疲れた時こそ甘いものだろう
Xが先陣を切って訓練室ドアを掴むと、その上から天明が手を重ねた。
少女漫画じゃないんだから勘弁してくれよとXは顔を顰める。しかし反対に天明は真面目な顔をして卓を見た。
「…居る」
天明が呟く。
「いる?って何が」
Xが大声で言うと、「馬鹿!」と天明がXの口を手で抑えた。いきなりの苦しさに「何すんだよ」とXは言うが、その言葉は虚しくモゴモゴと聞こえるだけで二人には伝わらなかった。
「訓練室の中…一人気配がする。私たちの師匠となる人だあね」
「あぁ、そうだな…でも一体誰が」
コソコソと話し合う二人に嫌気がさしたXはドアをこれでもかというほどの力でこじ開けた。
「あ」
「おいぃ!」
卓と天明が突っ込む間もなくドアを開けた先──────
そこには、水色の髪を黄色の頭巾で二つに縛るという不思議な髪型をした小柄な女の子が立っていた。女の子は青と白が使われたオーバーサイズの服を着ており、ゆっくりと振り返り三人を見た。
「師匠って…」
天明が呟く。
女の子は一瞬視線を落とし、その後に「やあ」と胸元で手を振った。
どうやら、女の子と天明と卓は古くからの知り合いらしい。
女の子は耳を髪にかけて微笑んだ。
「久しぶりだね、君たち」
「リュオンさん!!!!」
卓と天明が同時に声を弾ませた。
ワアワアと二人が飛び跳ねるほど喜び、リュオンの周りをクルクルと犬のように回った。
その後、卓はスキップでリュオンの隣に立つ。
その顔からは、花が飛んで飛んで飛びまくっている。
「紹介するだあよX、この人は戦士で元チーム片喰で前線を務めていたリュオン・スクワートさん」
卓はリュオンの隣に立ち、手でリュオンを示した。
「次はお前たちがチーム片喰でしょうが」とリュオンが卓に言うと、卓は照れくさそうに後頭部を掻いて笑った。
そしてXにペコリと浅いお辞儀をしたリュオンは、ぐっとXと距離を縮めた。
「X、君はやっぱり戦士向きの顔をしてるね」
リュオンは開口早々Xに向かってそう言った。
背が低いせいでXを見上げる形となるが、その目は青く、どこまでも澄んでいるような色だ。
リュオンはXから離れる。
「新生チーム片喰は、X、卓、天明。お前たちの三人。誰かひとりでも死んだらチームは解体、それがチーム片喰を組む条件だからね」
よし、とリュオンは手を叩いて腕を広げた。
まるでフリーハグのような腕の広げ方であるが、目的はハグではない。
「今からお前たちは私たちが言い渡す任務を成功させてくること。それが出来なかった者は糖分一ヶ月禁止!」
「糖分」
「一ヶ月」
「禁止!?」
卓、X、天明の順番で全員が悲鳴をあげた。
その悲鳴にリュオンはそうだよ、と冷静な返事をした。
「まず卓。お前は基本天術第四条までXに教えること!
次、天明。お前は周りの力を借りてXの専用天術を作らせること!
X、お前はそれらを全てマスターすること!」
三人は頷きながら聞くが、その奥では嫌そうな色が滲み出ている。
「以上!次に会うのは三週間後のこの時間。もし全員がクリアしたら…」
「クリアしたら?」
Xが聞き返す。
「超高級菓子店のクリームブリュレを奢ってやる!」
くりーむぶりゅれ…?とXが口の中で呟いた。
Xが思うに、卓と天明は食に執着がないだろう。
「ふざけるなあ!」「取り消せ取り消せ〜」と旗でも掲げて抗議する勢いのはずだと思い、ちらりと横を見た。
(…ん?)
そこには、ありえないほどキラキラとした目で宙を見つめる二人がいた。
まるでそこに絶品の料理があるかのような視線だ。
「その任務、やらせて頂きます師匠!」
二人の声が同時に重なる。
Xは唖然として固まると、リュオンはXの肩を叩き一言呟いた。
「まあ、頑張んなさいな」
その言葉に、Xは覚悟してしまった。




