あのね、聞いてね
あのクッキー、一枚に一体いくらなんだとXはぶつくさと文句と言い訳を言いながら廊下を歩いた。
時折ある「訓練室はこちら」という道印に沿って進んで早三十分ほど。
(まっっっったく訓練室に着かねぇ…)
自分が方向音痴なのかただ訓練室が遠いだけなのか分からなくなったXは、既に看板にすら疑心暗鬼になっていた。
しかしすれ違う人々はゼロに等しく、会ってもすみません、と声をかけられるほどXの肝は座っていない。
(どうしたものか)
Xが俯き曲がり角を曲がると、ちょうど視界の端に人が写った。道を聞こうと決心して息を吸うが、遠くのその人はXに突進する勢いで向かってくる。思わずXは吸った息を全て吐いてしまった。
男女二人組、凄まじい速度で向かってくる。
「退け!ドブスが!」
「酷いだあよ、そもそもお前が退け馬鹿狸!」
Xは向かってくる足音の大きさと迫力に茫然自失になった。
段々と止まれない速さになり、ぶつかる直前、女は男の袖を掴もうとした。しかし運悪く腕を前に振った男の袖には女の腕は届かず。
「ちょっと、天明!人がいる…って…」
隣で走っていた女がそう叫ぶと、既にXと男の距離はゼロに等しかった。
(やっちまった〜だあよ…)
女は口を一の字にして力を入れた。
「うわっ」
Xがそう短く叫ぶ。
「うおっ、なんだこのヒョロ丸ーーー!!」
ガキンッ。
一瞬、曲がり角にいる三人の空気が止まる。
それもそのはずだ。
Xと男は、二人一緒に鼻をぶつけて鼻血を出しているのだから。
ぽたぽたとどちらか分からない血が床に落ちる。
「あ、天明!お前馬鹿狸どころじゃないだあよ!
新人戦士怪我させて何してんだ馬鹿だあよ!!」
悲鳴に近い声で言った女は男の首根っこを掴んでブンブンと前後に揺さぶった。鼻血が宙を舞い、男は「口に、血が…」と顔を青くして呟いている。
女は気が済むまで男を揺さぶると、素早くXにポケットティッシュを差し出した。
「この馬鹿狸が失礼しましただあよ。私の名前は卓、この馬鹿狸は天明。君の名前は何だあよ?」
卓はカスタード色の長い髪をサイドテールにしており、セーラ服を着ている。まるで見た目は学生だが、立ち振る舞いや雰囲気からただの女の子らしさが感じられない。
Xはありがたくティッシュを貰い、鼻をぐしぐしと適当に拭って返事をした。
「俺はX…」
「X!?」
Xが言い終わらないうちに、天明が突然叫んだ。
おいおい、まだ鼻から血が出てるぞということには目を瞑ってやろう。
…そんなことより、Xは目を丸くした。
自分が名乗った途端、卓も天明も顔を見合わせて口を魚のようにパクパクとしだした。
なぜなのかと問おうとしたも束の間、天明はXの両肩を掴んだ。
「俺たちとお前、チームじゃねーか!?」




