーウは、図体は巨大な癖に妙に哀れだった。弥生ちゃんは報酬の晶石をちらりと横目に見てから、小さな喉を震わせてモーニングスターを撫でた。


「やる価値は、あるわ」


 ただし、手を引く理由も十分にある、と彼女は囁く。雪花は会話に参加しようとはせず、視線を向ければ傭兵だからとでも言うように目を伏せて、主の傍に控える騎士のような姿勢を保った。

 自分は、と考えてみるが、探り当てた内面の欲求はもっと原始的で、荒っぽいものだった。


「……戦っては、みたいかな」


 戦ってみたいと言っても、ソロではまだ勝てない。それはちゃんとわかっている。ただ、この三人でならやれるのではないかという希望があった。

 巨大なモンスターを目の前に、それを屠る快感にいつの間にかとりつかれているのかもしれない。熱く滾る戦闘の欲求を深呼吸で押し込めて、弥生ちゃんと視線を合わせる。


「……どう?」


「文句ないわ」


 敢えて、否定的な言葉ではなく、肯定的な言葉から入ったのは、彼女も一歩踏み出すのを躊躇したからだという憶測は正しかったようだ。好戦的な桃色の目がこちらを見返し、同時に頷いたのを合図にして結論に至った。


「やる、けどしっかりと計画を立てよう。当然だけど目標は被害ゼロ、今日はログアウトして、明日、ログインしてすぐに砂竜モドキの討伐に向かう」


 ドルーウもその言葉に頷いて、準備をしようと吠え声を上げた。残り時間は数時間。食物連鎖に抗う戦いは、こうして静かに幕を開けた。






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