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【Under Ground Online】  作者: 桐月悠里
1:Under Ground(意訳――目に見えない仄暗い世界)
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第二十六話:夢現

 


第二十六話:夢現




「――では、テスト開始ッ!」


 VRMMOの中で、しかもジャンルは一応ファンタジーと銘打っている作品の中で。


「……」


 こうして机に向かい、テスト用紙を前にテストというものを強いられているプレイヤーは、かつて存在したのだろうか。……もしかしたら、いたかもしれないと思いたい。


 さっきまでは素直に勉強していたが、いやどう考えてもおかしいと思う。どうしてファンタジーで試験なんだ? しかもゲームの中で銃を使う為の試験――あり得ないだろうと流石に運営に問いただしたくなってくる。


(いや、そんなことよりも大問題だ)


 そう。ただいま白井狛乃、もといゲームにおいて“狛犬”という名の自分は、大ピンチの真っ直中でだらだらと冷や汗を(感覚的に)流しつつ、テスト用紙を前に沈黙していた。


 真っ白なテスト用紙。どうしようという、それこそどうしようもない自分自身への無駄な問いかけ。更に追い打ちをかけるように試験官の冷ややかな視線が突き刺さる。


 いや、落ち着こう。とりあえず落ち着こう。深呼吸をして自分の精神をなだめるものの、追いつかないくらい焦燥感がハンパない。

 何故? 何故って自分が知りたい。寧ろどうしてこんな事態になっているのか。そう、自分がいま真に困っている問題とは――。


(羽根の使い方がわからない……)


 羽根だ。何の変哲もないただの羽根。

 それがインク瓶と共にそっと机の上に鎮座していて、自分の手に取ってもらうのを今か今かと待っている――のかもしれない。


 これは、なんだ? 羽根だ――じゃない、違う、自分が聞きたいのはこれは何に使うものかということだ。いや、答えはわかっている。多分、ペンだ。これはペンだ。ニコさんが使っていたものと似ているし……いやいや、もう諦めよう。


「……すみません。この羽根の使い方を教えてください」


「あ、ああ。そういうことですか。わかりました、これはですね――」


 問題の答えなら教えんぞ、というような顔をしていた試験官のお姉さんが、ちょっとまごついてから納得したような顔で立ち上がる。

 丁寧に使い方を教えてもらい、恥ずかしい気持ちでいっぱいになり、ぐすぐすと内心でぐずりながら羽根――羽根ペンだそうだ――を使ってテスト用紙を答えで埋めていく。


 しかしまあ問題は聞いた通り。拳銃の種類に始まり、拳銃とはという記述問題。予測した通りの、リボルバーとオートマチックの作動方式についての質問。

 全て問題なく解き終わり、あっさりと筆記は合格。次は実技だと試験官に微笑まれ、ありがとうございましたと頭を下げて別室へと移動する。


「――筆記試験合格者ですね。それでは、これより実技試験を開始します! 試験官の命令は絶対厳守! こちらが危険と判断した場合、即座に失格と見なします!」


 よろしいですね、と確認され、無論であると素直に返す。むしろ危険と判断したら止めてほしい。

 実際、自分はまだVRゲームとはいえ銃が怖い。馴染んでいない、という以前に、扱ったことがないという問題もあるが、人間誰でも使ったことがない未知の武器はまず恐怖が先に来るものだ。


 どれだけ見た目が格好よくても、どれだけロマンを感じて期待しても。わくわく感だけではない、御せるかどうかわからないという不安は常に存在するもので――。


「……ふー」


 ――自分もまた、例外ではないという事だ。


「では、まずはリボルバーの実技です。使用可能な弾は12発、6発全て装填したのち、的を狙い全弾を発射。再び6発全てを再装填し、的を狙い全弾を発射してください。装填、排莢、射撃方法、全てが正しく行われた場合に限り、試験合格を認めます」


「はい」


 返事をして、深呼吸。ギリーをおいてガラス張りの個室に入り、室内での射撃なのでイヤーマフで耳を保護する。ぽつりと置かれた小さなテーブルの上に鎮座する銃を手に取る。

 重い金属。冷たいグリップ。現実でも命を奪う鋼の塊。


「試験に使用するリボルバーは『F・ガルディック:正規版』です。作動方式はシングルアクション。では、試験開始!」


「……」


 無骨な銀色のリボルバーをそっと撫で、深呼吸をもう一度。


 正しく、忠実に。覚えている通りに作動方式をなぞらえる。リボルバーの実技なら、スイングアウトであると予測していた自分は迷わず回転式弾倉シリンダーをレバーを押し込みながら左に振り出し、テーブルに並べられた弾薬を1発ずつ静かに押し込む。


 作動方式はシングルアクション。撃鉄をしっかり起こし、コッキング完了。

 構え方にも種類はあるが、今回は両足を肩幅より少し広めにぐっと開き、しっかりと踏ん張ってバランスを取れるようにもう一度深呼吸。


 まっすぐに腕を伸ばし、銃を構える。リボルバーはオートマチックと同じ様な握り方をすると、シリンダーの隙間から吹き出した発射炎によって大火傷をするとあったので、まずは普通に利き手である右手で握り、それからグリップのそこを下から包み込むように左手で補助をする。


 銃口の上についている三角形の少し尖った凸型の部分、照星フロントサイトと呼ぶ部分と、ハンマーの上あたりについている照門リアサイトと呼ばれる凹型の部分をまっすぐになるように調節する。


 この2つは簡単な照準で、しっかり見て凹の部分の間に凸を、凸の部分に狙う目標を重ねてまっすぐになるように、狙いを定める。


「……」


 フロントサイトを的の中央へ。呼吸と共に不安定にゆらゆらと揺れる腕。ブレる的を狙ってまずは一発。覚悟を決めて引き金に指をかける。

 引き金にかけられた人差し指が緊張に震え、荒くなりかける息を落ち着かせれば今度はどくどくと心臓の音が耳につく。


「……」


 人を殺す時にナイフではなく、遠距離武器である銃を使う人間は、覚悟が足りないと誰かが言っていたのを聞いたことがある。

 音声ネットの中での、他愛ないちゃちな会話。その中で、直接命を奪う感覚のない銃を貶す人がいた。血も浴びない武器で、何が命の重みだと。


 勿論、音声ネットといってもただのネット。あっという間に議論は白熱し、結局よくある流れで決着はつかないまま、次の話に流されていったそれだけの話。

 あの時は自分もその意見に賛成だった。感慨もない殺害は重荷になるのかならないのか、簡単に考えて、自分はならないと思っていた。


「……重い」


 でも違う。どこか違う。何かが違う。


 初めて構えた銃は重い。よくわからない感覚に責められて、ただ引き金を引くだけがこんなにも重い。

 完璧だ、完璧。弾も正しい手順で込めた。シングルアクションだから撃鉄もそっと起こした。後は引き金を引いて的に当て、当たらなくとも再び撃鉄を起こして撃てばいい。


「……」


 何かが違う。どこかおかしい。こんな感覚に苛まれて、引き金を引ける筈がない。

 何だろう、何がどうしたのだろう。たかが銃だ。しかもゲームで、VRだ。なのに――。


「――こわい?」


 声に出して、口にして、初めてその感覚が正体を現した。

 怖い。銃という武器は、ただ的を狙うだけでこんなに怖い。これは武器だ。間違いなく、命を奪うだけの力を持った武器。


 『血錆のグラディウス』を持った時の、あの感触と全く同じ。“命を奪うという目的を持った武器”は、例外なくその重みを持っている。


 自分は盲目だ。ゴーグルによって世界の一端を見ることが出来たとしても、正しく“見て”いるわけじゃない。

 だからこそ自分は触れた時の感覚によって物事を判断する。危ないのか、安全なのか。直接触れた物が、人が、本当に信頼できるものなのか、それとも忌避すべきものなのか。どうあるべきかを、自分はその感覚で判断している。


 だからこそ。


 きっとこの感覚に、慣れはしても忘れてはいけない。

 ゲームだから、見えているから。だとしても、きっとこの感覚は忘れないだろう。薄ら寒いこの感覚。何故と問われてもわからないこの忌避感。

 高揚する精神と奇妙にも同居する、背筋を冷やす曖昧なこの感触。


「……狙って、撃つ」


 おそらく全てを的に当てなくとも、実技試験は突破できる。だけどそれじゃあ味気ない。

 高揚する。こんなにも精神が高揚している。同時に背筋がひやりと冷える。武器として使い続ける気なら、この感覚を友と呼べるまでにならなければいけないだろう。

 怖くない。怖いけど、怖くないと自分に言い聞かせる。撃てる、自分は引き金を引ける。


「狙って――」


 揺れるフロントサイト。リアサイトの凹の間を、ゆらゆらと揺れている。鼓動と共に振れるそれが、的の中央と重なる一瞬。


「――撃つ」


 発射炎が閃き火薬の匂いがする煙が散る、瞬きの合間に銃弾が的に命中。当たったのを確信すると同時に滑らかに撃鉄を再び起こし、リズムから外れないように間を置かずに引き金を引く。


「1発……2発、3発」


 撃鉄を起こし、撃つ、撃つ、撃つ。6発全てが遠くもなく小さくもない的に命中し、そのまま頭の中でシミュレーションした通りに手を動かす。

 レバーを押し込みシリンダーを振り出して、ロッドを押し込み排莢し、再び弾薬をそこに込める。


 ――どうせなら全部当てたい。


 そんな子供じみた意地のために、揺れるフロントサイトを調節し的を撃ち抜く。1発当てればリズムが掴める。タイミングを外さずに、間を置かずに銃弾を発射する。

 12発の弾丸、その全てが的に命中したのを確認し、つめていた息を吐き出して銃を置く。


「……リボルバーによる実技試験、合格。次はオートマチックに移ります」


 時間制限がないとはいえ、長時間動きがなかった自分を待ってくれていた試験官が頷いて、テーブルの上に置かれた空薬莢とリボルバーを回収し、オートマチックと入れ替える。


「次はオートマチックによる実技試験です。使用可能な弾丸はマガジン2つ、計18発。リボルバーと同様に、一連の動作が正しく行われた場合に限り、合格を認めます。尚、正しくデコッキングが行えるかも確認しますので、必ず一度は行うように」


「はい」


「使用する銃は『カラム・ガラム』。作動方式はコンベンショナルダブルアクションとなります。では、開始」


 銀色のオートマチック。作動方式はシングルアクションでもダブルアクションでも撃てるという意味であるコンベンショナルダブルアクション。

 そして指示されたデコッキングとはコッキング――装填した後に何らかの方法で撃鉄を安全に倒すことをいう。


「……」


 銃を手に取り、観察する。グリップを正しく握らないと発射できない安全装置、グリップセイフティはなし。サム・セイフティではなくデコッキングによる安全装置がついている。

 マガジンを手に取り、グリップの底から挿入。しっかりとはめ込んだのを確認する。


 コンベンショナルだろうがシングルだろうが、どのみちオートマチックの初弾は必ず手動。銃の上の部分、遊底――スライドを引き、初弾を薬室に装填する。これでコッキングが完了し、指示されたデコッキングにはいる。


 リボルバーなら撃鉄を指で押さえたまま、ゆっくりと引き金を引いてデコッキングを行うこともあるのだが、オートマチックの場合はそうではない。

 所定の位置にあるレバーを押し下げることで撃鉄が安全に倒れ、デコッキング終了。ダブルアクションの銃なので、撃鉄が倒れたまま引き金を引くことで銃弾を発射できる。


 照準はリボルバーと同じ、フロントサイトを的に合わせ、リアサイトで角度を調整。先程よりも落ち着いて引き金を引き――。


 ィィン――!


 ――発射音は、まず意識に上ってこなかった。イヤーマフをしていても流石になんらかの音はするはずなのに、無音だったような錯覚。妙な音の余韻だけが意識され、それよりもじんと痺れる腕に神経が集中する。


「……うわ」


 重い、反動が重過ぎる。


 筋力値が足りていないのか反動に大きく腕が跳ねるだけでなく、踏ん張っていたはずの足は油断によろけ、思わず数歩後ずさる。

 手首を、肩を、一瞬の間にぐっと強く押された感覚。発射炎と共に撃ち出された弾丸は狙いを大きくはずし、的の大きく上にあたったようだ。


「なにこれ……」


 シングルアクションのリボルバーの反動が軽いから、油断していた。重い、1発が重すぎる。というか引き金もやたらと重い。

 初弾だったからダブルアクションで撃ったせいもあるが、それ以上に反動が大きすぎる。これは銃自体が重いのか、威力が高いからそうなのかわからない。それともステータス的なものが足りていないのか。


(全部かもしれない……)


 ゲームの中での銃は現実世界での銃と名称も材質も異なるものがほとんどだという。つまり、独自の理論を上乗せし、現実のそれよりも威力や反動が強い銃がごろごろしているということだ。


 実技試験最初の銃は敢えて軽いものを使用しているのか。2つ目の銃はやたらと重い。不意打ちを食らった気分で、2発目からはシングルアクションとなった銃を構える。


 再び意地っ張りな性根が顔を出し、負けん気だけで引き金に指をかける。衝撃を押さえ込むのは不可能だ。なら、うまく受け流して撃つしかない。


「ッ!」


 まずは1発。反動でどうしても上がる腕の分を計算しても、ぎりぎり的の端に掠める程度。次々と撃つも腕は痺れ、正確性はどんどん落ちる。命中率は非常に悪い。


 重い衝撃を受け流し、よろめきながらも何とか9発全てを発射する。マガジンを取り出して、新しいものと交換。再びスライドを引いて初弾を薬室に送り込む。


 これではフロントサイトなど役に立たない。反動のせいでまともに狙ったらてんで違う部分に着弾するのだ。それでは全く意味がない。


 10発目。慣れてきたおかげで角度はわかった。本当にこれから銃を扱うなら問題だろうが、今はただ的に当てたい。


「ふー……」


 落ち着いて、鼓動をおさめる。集中し、この1発だけでも絶対に当てるつもりで引き金に指をかける。

 データの筋肉を柔らかく、しならせるつもりでリラックス。反動を受け流すべく、呼吸を合わせ、狙って――。


「よしっ」


 銃弾は見事に的に着弾。満足すると同時に全く違うことに目が奪われる。


 派手な音。リボルバーよりも大きな発射炎が赤く閃いて、その炎にどこか背筋が凍るような恐怖が蘇る。


 ――何故? どうして? さっきまでいくつも撃ってきたのに。たかがこれくらいの炎、いくらでも魔術によって生み出したのに。

 目の前で派手に森を燃やし尽くすほど、敵が思わず恐怖に悲鳴を上げるほど。あれだけの炎を目の前に臆しなかった自分が何故?


 違う、違う、これは違う。銃だからとか、人を傷つける為の武器だからとか、そんなのとは全く全然関係がない。


「――――」


 唇が勝手に動く。現実では掠れた声さえ出せない癖に、戦慄わなないた唇が何かを言う。


 何で、どうして?


 何故? 何が? どうして――。


 炎が閃く。赤い炎、綺麗な色。思わず見惚れるほどに赤く綺麗に瞬く炎。


 気持ち悪い、不安で心がいっぱいになる。

 この火傷と何か関係があるのだろうか? 幼い頃火事にあったとは聞いた。家が燃えて、自分がこの頬の火傷をおったと聞いた。詳しいことは聞かなかったし、じいちゃんも聞いてほしくなかったようだから、それでいいと思っていた。


 今まで炎を見て怖いと思ったことはなかった。家の中で見た蝋燭の火程度だが、それでも怖いとは思わなかった。


 火に対するトラウマは持っていないつもりだし、実際に魔術の火は怖くなかった。だからこそ、今感じているこの感情がなんなのか理解できない。

 わからない、気持ち悪い、どうしてだかわからない。


「――――」


 声が出ない。どうして出ない? 何かを言おうと思ったのに、声が形になってくれない。まるでリアルの自分のようで。

 でもここはVRで、現実じゃない。そう――。


「――現実じゃないんだから」


 声が零れる。形になった声が聞こえ、途端に謎の気持ち悪さもおさまった。

 一体なんだったんだろうと首を捻りつつ、今は試験の途中だったことを思い出す。


 慌てて引き金に指をかけ、的を狙い、撃つ。

 全弾全てを撃ちきって、ほっとして銃をテーブルに置く。


「……オートマチックによる実技、合格!」


 その声に更にほっとして、今まで感じていた恐怖なんて欠片も気にならなくなる。

 試験官にお礼を言い、ギリーと共に退出する。アビリティの進呈は受付で行うらしく、チケットのようなものを貰って部屋を出る。


「……うん、気にしない気にしない」


 気にならない。全部、全然。だからきっと問題ない。

 扉を開けて統括ギルドの大部屋へと戻ってくる。結構な人数がわいわい賑やかに話していて、ギリーを振り返りながら歩いていたら、思いきり人にぶつかった。


「わ、ごめんなさい」


「いえいえ。大丈夫で……」


 途中で不自然に言葉を切ったその人は、見上げるほど背が高かった。

 肩までの髪は豊かで、薄くけぶった金髪は複雑に後ろへと撫で付けられ、随分と筋肉質に見えるが、でもそれでいて若干頬がけているようなそんな不思議な男性。


 初老の人だろうか、40代後半のような年齢を感じさせ、ゲームの中だが片眼鏡までかけている。明確に顔に歳が出ている人はゲームでは珍しいが、現実ではそう珍しくもない。


「え、と?」


「ああ、いえ……」


 じっと自分を凝視するその人に声をかければ、憂いを帯びた目で、その人は突然声を潜める。


「怖いことは……ありませんか?」


 何か、触れたくないような。それでいてどうしても気になるというような。そんな様子で、その人は言う。


「何か怖いことは、ありませんか?」


「……」


 怖いことなど、ない。ないのに何故か、この人の声は不安を煽る。

 気が付けば匂いがする。懐かしいような、不安になるような匂い。

 “ホール”はその人の体臭や虹彩まで再現すると聞いたから、これはこの人自身の匂いだろうか。


「……いいえ……ありません」


「そうですか。突然、失礼しました……フレンド登録をしてもらえますか?」


「えっと……いいですけど」


 変な人だな、と思いながらまあゲームだしとフレンド登録をして、その人――ルークさんは静かに去っていった。

 一体なんだったんだろうと思いながらも、ゲームだから色んな人がいるんだなと納得し、ギリーを撫でながら受付へ向かう。


「試験合格おめでとうございます。こちらが“見習い銃士”のアビリティを込めた晶石です」


「ありがとうございます」


 自分が持っている晶石とは、随分と違う見た目のものを受け取った。

 銀色の滑らかな結晶は、飲み込むことでアビリティが取得できるアイテムらしく、そっと飲み込めばピリッと頭に刺激が走る。


「……よし、やった!」


 視界の端でNEWという文字が点滅し、しっかりと新アビリティ取得と表示されたのを確認してガッツポーズ。


『見事だ、主』


「ん、ありがとう」


 無事に試験も突破して、“見習い銃士”のアビリティもゲット。

 銃は既に持っているし、筋力上げが次の課題だ。ログアウトまでもう少し、エリア外で筋力上げをしようとロッカーに今持っているありったけのアイテムを詰め込んで、統括ギルドを後にする。


「ふふ……楽しいなぁ」


『それはよかった』


 VRとはなんて楽しいのだろう。まるでずっと楽しい夢を見ているように感じてしまう。

 楽しい夢。素敵な夢。夢の中で怖いものなんて、存在するわけもない。


 ああ、なんて楽しいのだろう。そうだ、怖いことは何もない。ここはバーチャル。夢の世界。

 発射炎を見て呟いた言葉なんて、きっと幻みたいなものだ。


「――――」


 だからきっと幻聴だ。怖いことは何もないのだ。


(――こわい)


 なんてそんなこと、



 無意識に言うなんてありえないんだ。



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