明日死ぬなら何をする?
──────天術、蜻蛉切──────。
卓の天術は、活力を刀に具現化させる能力である。
活力の具現化は、卓以外出来る者がいない。
卓の具現化した刀は全長四十センチ弱で、穂先が笹の葉のように伸びているのが特徴である。
穂先に触れてしまえば真っ二つに斬られると噂さえある恐ろしい武器だ。
卓は下ろした右手を滑らかな曲線を描きながら上げた。
その手には刀が握られており、伏せられた目、体を半回転すると同時に回る長い髪の毛。そして軽やかに上がる刀としなやかな腕。
神座でさえも見入ってしまうほど洗練された、美しい無駄のない動きである。
「一本勝負だったあよ」
刀が神座の横腹を掠める直前、卓は天術を解除した。
握られていた刀は弾けるように消えた。
卓は拳銃のセーフティーを元に戻し、レッグホルスターに戻した。
「終わりだあよ、神座」
卓が腰に手を当てて言うと、神座は一瞬不快そうに目を濁したが、その後にいつもの笑みに戻した。
「そうだよね、そう簡単には卓ちゃんに勝てないかあ。
残念、Xは諦めるよ」
神座は旋棍を背中にしまってそう言った。
卓は昔と変わらない、カスタード色でふわふわとした髪を流しており、ひし形の目からはいつも自信と根気で満ちている。
神座から見た卓は、そんな風に見えている。
戦士に入隊した十年前から、天才の上に努力を重ねた絶対に勝てない大きな壁。優しくて、人当たりもよく、可愛く笑う。だから人の悪いところに気付かず、どんな人も信じる。
初めに話した時は皮肉な神座を笑わず受け止めていた。しかしどんどん荒れていく神座を、卓はある時突然見放したのだ。目に見えるほどではなく、ただ話しかけてこなくなった。
神座はそれが寂しかった。
自分を肯定してくれる人が、どんどん減っていくからだ。
誰かに好かれたかった。誰かに「よく頑張ってるよ」と褒められてみたかった。
だけど、そのやり方を忘れた。
自分とは天と地の差もある卓。
神座は、自分の方が上だと卓に伝えたかった。鍛錬や任務をして怪我をする度に頭を過ぎるのは卓の顔だった。
いつになったら、いつになったらアイツに勝てるんだ。
一生勝てなかったら、どうすればいいんだ。
「神座、なんでXに手を出すんだあよ」
神座はそれを聞かれて笑った。
「Xが気に入ったからかな」
そんな大嘘を吐いて。




