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【Under Ground Online】  作者: 桐月悠里
1:Under Ground(意訳――目に見えない仄暗い世界)
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第五十一話:最悪な計画



第五十一話:最悪な計画




 暗く鬱蒼とした夜の森の中、微かな呻き声を察知して、ウルフカットの白い髪を揺らしながらフベは静かに顔を上げた。

 “始まりの街、エアリス”より最も最寄りの海沿いの街へと続く、ダッカス街道――別名、“塩の道”とも呼ばれる街道から、少し外れた獣道。


 隠密スキルを持たないフベは、じっとPKプレイヤー達の動向を気にしながら歩いていたが、その歩みがぴたりと止まり、茂みの中に分け入っていく。

 茂みの前で立ち止り、罠ではないかと一瞬だけ疑うも、フベは自身の悪運を信じて疑わない。何かを覆い隠している枝葉を手で除けてみれば、血に濡れた若い男の顔が覗く。


 不死薬が出回る今、その見た目通りの年齢であることなどほとんどないが、男というものは見た目が若いと中身も若い気がするものだ。

 思うさまそのやんちゃさを発揮したのか、目の前の男は虫の息。PKプレイヤーにやられて死ぬ一歩手前ならば何の手助けも出来ないが、生きる目があるのならば条件次第で助けるのも吝かではないと、フベは静かに声をかける。


「もし――瀕死ですか? それとも動けないだけですか?」


「……ぁあ?」


 茂みの中で掠れた呼吸を繰り返していた男は、フベの問いかけに薄っすらと目を開く。ファンタジーゲームでは珍しい、素のままの茶色の瞳が痛みに揺れながらフベを映し、次の瞬間に絶望の色に染まって閉じられる。


「――魔王に見つかるとか、俺の不運半端ねぇな」


「やだなぁ、止めさす気なら無言でさっくりやりますって」


「……じゃあ、何の用だよ」


 こんな状況でPKプレイヤーに声掛けられて、他にどんな反応すりゃいいんだよ、とぼやきながら、男は再び薄目を開く。

 フベは微笑みながらポケットを漁り、瀕死でもないようなその様子に首を傾げ、簡単に男の様子を眺めてから合点がいったと頷いた。


「腕が動くなら瀕死……ではないですね。傷が深いようですから、単純に痛みで動けない、といったところでしょうか」


「ご明察、だ。痛みのon、offについては口出し無用だ」


「そんな不粋な真似しませんよ。知り合いに痛みは絶対にonにすべきだ! っていうわけのわからないポリシーの人、いますから」


「遠まわしな皮肉ありがとうよ」


「あ、僕も痛みはon派なんですけどね?」


「わけのわからないポリシーじゃなかったのかよ!?」


 何なんだよお前! と叫ぶ男に、フベはにっこりと笑ってポケットから軟膏を取り出す。

 周りの警戒を続けたままそれを男にも見えるように持ち上げて見せ、必要ですか? と再び小さく首を傾げる。


「いらねぇよ。もう塗った」


「どれくらい回復しました?」


「まだ2割」


「所属は?」


「ソロだ」


「体力満タンにしてあげますから、うちで働きません?」


「それは――」


 すらすらと淀みなく答えていた男は口を噤んだ。じっと目を細め、値踏みするようにフベを睨む。


「――どういう了見で?」


「気に入ったからですけど? プレイヤースキルなんてやってる内についてきますし、実力なんてどうでもいいです。命を預けるのに納得いくかいかないか、組む時はそれが全てでしょう?」


 背を預ける相手は強者よりも認めた者を。それは、半世紀以上も前に痛感したフベの中の真実だ。

 僅かな時間ではあったが、フベは目の前の男を買っている。それが他人に理解出来なくとも、自分が納得していればそれで良かった。

 血塗れで茂みの中に沈む男に手を伸ばし、フベは笑みと共にこう嘯く。


「富と力を約束しましょう」


 フベは静かに、かつて、噛みしめた唇から血が滴るほど渇望したものを例えにあげた。

 悪魔のような文言を口にすれば、男は茶色の瞳を瞬かせ、引き攣るような笑みを浮かべる。伸ばされた手を掴み取り、痛む身体を叱咤して起き上がった男を、狛犬から預かったリクとアレンが、後ろから不思議そうに覗き込んだ。


「――その大船、乗った」
































 空から見る夜景というものは、また格別というものだ。


 猫可愛がりしている自身の契約モンスター、フィニーの足に掴まったまま空を行くルーは、高所の恐怖の中でそんなことを気休めに思う。

 眼下に広がる見渡す限りの草原。疎らに突き立つ竜爪岩が淡く輝き、始まりの街近くの草原は幻想的な風景を作り出していた。


 時折雲に隠れる満月の下を飛びながら、ルーはしっかりと辺りに目を光らせる。眼下に広がる大草原を行くのは、一番戦闘力に不安が残るニコニコとアンナのグループだ。

 遊撃係として単独行動を推奨され、3グループそれぞれの周囲の監視をかって出たものの、未だPKプレイヤー達の影は無い。


「……寧ろ襲撃が無い方が不安だ」


 皆の貴重な荷物を持ったディル・フリック・レイスター――略してデフレは既にルーがある程度の高度の所まで見送り、無事にエアリスへと向けて飛んでいったのは確認している。

 それでも多少の不安は残るが、あの鳳を仕留められる鳥系モンスターはここらには存在しないのが、唯一の救いと言えるだろうか。


「フィニー、高度上げて」


『はーい……怖くない?』


「怖いから二度と聞かないで」


『らっじゃー』


 甲高い鳴き声を上げながらフィニーが上昇。かなり着込んではいるものの、上空の寒さは身に染みる。マフラーが欲しいと思いながら指示を飛ばし緩やかに旋回。

 ぐるりと回る間に敵影を探し、それらしい影を見つける度に近くまで行って確認するという作業の繰り返し。


 また1つ、不穏な動きをする影を見つけ、ゆっくりと近付いていく。近付きすぎると気が付かれる為、慎重に距離を取ったままルーは暗闇の中目を凝らす。

 6頭ものハイエナのようなモンスターが草原を駆ける光景。ただそれだけなら野生のモンスターか、で済む感想も、その内の1頭の背にプレイヤーが乗っていれば話は違う。


「……まさか、『カルーン』のギルマス?」


 『カルーン』――“ヒューマン・アイザック”をギルドマスターとする、現在最も危険だと言われているPKギルド。

 内、ギルドマスターである“ヒューマン・アイザック”は、初日にセーフティーエリア内でのモンスター殺害事件の当事者であり、無差別PKを繰り返すプレイヤーである。



 ――“ヒューマン・アイザック”自身のアビリティは“見習い符術師”。魔符と呼ばれる札に予め魔術回路を描き、事前に決めておいた動作によって起爆する、待ち伏せ、誘導型アビリティを使いこなすプレイヤー。

 グルアと呼ばれるハイエナのようなモンスターを6頭も従え、そのモンスターによる誘導からの、符術スキルという必殺の布陣を得意とする。

 性格は気が強く、強欲。欲しい物を欲しいと言うだけではなく、行動に移してしまえる決断力から、PKプレイヤーになったと思われる。



「うわ……大物だよ」


 情報掲示板に表示された情報に目を通し、ルーは片手で頭を抱える。リスクが無いと言っても武器や服までもが保障されているわけではないのだ。

 ルーとしては出来る限り戦闘は避けたいし、味方の被害も極力減らしたいと思っている。


 そんなことも言っていられなさそうなのだが、それはそれ、これはこれだ。頭を抱えながらも追跡しながら、ルーはふとあることに思い至る。

 グルア達の進む先、その先はてっきり特殊武器を持つあんらくであると思っていたのだが、どうも狛犬達が行くエルラド街道に沿って進んでいるではないか。


「まさか……いや、でも」


 嫌な予感に眉をひそめ、どうするべきか思いあぐねているうちに、フィニーが甲高い声で警告を発する。

 慌てて振り返れば南の街に向かう、アーク街道に沿って歩いているニコニコ達にも、怪しく迫る影があった。

 僅かに迷うも、ルーは即座に決断し、ニコニコ達に加勢するべくフィニーと共に上空から近付いていく。


「……ま、大丈夫でしょ」


 薄情なことに、それがルーの出した結論であった。














































 ――エルラド街道。“始まりの街、エアリス”より、大樹、ハリマ元樹げんじゅを結ぶ、森の中の一本道。

 遠目にも薄っすらと見えるその大樹は、三王の為の祭りの時に重要な役割を果たす霊木であるという。

 三王が発するエネルギーによって蕾を開き、無色の花弁は鮮やかな黄金に染まる。


 だからこそ、今の節季をこう謳うのだ。王霊転じて、黄麗おうれい。元は王の魂が帰還する季として、王霊と呼ばれていた節季。

 しかし何時しか風流さを求める者の手によって、同じ響きで違う意味をも孕む、花の美しさを称える名になったという。


「いつ黄色くなるんだろうね」


「そろそろの筈。うん、多分」


 深い森の中に切り開かれたエルラド街道から、少し離れた森の中。獣道すらも無いような道無き道を歩きながら、自分達は順調にだれていた。

 皆と別れ、歩き始めてからかなり経ってはいるものの、未だにPKプレイヤーの影も形も無い。

 初めはぴりぴりと警戒しながら歩いていたが、こうも何も無いと警戒するだけ、無駄な体力を消費している気分になる。


「疲れた、何も来ない、つまんない」


「はいはい」


 先程から愚痴ばかりが口をついて出るが、雪花はのんびりと太い木の根を踏み越えながら、おざなりに相手をするばかり。

 なんだかんだとここまで歩いてきたが、疲労と退屈はついにピークに達し、がん、と地面を踏み鳴らして立ち止る。


「――どしたの、ボス」


 呆れたように立ち止った自分を振り返り、雪花が駄々っ子にするように片手を差し出してくる。その手を乱暴に掴み取り、ぐいぐいと引っ張ればあーれー、とふざけた声を上げながらも来る雪花。


「飽きた! 何も来てないの? 来る予兆も無いの? 索敵系スキルは雪花のが性能良いの持ってるだろ」


「来るよ」


「……は?」


 八つ当たりに腕を叩きながら言った戯言に、雪花が短く即答した。わけがわからずに聞き返せば、にっこりと微笑んで見せる。

 嫌な予感に自然と背筋を正して声を潜め、周囲を警戒しながら静かに雪花に問い直す。


「……敵が来ることを知ってる?」


「知ってる」


「誰」


「“ヒューマン・アイザック”」


「なんで知ってる? なんでそいつが来るの?」


「“ヒューマン・アイザック”は俺の最初の雇い主で、まだ俺を雇用していると思ってるから。なんで来るかと言えば、グルアを通してボスが竜の卵を手に入れたことを知ったから、かな」


 なんだそれ、とは、喉元まで出かかった言葉だが、自分はそれを呑み込んだ。呑み込んで、呑み込んでから止まっていた思考を再開させる。

 敵は“ヒューマン・アイザック”――雪花の最初の雇い主――まだ雪花を雇用していると思ってる――グルアを通して竜の卵のことを知っている――。


「雪花――」


「なぁに?」


「二重契約」


「無し」


「現在の雇用主は?」


「“狛犬”って名前のプレイヤー」


「細かい襲撃予定は?」


「不明」


 雪花に矢継ぎ早に質問を投げかけて、情報を入れて精査する。頭の中で筋道を立てて理解へと急ぎ、そして出た結論は――。


「――わざと両方に黙ってたな?」


「――」


 無言のまま、舌を出した雪花に思わず舌打ちが零れ出る。


 頭の中で描いていた前提が呆気なく突き崩され、1から組み上げを開始する。全てが変わってしまうような情報を聞くまで黙っていた雪花を睨みつけるも、どこ吹く風でにまにまと笑ってみせる。


「じゃあ一緒にいたバカップルは?」


「あれは『アダマス』所属のカップルさんだよ。『カルーン』じゃない」


「面倒だから洗いざらい喋って?」


「えっとね……」


 もはや一々尋ねるのも面倒だし、抜け漏れを気にするのも面倒だ。洗いざらい全部喋ろと額を小突けば、それはそれは嬉しそうにやや複雑な事情を暴露していく。


 “ヒューマン・アイザック”は銀髪の男性プレイヤーであり、初日に起こったモンスターに関するいざこざの張本人である。

 6頭ものハイエナに似たモンスターと契約しており、アビリティは“見習い符術師”。待ち伏せや誘導によるPKを得意とし、事件当初から無差別PKを繰り返している危険なプレイヤーである。


 雪花は無差別PK中に男に声をかけられ、色々あって傭兵として雇われることになる。その後、特殊武器が発見されたという情報を得た“ヒューマン・アイザック”は、特殊武器を手に入れるべく行動を開始。

 雪花は、あんらくさん達に近付くように指示を受け、単独行動を開始。繋ぎとしてPKギルド『アダマス』所属のプレイヤーに雇われるが、そこを自分に襲撃され、今に至る。


「――ちょっと待て」


「んん? なに、手短にね。早くしないとあの男、背後から闇討ちとかしてくるよ?」


「わかった。手短にいこう。――あのバカップルとは契約していたの?」


 話を順繰りに聞いていけば、途中で重大な違和感があることに気が付くだろう。特殊武器を奪うために指示を受けた雪花が、何故途中で契約主を、巡り巡って敵対するはずの自分に変えているのか。

 二重契約をとしない以上、納得のいく説明が無ければ信用すらも危うい。


「してたよ。その時点であの男との契約は切れた」


「スパイの指示を受けたんでしょ?」


「そうだね。そうとしか取れないね。でも、彼は指示の仕方を間違えた」


「間違えた……」


 指示の仕方を間違えた。雪花は真顔でそう言い放った。

 反芻するために口の中でその言葉を繰り返し、ある可能性に思い至って顔を上げる。


「指示は……『特殊武器を手に入れる為に、あんらくさん周辺の人物に雇われろ』?」


「――」


 にぃぃ、と悪戯が成功した子供のような、とは言い難いほどの悪い笑みを浮かべる雪花は、愉快そうに喉を鳴らしながら高らかに指を鳴らす。


「そう――だから、指示通り雇われた。文脈から読み取れようと、細かく伝えなくとも理解できるであろう単純な事だろうと。契約の時に明文化しろと俺は言った。彼は雇われるフリをしろとは言わず、雇われろと言ったんだ。二重契約はしないってことまで確認してたくせにね」


 だから、この件に関しては完璧に彼の失態だ。と手厳しい評価を下す雪花は、気障ったらしくこちらに手を差し伸べる。

 目を細め、僅かな不愉快さを示しながらその手を取れば、足元に根っこがあるから気を付けてね、と笑顔と共に誘導される。

 雪花の誘導の下に進む道の進路を変える。元来た道を戻る素振りを見せた雪花だが、すぐに思い直したようだ。


「とりあえずグルアは木登り出来ない筈だから、避難ね」


 辺り一面に立ち並ぶ木々の中でも、一際巨大な木に登るように言われ、大人しく登ればもっと上の方へ行くよと手を伸ばす。

 その手を取って上の方へ、4メートルはありそうな高さまで登り切れば、隣に座った雪花が長剣を抜き、その刃の軌道に乗せた風の魔術で登るための足掛かりとなった下の方の枝葉を切り落とした。


「とりあえず、ボスの質問にあった襲撃はあると思う。今、格好のチャンスだしね。ボスが竜脈から帰って来て、着替えに行ってる時あったでしょ? その時に接触してきてさぁ、どうもボスとギリー君の会話をグルアを通して内容まで把握してたみたいで、竜の卵は絶対に手に入れるとか豪語しててね」


「とりあえず雪花の性格が悪いことはわかった。それで、得意技とか、注意点は?」


「意外とボスって人を疑わないよね? 注意点はやっぱり魔符の位置かな。今回は先回りして仕掛けてる可能性が高いから、一時進むのはストップしたんだけど、わかるよね?」


「今、調べてる。“符術師”……魔符と呼ばれる札に魔術回路を? 爆弾式魔法みたいなもんか」


「ま、そうだね。発動条件は「肉声による番号指定」と「発動動作」。番号を言うことによってどの札を起爆するのかを指定して、予め統括ギルドで認可された動作によってのみ魔符は発動する」


「てことは……全部ばらばら? 敵の条件については判明してるの?」


「問題は番号の読み方すらも符術師によって違う、って部分なんだよね。世界何か国語だったか、統括ギルドで登録さえしてしまえば何でもありみたいで……だから、変更してる可能性……いや、変えてると思う」


 実際に一緒に行動していた時でさえ、1戦闘毎にランダムに変更していたようだと語る雪花は、更に頭の痛い難問を教えてくれる。


「他にも時限式の魔符もあるみたいなんだよね。動作無しで発動してたけど、直前にセットして一定時間後に炸裂するみたい。後、問題なのはたった1人の癖に、6頭もモンスターがいるせいで符術師の強みを存分に生かしてくるところ」


 雪花が言うには本来の符術の推奨される使用法は「待ち伏せ」、「誘導」といった、多人数での運用が主らしいが、それを“ヒューマン・アイザック”はモンスターを使役することによって上手く解決しているらしい。

 待ち伏せからの、6頭ものモンスターによる誘導。気が付けば足元で魔符が多重炸裂し、怯んだところにモンスターが止めをさすという連携だそうだ。


「生半可なHPだと一撃死するパターンも見たよ。威力は相当だけど、序盤の魔符だからね、それだけの威力を持たせるには一か所に設置する魔符の数も馬鹿にならない。魔符の購入、制作には特に金がかかるとこぼしてた。いくら無差別PKで荒稼ぎしていても、持てる数には限度がある」


「つまり、必殺の地雷は数が限られてくる……一撃必殺を好むタイプ?」


「いや、バランスよくってタイプだ。竜の卵ってことで全力を傾けてくるだろうから、全部の魔符を使用すると仮定して……半分は一撃必殺。半分は誘導と通常攻撃じゃないかな」


「……森林破壊覚悟で木の上を渡りながら攻撃するのは?」


「撤退されて埒が明かないと思う。エアリス周辺に森は無いから、最終的に草原で出迎えてくれるよ」


「――油断してる今が責め時、か。グルアの大きさは……ライオンくらい? でかいな、相変わらず」


 しかもグルアは骨格のせいか、どちらかというと体高が低めで、重量感のある印象を受けるモンスターらしい。

 骨太で顎の力もドルーウより強く、飢えれば骨も噛み砕いて食べてしまうとか。厄介な敵に目をつけられたと思いながら、早急に立てなければいけない作戦を考える。


「……手元にいるのはギリーだけだしな。てことはモルガナは? 向こうと一緒に行動させてたりするの?」


「流石ボス。そうだよ、あの男、ドラゴンとかユニコーンとか大好きだから。俺を雇ったのももっさんが理由だしね、今頃うんざりしてるんじゃないかな」


「モルガナは知ってる?」


「知らないけど、大丈夫。美少年か美少女とボスを比べるなら迷うかもしれないけど、あの男とボスにお願いされたら、迷いなくボスの言うこと聞くから、もっさんは」


「厳格なユニコーン像が壊れるからこれ以上聞かないけど……わかった、よし――あれ?」


 残念なユニコーンの姿が浮き彫りになりかけて耳を塞いだところで、自分はあることに気が付いた。

 思い至れば簡単で、あまりにも簡単なのでその成功に疑いすら抱くものの、とりあえずの不備は見当たらない。

 不思議そうな顔をして首を傾げる雪花を見て、次に眼下を見下ろして敵影が無いこと確認してから、自分はその最悪な計画を口にした。


「それさ――モルガナに頼むだけで倒せるよね? たぶん」


「……あ」


 この状況ならモルガナの角の1振りで、とりあえず術者は背後から仕留められるんじゃなかろうか、という提案は、雪花の間抜け面に肯定されて実行に移されることが決定した。

 試したことが無いという感覚の共有からの、モルガナへの不意打ち命令。グルアだけは自力で仕留めなければならないが、自分としてはプレイヤーよりも対モンスターの方が戦闘には自信がある。


「よし、それで行こう」


「……あいあいさー」


 こうしてあっさりと対策は立ち、自分達は準備の為に立ち上がった。


 ――まさかの、“ヒューマン・アイザック”、華麗なる出落ちプランである。









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