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Hint is circle.  作者: 天気そら
訓練の巻
3/11

甘く、苦い口付け

大抵、常識というのは自分の評価ではなく大衆の評価で決まるものだ。

リンゴが赤いのは、大衆が「赤」と評価したからだ。

その大昔、リンゴは「青」と大衆が言えば、リンゴは青色と呼ばれていただろう。


それは人も同じだ。

人の印象は半分他人の評価に左右される。

それは誰しも同じだろう。


どんな善良な人間も、「あの人って人の悪口ばかり言う最低な人だよ」と聞けばその人の印象は悪くつく。そしてそれが事実でも事実でなくとも、段々とその印象はその人の常識と化していく…と。




目に優しい木の円卓の上に置かれたティーセットが、ふわふわと湯気を出す。


「昔本で読んだの」


女は温かい紅茶に角砂糖をゆっくりと落とし、スプーンで音が鳴らないように混ぜる。中心に渦が落ち、紅茶色に反射したスプーンが水滴を落とした。


「さあ、飲んで。故郷から送られてきた紅茶なの」


女はXの向かいに座り、マグカップを持ち上げて紅茶の香りを嗅いだ。

飲むわけではないのか、とXは勝手に突っ込む。


「私の名前はメテオラ。戦士上層部の一人よ」


Xが湯気のある紅茶を喉に流すと、沸騰の強さに思わずビクリと震える。

しかしメテオラはその行動に「フフ」と小さく笑みを零し、自身も一口紅茶を口に含んだ。


「こんな所に連れてきてごめんなさい。

私は貴方の担当になってしまったから、どうしても話すことがあってね」


ヒリヒリする舌をなるべく刺激しないように口の中で丸めたXは、少し涙目の様子でコクコクと頷いた。


「戦士は、二百人弱で形成される政府公認組織よ。

私たちの目的は、宇宙組織を討つため。そして、呪いを世界から無くし、戦争のない平和な世代を作ること」


平和…。

Xの頭の中でその言葉が反復し、砕けた。


「X、貴方にはこれからチームを組んで貰う」


「チーム?」


Xは冷めた紅茶を大量に流し込んだ。


「貴方は闘うために生まれたから、才能はある程度あるはずよ。だから先生を付けず、師匠とチームメイトのマンツーマン指導でなんとか半年後の宇宙戦争に備えて欲しいの」


Xは隣に置かれた茶菓子であるマーブルクッキーを咀嚼した。

一枚でコンビニのおにぎりが十個近く買える値段のクッキーに、Xは舌鼓を打つ。


「ということで、これから貴方は訓練室に行ってチームメイトと…」


「お、おい待てよ!」


クッキーに気を取られていたXだが、思わず手を前に出してメテオラを制止させる。

まだ戦士になるなんて言ってないし、そんな詳しい説明今されても困る一方だ。


「…そのクッキー、美味しかった?」


メテオラは突然目を下ろして一枚も無くなったクッキーを見つめた。正しく言えば、真っさらな皿を見つめているのだが、メテオラには無くなったクッキーが確かに見える。


「え、何だよ突然。まあめっちゃ美味かったけど」


「そのクッキー、食べたら戦士にならなきゃいけないのよ」


「は?」


Xはぽかんと口を開けてしまった。

メテオラは「あーあ残念。出されたものは疑って食べないとね」と呆れながら最後の紅茶を啜った。


「働かざる者食うべからず〜」


ニヤニヤとメテオラが笑うと、Xはぐっと腹が立ったが言い返せない顔をした。

しかしポッと何かが思いついたようで、勢いよく立ち上がり部屋のドアに手をかける。


「そのクッキーの値段!クッキーの値段分働いたら、俺は戦士を辞める!」


唐突な宣言に、メテオラは深く意味深な笑みを浮かべて手を振った。


「良いわよ、それで〜」


よぉし、言質は取ったからな!とXはバタンと勢いよくドアを閉めて部屋を出た。

綺麗に食べられたクッキーと飲み干された紅茶を、メテオラは一瞥した。


(騙しがいのある奴なことだ…)


くくく、とひとり笑いを浮かべながら。

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