幽霊は本当に居るの?
「…よう、琴里さんよ」
Xは妖艶な微笑みを浮かべながら床に足をつけ、「へーこれが地面ってやつか」と暫く感心した。
動揺した琴里が少し後ろへ下がると、そのすぐ後ろは壁であった。
押し返される感覚に内臓が浮き、思わず「う」と小さく唸り声をあげてしまう。
「お前、俺を目覚めさせてどうしたいんだ?」
詰め寄ったXは、琴里との距離が三寸ほどに縮まり、もう鼻と鼻がキスをしそうなほど近づいている。しかし二人の間に甘い空気など一ミリも存在しないようだ。
琴里のことを見定めるように凝視するX。その真っ直ぐで黒い瞳が琴里を射抜いた。実験台として死んだ女が遺した遺伝子が影響しているものだろう。
琴里はそんなことをぼんやりと考えながら、顔を背けた。頭の後ろに壁の滑らかさを感じ、琴里はそこで意識を戻した。
Xからの質問を脳内で反芻し、言葉を文法的におかしくないように考える。
「貴方は戦うために生まれてきたの」
琴里はXの肩を押して距離をとった。
されるがまま、食い下がらなかったXは意味が分からないと言いたげな顔で自分の手やら腕やら身体を隅々まで見ている。
「貴方は八十年前に生まれて、闘うために生かされてきた。貴方は選ばれし者なの、X」
納得できなさそうな顔のまま、Xはゲホゲホと咳をした。
肺に溜まっていた液体が口から零れ、琴里はポケットに入っていたハンカチを咄嗟にXの口に押し当てた。
「宇宙組織は地球人の血を狙っているの。私たちは同じ地球人の血を守るために、宇宙組織と戦わなければいけない。貴方はその闘う人の一人であってほしい」
口に押し当てられたハンカチに液体がじんわりと染み込んできたとき、Xは再び咳をした。
苦しげな咳では無いものの、吐血や嘔吐に近い感覚だろう。
背中を丸めるXを他所に、琴里は自己紹介をした。
「私は琴里。琴里・マシュルトン。貴方を目覚めさせた博士…もっと言えば、貴方を目覚めさせるために働いている博士」
口に押し当てたハンカチを離し、ポケットに戻す。
つい先日、情報役から緊急通告が戦士全体に配信された。
どうやら、半年後に宇宙組織が攻めてくると御丁寧に宣戦布告されたと。
組織名はシトラス。トップの直轄傘下にある宇宙組織だ。
戦士の血液と呪いの書かれた禁書を奪いに来ると言う。
禁書とは、特定の血液が入った者しか使えない禁術…つまり呪いが書かれた書。
「トップの宇宙組織は地球人の血を体内に入れて呪いを使ってる。でも、その呪いに必要な血液が底を突いたの。
呪いに必要な血液は、絶滅危惧人種の血か、戦士の血。
私たちは呪いの破壊をするため、そして血を守るために闘うの」
Xは少し面食らった顔をした。
自分が生まれた場所は鳥の巣のような仲間が饅頭のようにいる場所でもない。病院のように安全が管理されている場所でもない。戦場と近しい場所なのだから。
──────「闘おう。闘って、平和に生きよう」。
誰かの名言が、誰かの脳内で再生された。




