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【Under Ground Online】  作者: 桐月悠里
1:Under Ground(意訳――目に見えない仄暗い世界)
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第四十二話:現実的な諸問題

動物の解体シーンがあります。詳しく描写してはいませんが、苦手な方は一応注意。

 


第四十二話:現実的な諸問題




 画面いっぱいのお宝映像、ゲームのプレイ画面が映し出された視界。高揚した気分で冷たい和菓子を口に含む。

 夏の昼下がりの自堕落な一幕。良く冷えた葛桜を手探りで口に放り込み、ゴーグルが映し出す映像に集中する。


 繋いだ回線が足に引っ掛かり、そのまま足でだらしなく押し退け、二個目の和菓子に手を伸ばす。揺れることも無く、モニターという枠に切り取られる事の無い直接的な映像が、更に自分の気分を高めていく。


 ゴーグルに直接回線を繋ぐことで、リアルタイムの実況動画を見られるこの機能は画期的だ。値段は張るが、こうも楽しければ買い揃えた甲斐があったというもの。

 手探りでエアコンのリモコンを取り、温度を更に2つ下げる。贅沢は一度にまとめて、これは我が家の鉄則でもある。


 すぐさまリモコンからの信号をキャッチしたエアコンが作動し、夏の蒸し暑い空気を一掃するべく冷たい空気を吐き出し始める。

 頬を涼しい風が撫ぜ、かろんかろんとグラスに入った氷が躍る。ヘッドフォンから聞こえてくる実況者の声に無音で笑い、視界いっぱいに広がる最新のAR(拡張現実)ゲームの世界に浸り込む。


 今日はどこかのダンジョンに潜っているらしく、地下遺跡だというその薄暗い空間を歩いて行く。座ったままダンジョンに潜ろう! というこのRPGはまだ発売されたばっかりで、プレイしながら自力で攻略サイトを作ろうというこの企画動画は、かなりの人気を有している。


 涼しい部屋で動画を見つつ、しかしそのゲームの中は熱気がこもっているという設定らしい。実況主のパープルさんはサービス精神と言いながらエアコンの使用を全面否定。敢えてゲーム内と同じ温度設定のままプレイしているという状態らしい。


 時折聞こえる、熱い、熱苦しいという声や、魔法の呪文を唱える声。どもりながらの魔法は発動せず、モンスターが跳びかかって来るのを間一髪で剣で一撃、その間に唱え直した炎が敵を焼き――。


「――【フレイム】!」


 それと同時に、記憶の中のモンスターだけではなく、今まさに自分の目の前に迫っていたモンスターをも焼き尽くす。


 群れで飛びかかってきた鼠達を分厚い炎の壁で出迎えて、一匹残らず炎の中へ。隙間を残さず通路を炎が埋め尽くし、緩やかに消失するまで燃え続ける炎が鼠達を焦がしていく。


 何匹かが壁を突破。うっすら焼け焦げた身体で炎の海から逃れた所を、自分の足が容赦なく再び炎の中に叩き込む。

 断末魔が鋭く響き、次の生き残りを警戒して身構えるも、走り出てくる鼠はいない。少しだけ息を吐き、ステータスを横目に確認しながら背負ったリュックの中身を気にかける。


「……やったか」


 名前も生態も知らない小さな鼠のモンスター相手に、最大火力のフレイムを撃ったのはひとえにその数の多さだ。

 ハムスター程度の大きさの鼠が30匹ほど、音で事前に察知していなかったら危ないところだった。咄嗟の魔術のチョイスにも助けられた部分はあるが、それ以前に詠唱が間に合わなければ意味がない。


 しかし、ガス欠になれば全てが終わる。魔力が空っぽになるのだけは避けたいと奥歯を噛みしめながら、回復するより減る方が速い魔力の数値を確認する。


「細かい波みたいな足音は鼠だから火、湿った息づかいはアドルフだから水か火、地中から響く音はモグラだから土、羽音はコウモリだから風……」


 初見のモンスターはどれも対策を立てるのに苦労するが、相対したときにどれだけ即座に対策を立てられるかが生き残る鍵だ。


 鼠は初めて会った時、流石に死を覚悟したが、用意していた魔術がファイアだったことに救われた。目くらましと小ダメージ、その間にフレイムの詠唱を噛まずに言い切ったのが勝因だろう。


「……数が多い、しかもまるで迷路だ」


 こういう時にこそ、頼りになる相棒にいてほしかった。システム調整で忙しいルーシィの顔、ギリーの顔などを思い浮かべつつ、周囲の様子を窺いながら歩き出す。初めは隠密に頼っていたが、それも今では無意味と悟った後のことだ。


 狭い通路では高い索敵能力を持つモンスターの目を誤魔化せるほど距離が取れず、下手をしたら隠密による消費魔力に足元をすくわれかねない。


 せめて『デザートウルフ』があればよかった。微妙に高い位置を飛ぶコウモリは撃ち落とせるし、小型であればどんなモンスターにも牽制にはなる。


 魔術を撃って体勢を崩したところを節約の為に物理で叩いている現状では、飛び道具が切に欲しい。近付けば反撃を許す可能性が高くなるし、やはり剣士系のアビリティをメインに使っている人でない限り、魔法系アビリティは体力が劣る。


「無い物ねだりをしても仕方がない、か」


 炎がゆっくりと消えていくタイミングで顔を上げれば、大量の死体が目に映る。炎に照らしだされた通路は再び闇に埋もれて行き、しかし契約スキルによって夜目が利くということは、やはりどこかに微かに光源があるのだろう。

 流石のモンスター達でさえ、一部を除いては真っ暗闇では見えないだろうから。


「ふーぅ……」


 先程から炎の魔術を使う度に空気が熱くなっている気がする。涼しい部屋での幸せな一時の思い出に浸って誤魔化していたものの、回想の途中で余計に暑苦しい映像が入ってしまった。


 無しだ無し、テイクツーと行く前に、契約スキルで底上げされた聴覚が湿った息づかいを聞き取り身体が強張る。


「――“火の精霊に似る 線を繋ぎ点火する”」


 独特の呼気、湿ったような息づかいが特徴のアドルフは、中型犬ほどの体躯に長い耳、黒く短い体毛に覆われた大きめの兎のモンスターだ。


 その瞳は赤く爛々と輝き、発達した鉤爪で獲物を細かく引き裂き、鋭い牙で柔らかくしながら喉の奥に血の滴る肉を流し込む――という生態は、まんま見た事だけをあげつらったらそうなった。


 見たくもないアドルフの食事風景を目にしたのは2回。


 一回目はコウモリとの交戦中。仲間意識など欠片も無い様子で乱入したアドルフがコウモリに喰らい付き、見たまんま、爪で引き裂き、牙を剥きだして肉を呑み込んでいったという衝撃的な一幕。


 二回目は自分がモグラとの壮絶な死闘を終え、そそくさと隠密を使いその場を逃げ出した直後。少し距離を取った後に、背後から聞こえる湿った音に振り返れば、鋭く短い牙を剥きだしにしてモグラの肉を貪る兎さんの姿。


 思わずひゅっと息を呑んでしまった自分に気が付き、更なる肉を堪能しようと悪魔がこちらに走り寄って来た瞬間に、その小さめの頭に蹴りを入れ、慌てて唱え終わっていた水の魔術を発動したらこれが意外と効いたのだ。


 どうやらその長い耳は暗闇で活動する感覚器官であるようで、水の魔術が触れた場所が機能しなくなったらしい。

 目の前にいるのにぐるぐると見当違いの方向に跳ねた様子から、何らかの方法で耳を封じれば良いらしい、ということはわかった。


 ただの水ではダメなのかもしれないが、自分が立てた推論は、この魔素だかなんだかよくわからないものが大量に満ちているという空間に好んで住んでいるということは、恐らく魔素を感知する系のモンスターなのかもしれないという説だ。

 そのため、恐らくは水でも火でも、魔力で出来たものでその感覚器官を潰せばいい。


「……」


 遠くから響いてくる湿った息づかい、どうやら血や肉の臭いにつられてやって来るようで、戦闘の後は必ずアドルフという名の彼等が“掃除”をしにやってくる。


 未確認の道があれば彼等との遭遇を避け、その足音から逃げるのだが、既に他の道はチェックした後。

 次の分かれ道に差しかかるまでは一本道なので、ここで後退する理由が無い。


 前足も後ろ足も、アドルフの爪は一本だけが特に鋭く巨大化している。前に恐竜図鑑でみたような、歪な発達の仕方をしている爪は切れ味鋭く、先程は倒せずに逃げただけだから回収できなかったが、上手く倒せれば急場しのぎの武器としても扱えるかもしれない。


 ――湿った息づかいと共に、こっふこっふと独特の鳴き方をしながらアドルフが近付いてくる。彼等は器用にも発達した爪だけを上に上げ、石畳に掠りもしない歩き方をするようだ。


 石畳と爪が擦れる音がしないまま、暗闇にぼんやりと鬼火のような光が2つ浮かび上がる。

 赤く爛々と光る瞳が見えた瞬間、全力で右に上体を倒し、遅れて下半身も傾ける。動き出したのを確認してからでは間に合わないほどのスピードで、漆黒の兎は獲物へと向かって跳びかかってくる。


 予想通り、先程まで上半身が存在した部分には漆黒の塊が浮いていて、剥き出しになった爪が視界の端に鋭く光る。


 そのまま何も考えず、何度も頭の中でシミュレーションを繰り返した通りに右手を床に勢いよく叩きつけ、全身を使って宙に浮く兎の腹に下から左膝を打ち上げる。


 後ろ足の爪が掠め、熱と血が散るのを無視。前へ進もうとする力と下から突き上げられた力に引っ張られ、無理な体勢で頭から石畳に突っ込んだアドルフを、地を這うような低姿勢で、最短で距離を詰める。


 衝撃から立ち直る前に膝で無理矢理抑え込み、乱暴だが耳を纏めて掴み上げる。陸鰐にやったように、今度は直接自分の魔力をその大きな耳から流し込み。


「――【ファイア】!」


 の一声で、内部から魔力に焼かれたアドルフが、苦鳴もあげずに動かなくなる。シミュレーションでは完璧だったが、後ろ足まで獲物に向けているとまでは考えが至らなかった。


 跳びかかり方が殺戮に特化しすぎている、と思いながらも決して小さくは無い兎を蹴りつけ、ふらふらと立ち上がりながら手についた砂をはらう。


 負傷を確認すれば見事に巨大な爪の痕、開きっぱなしのステータスをちらりと見れば、結構な負傷らしい。一気に4割も持っていかれている。


 肉の断面的なグロテスクさは無いものの、酷い怪我なのは見てわかる。軟膏も無い、布も無い現状では何ともならず、体力の回復を優先してその場に慎重に座り込む。


 べったりと麻の服に付着している血液が派手で仕方がない。外に出たら余計にスプラッタだろう。痛みのスイッチをオフにしている以上、痛くないからといって無理をするわけにもいかない。


 たとえ痛みが無くとも、動けない時は動けないらしいということは森の中で敵を撃ち抜いている時に嫌というほど確認したのだ。特に足の負傷は怖い。


 腕の攻撃よりも足の攻撃のほうが威力が高い以上、少しでもダメージを稼ぐためには負傷は厳禁。

 すぐに立ち上がれるようにはしつつも、壁に凭れて座ったままアドルフの死体へと手を伸ばす。こうして落ち着いて触れて見れば毛皮はビロードのように柔らかく、高値で売れそうだなとちょっと思う。


「爪は……後ろ足のが大きいのか。引き抜く……? いやでもエグ……」


 急場しのぎの武器になるかもしれないとは思ったが、切れ味が鋭すぎて掴めないという結論に至った。

 心を鬼にでもすればちょっと解体して骨を取り出し、手頃な大きさの骨にズボンの切れ端を使って鉤爪を括りつけることも可能かもしれないが、今より更にスプラッター。


 手も足も血塗れで、きっと手の血はシャツで拭うことになるから、飛び散る分を考えてもどこぞのホラーよりホラーな状況。


「やむを得ないか……」


 しかし折角手に入れた竜の卵をみすみす此処に置き去りにするくらいなら、今後も必要になるであろう解体くらい出来なければ不味いだろう。


 幸い、兎、イノシシ、鹿までだったら父が山で解体しているのを見た事がある、さほど抵抗は無い。犬や猫は無理だろうが、兎なら食肉気分でいけそうな気がしてくるから不思議なものだ。


 父がやっていた手順は覚えていないが、兎は確か解体がしやすかった。ナイフは後ろ足の爪を使えば代用できるはずだが、無理に曲げても大丈夫だろうか。


 恐る恐る、しかし死後硬直が始まる前にと、引き寄せたアドルフの後ろ足を掴み、そのぐにゃりとした温かさに困りながらも曲がったナイフのような爪を注意して扱う。


「……えっと、どこからだったかな」


 確か兎は想像以上に皮が綺麗にぺろんと剥けたはずだが、どっからやるかは曖昧な記憶しかない。サバイバル系のドキュメンタリーも結構見たから、こういうのは楽しめる方だし、知識も普通の人よりかはあるつもりだが、実際にやるとなると動画で見るより難しい。


「皮を剥ぐときに頭は落とすのは最後だった……内臓も出てなかった綺麗な状態だったから、皮だけ……うーん、皮だけ切るのか、最初は」


 動画や写真で見たことがある解体図を思い出しながら、よく考える。確か足に切れ込みを入れて丸ごと綺麗に剥けるはずだ。

 毛皮としての価値を残しつつ、肉としても、素材としても申し分ない状態にするには、皮に余計な傷をつけてはいけない。


 ……完全に食肉用の捌き方だが、この肉は食べられるものなのだろうか?


「あー……あー、確かそう、両足首の所にぐるっと切れ目を入れて、指を入れて、皮をこうつるっと」


 周囲の物音に注意しつつ、両足の爪を拝借して、兎の足首にぐるりと浅く切れ目を入れる。

 その後はぐっと力を入れながらゆっくりと、皮を引っ張ればいけそうな予感。


「よし、これならゆっくりやればいけるか」


 毛皮がどれほどの価値があるのかわくわくしつつ、丁寧に毛皮を剥きながら横目でステータスをちらりと確認。

 大分回復してきたが、まだ後2割が減ったままだ。水分はたらふく紅茶を飲んでいたので大丈夫だが、気が付けば空腹値が0になっていた。

 更にステータスを良く見て、重大な事に気が付く。


「……魔力が回復していない?」


 先程から、こうして大人しく座っていれば回復する筈の魔力が回復していない。原因を考えるも、ふと浮かんだのは先程の空腹値の値。


 まさか燃料が空っぽだから、回復しないのだろうか。思わず手元の兎を見るが、半分まで剥いだ皮の下には、スーパーで並ぶような美味しそうな肉の塊。

 毛皮さえ剥いでしまえばただの肉とはよく言ったものだが、実際にこれはもう食肉だろう。肉食兎なので臭みだけが心配だが、見た目にはわからない。


「……」


 魔力が回復しないのは困る。空腹値が0だと、どうなるのかわからないという不安もある。手の中の肉をじっと見つめ、状況を踏まえて料理が可能かを考えだす。とりあえず仮説が正しいのかを検証すべく、ポケットに放り込んでいた胡桃を取り出す。


 お茶請けに出された木の実だったが、行きがけに少しだけ分けてもらっていた。それをぽいぽいと口の中に放り込み、若干の砂っぽさにげんなりしながら噛み潰して呑み込んだ。


 ステータスを開けば空腹値が若干回復、といっても1%ほど。栄養価は高いが量が少ない為、こんなもんかと思いながら様子を見る。

 見る見るうちに増えた空腹値は0になり、ぴくりとも動かなかった魔力の値が若干回復している。


「なるほど……魔力も一種のエネルギーという扱い……なのか?」


 若干、専門外だが熱力学第一法則ではエネルギーは移動するものであり、消費するという概念とは一線を画すと聞いた事がある。あっているかは不安だが、確かそんな理屈だった。


 この場合、胡桃が保有しているエネルギーが魔力になり、魔力が保有するエネルギーが魔術となり、何か自分が知らない方法でまたそこからエネルギーが循環している筈だ。


 となると逆説的に魔力は燃料を必要とする時点で、エネルギーの概念に囚われた物質であり、全く未知の物質ではないということになる。

 おそらく、多分、あんぐらの理屈っぽさを踏まえてという限定的な考え方だが、そう的外れでも無い筈だ。


「エネルギーそのもの? いや、エネルギーを内包した物質?」


 何か、まだ情報が全然足りない。考える以前の問題には区切りをつけ、とりあえず考えながらもゆっくり作業を続けていた手元を見る。


 丁寧に全部が繋がったまま剥けた毛皮を前にちょっとだけ考えたが、此処まで来たら知らなくてもやることは何となくわかる。

 ぐるりと剥け切れない前足の先を切り落とし、次に血が飛び散るのを覚悟で後ろ脚の爪を使い、毛皮を傷つけないように頭を落とす。


「……うおぉ」


 案の定血が溢れるが、そこで肉と毛皮は完全に分離終了。ぺろりとひっくり返せば、中の肉だけが抜かれた毛皮がぺろんと垂れる。


 頭付きだし、前足もついてるし、裏側さえ覗き見なければ剥製のようだ。あまりグロテスクではなかった事に安心し、反面血塗れの肉の塊に目を向ける。


 初めてにしては素晴らしいと褒めてほしいくらいの出来栄えだ。脳内シミュレーションが功を奏したのか、そう悪い状態でもない。


「肉……毒肉じゃないかな。魔術で焼けばなんとか……うーん」


 ファイアで内部を焼いたとはいえ、魔力量は全力ではなかったし、若干火が通っているような通っていないような……。


 とりあえず肉以外の食料が手に入りそうにないこの場所で、アドルフの肉はまだ良い方だ。鼠は食べるところが無いし、モグラもコウモリも、食べる部分以前に上手く捌ける自信が無い。

 手順を知っていた兎だったから何とかなったが、それ以外では毛皮どころか肉もズタズタにする自信がある。


「燃やすもの……うーん、ファイアで焼けるか?」


 とりあえず当初の目的、若干の毛皮つき生ナイフを確保する為に後ろ足を関節のあたりで切断。

 軽く足と爪の部分にズボンの布を巻き無理矢理に補強、どうにか原始的過ぎるナイフが完成。それを手に肉を持つもびしゃりとした血の感触に、とりあえず血を洗い流そうと水の魔術で肉を洗う。


「……美味しそう、かな?」


 水で血を流した肉の塊を前にううんと唸る。とりあえず腿の部分だけを切り取ってみて、試しにファイアを一発。


「熱つ、熱っ……!」


 手が焦げそうになりながらもしっかりと火の塊は空中に出現、その中に兎の腿肉を突っ込めば、じゅううと良い音を立てて肉汁と血が滴っていく。


 肉汁はともかく血が滴ったのにはドン引きしつつ、じゅうじゅうと肉を焼きながらこれを口に入れられるのかを熟考する。


 いけるか、いけるのか。果たしてこれを自分は食べられるのか――!


「……とりあえず、焼けたら場所だけ移動しよう」


 血生臭いにもほどがある場所で食べるのだけは無理だと思いながら、自分はひたすら迷い続けた。


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