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プロローグ

「本当に外で見つかると思う~?」


「というか、見つけないと大会にすら出れないですよ! ただでさえ日本は治安が良過ぎて強い能力者が生まれづらいんですから。

 そもそも実力はあるのにその大会に出る為の予選大会にすら参加できるメンバーが足りないって事自体が問題ですよ」


 少し古い電車に乗って、2人の少女は対面席に座っている。

 2人とも最初はガタゴトという音と共に伝わる不快な程に大きな振動を、あまりクッションの効いていない席を通して感じ、何所かに座り心地の良い場所はないかと探したのだが、結局どこにも良い場所は無かったので対面席の一つを陣取ったのだ。

 もっとも、周りには疎らにしか人も居なかったので、特に気にする必要の無かった訳だが。


「だって、それは火之迦(ほのか)ちゃんが……」


 可愛らしい声でむくれるれた少女は、一言で言えば護りたくなるような、お嬢様風の女の子だった。

 優しげでパッチリとした目、花の蕾のような小さな唇、白い滑らかな肌、長い髪は中程から軽いウェーブが掛けられている。

 そして、座っていてもわかる程に、女子の平均身長よりも幾分か低い背丈に加えて、手足も同年代の同姓から見れば細い事は見てとれる。

 そんな少女の雰囲気はどこか臆病な小動物を思わせる事が更に幼さに拍車を掛けた。

 良く言えば愛嬌のある、悪く言えば幼い容姿。

 ただ一点。

 女性的な部分が自己主張している。

 勿論、実際には衣服によって隠されているものの、それでもその胸は大きかった。

 そんな彼女は、臆することなく目の前に座るもう一人の少女へと意見する。


「はいはい、私が足並みそろえられないから悪いんでしょう?」


 その意見された方の少女は、キツめの印象を持たせる少女だった。

 意志の強そうな釣り目、堅く結ばれた唇、引き締まった表情は、対面する少女よりも幾分か年上に見えた。

 こちらの少女も今時珍しく、腰まで届く髪は艶やかな烏の濡羽色と表現できるストレート。

 身長的には男子の平均である約170に届かないほどだ。

 それ故に手足も長く、まるでモデルとして理想的な体型。

 2人の少女を見比べれば、火之迦(ほのか)と呼ばれた少女の方が明らかに年上のように見えるのだが、どうやら口調から察するに、火之迦(ほのか)と言う少女の方が年下のようだ。


「もう! わかってるんなら、もうちょっと歩み寄る努力とかしようよぉ……」


 火之迦(ほのか)という少女は、見た目に違わない性格のようで、何かしらトラブルが絶えないらしい。

 というのも、火之迦(ほのか)はかなり強い能力を有している為に、周りが付いていけない。

 それに加え、性格的には自分に厳しく、他人にも厳しくを地で突っ走るタイプなので、周囲から反感を買いやすいのだ。

 火之迦(ほのか)が周りに合わせられれば良いのだが、それは自分自身を型に嵌め、狭めるとして拒否。

 それが身勝手と写って、周りから避けられるという事態になるのだ。


「……御影さんだって、味方内で自分を巡っての乱闘をさせる魔性の女って噂ですよ?」


 どうやら、この御影という少女もまた、火之迦(ほのか)と同じようにトラブルを起こすらしい。


「私はそんなことしないよ~、勝手に勘違いした男子達が勝手に決闘とかしてるだけで……」


 御影と言う少女は、最初こそマスコットのような扱いなのだが、天然であり無自覚な無防備さを振り撒くのだ。

 思春期特有の少年達は、そんな無防備さに食虫植物に飛び込む虫の如く飛び込み、不特定多数の異性を、傍から見れば誘惑するような形となり、本人も知らぬ内に御影を巡ってトラブルが起こる結果になる。

 周りが勝手にヒートアップいく分、火之迦(ほのか)よりも質が悪いのかもしれない。


「それが、魔性の女だって言うんですよ……」


「……やめよう、火之迦(ほのか)ちゃん。 今はスカウトのことだけ考えないと。 でも、吸血鬼なんて仲間にしても大丈夫なのかな?

 血とか吸われそうで怖いんだけど……」


「わからないですけど、でも……そのくらいじゃないと、国の代表になるには足りないと思いますよ?

 襲われた相手は、相手が女だったって事だけしか覚えてなくて、かなりの数が血を吸われたって事くらいしかわかってないですし、少なくとも1人も殺しては無いです。

 最低ラインの倫理はあるんじゃないですか? そのくらいぶっ飛んでた方が良い能力(チカラ)を持ってると思いません?

 同年代くらいの能力者は質があんまりよくないですし、形振り構ってられないんじゃないですか?」


 火之迦(ほのか)は、その強い眼差しで御影の眼を見た。


「でもでもッ、連携とかできないと難しい気が……」


「最悪、叩きのめして言う事聴かせてみせますよ。 それに誰の血も吸わせません」


 その声に淀みは無い。

 余程の自信が無ければここまではっきりとは言えないだろう。


「そっか、そうだよね……うん、信じちゃうよ?

 幸い、国も火之迦(ほのか)ちゃんみたいな強い人を遊ばせるつもりはないみたいだから協力的だし、大丈夫だよね」


「御影さんだって、能力的には固有型(インヘレント)発達(クラス4)まで行ったらしいじゃないですか……ともかく、能力者のイメージ払拭目的とはいえ、3度めの能力者の世界大会では……絶対に負けたくないんでしょ」


 能力者の世界大会。

 とある事情から能力者が生まれ始めた昨今。

 ようやく世界は安定し、スポーツや格闘技などの大会と同じく、能力者の大会を開催する程まで能力者は増えた。

 だが能力者は、ある条件を満たす者達が成る者であり、世界の中でも日本と言う国は、強い能力者が現れにくかった。

 過去に行われた能力者の世界大会で、日本は最下位。

 流石にかつては急激な発展を遂げた先進国として、技術を売る国として名を馳せた国の面目はあまり良いものではなかった。

 そんな中で、今年は火之迦具土神(カグツチ)という二つ名を持つ火之迦(ほのか)

 千里眼の御影という2人の能力者が現れた。

 能力者の学園では更に2人の代表選手が居るのだが、あと一人がどうにも力不足なのだ。

 そこで、能力者の発掘(スカウト)という手段で世界に通じそうな人材を探している、と言う訳だ。


「待ってなさいよ、吸血鬼」


 気合を入れた2人の少女の乗る電車は、殺人鬼の闊歩する八重樫という街へと進む。

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