お前が羨ましくてたまらないよ
──────専用天術。
基本天術を四条までマスターした者が習得できる自分だけのオリジナルの技である。
天術は、活力という体の奥に貯まっている力を放出することで使える術であり、活力は戦士と少数民族の血筋を持つ者だけが持っている。
その血を体内に注入することで、呪いという禁術を扱える。
「俺の天術知ってるよね、卓ちゃんは優等生だもんね」
神座は旋棍を手に握り笑った。
神座の天術は、確か受けた攻撃を半分にできる能力。
骨が折れるほどの力で殴っても、欠けるぐらいで済むか、ただ酷い痣で済んでしまう。
「…分かってるだあよ」
「そりゃ話が早くて助かるよ〜!」
明るくそう言った途端、神座は一瞬目を瞑り、腹式呼吸を一度する。
そして自分の頭の中で天術を出す感覚を強制的に思い出させ、その感覚を神経一つ一つに巡らせる。
そうすると体が天術を使った時の快感や鋭さを思い出し、電流が走るような感覚に襲われる。
その刺激で自分の意思関係なく目が思い切り開かれ瞳孔がキュッと縮むのだ。
これが戦士全員に共通する天術を扱うときのルーティンである。
(来る…!)
卓は重心を足に固定した。
自分も天術を発動させるべきだ。
(いやでも、ここで無防備に発動している間に神座が攻撃を仕掛けてくるか…?)
卓がそう考えている間に、神座は頭の中で力強く叫んだ。
──────天術、冬春二季──────。
神座の天術が発動した。
神座は地面を蹴り、蛇行走りをして卓に背後から近づく。旋棍の性質上、肘を曲げた時しか攻撃できない且つ前からは不可能。横または後ろしか選択肢はないのだ。
(つまり横!)
卓はポケットに入っていた万年筆を素早く取り出し、神座の脇腹を目掛けて腕を振った。
服だけが少し先端に触れるだけで、神座自体に傷はつけられなかった。
(しくった…!)
卓は万年筆を持った腕を反動をつけて大きく降り、片足で重心を取ってぐるりと回った。
腕を回すことで勢いがつき、綺麗に多く回れる。
「距離を取るのが上手いね」
神座は腕を伸ばして万年筆で裂かれた脇腹を見た。
小さく、しかしパックリと綺麗に裂けた脇腹は、卓の実力を示している。
「次は外さないだあよ」
卓は二メートル離れた神座を睨んだ。心臓が大きく脈打つ。
卓は、右太ももに隠されたレッグホルスターを引っ張り出し、左手で収納された拳銃のセーフティーを外した。
そして神座に焦点を合わせる。
それに気がついた神座は、「無駄だよ」と笑った。
「卓ちゃんが撃ってからココに届くまでの間に、俺は移動する。その移動先と速さを読めないと届かないよ」
そう。神座の言う通りである。なんの間違いもない。
卓はすっかりそんな基本的なことを忘れていたようで、「そうだった」と焦った顔をして拳銃を震わせた。
その仕草に神座はケラケラと笑い、「面白いなぁ」と他人事のように呟いた。その瞳には好奇心が浮かんでおり、Xとはまた違う不気味さだ。
卓は歯を食いしばった。
「それでも、撃つしかないんだあよ!」
卓は思い切り引き金を引いた。実弾が真っ直ぐと飛び、神座に接近する。
(無駄って言ったのに)
神座は卓が引き金を引いた途端に地面を蹴って横に移動した。
卓も落ちたものだ。一時期は同期戦士でトップを競っていたものの、今は自分相手にこんな取り乱すなんて。
落胆に近い気持ちを抱え、神座は卓を見た。
すると、ある事実に気がついた。
卓の利き手は右手である。それは神座でさえ知っている…というより、卓の専用天術は腕をよく使うため、右手ばかり視界に入るのだ。
しかし、何故。
(何故、左手で拳銃を握ってるんだ)
神座の動きが一瞬乱れた。否、かなり乱れた。
(焦るな、気分で変えたというのもこいつには有り得る。
それに、俺は鍛錬したんだ。こいつより、ずっと…)
乱れたせいで脚がもつれ、視線が卓から卓の足元にずれた。
左手で銃を握っているということは、右手はフリーということだ。
そもそも、卓は拳銃を握りながら天術を発動させることが出来ないと数年前まで、数年前まで言っていたはずだ…!
神座が言い訳をツラツラと頭に並べている時、隣で卓が静かに呟いた。
それは、卓の専用天術の名だった。
──────天術、蜻蛉切──────。
卓の右手には、天術の武器である刀が握られていた。




