第65話 沈んだ王国へ
風が強く吹いていた。
瓦礫の間を、乾いた音が転がる。
ひよりが小さく呟く。
「……ルーメリアって」
「タリナ王国の隣国ですよね」
レグルトの表情がわずかに揺れた。
「そもそもの始まりがルーメリア……」
「ルーメリアが消滅しなければ、タリナ王が領土を欲することは無かった」
目を伏せ拳を強く握りしめた。
ヴァルドが言う。
「多くの民も……ミリアも死ぬことは無かった」
———
セレナが問う。
「国が消えた場所に門があるの?」
リリアスは頷いた。
「正確には」
「門が開きかけたから」
「国が沈んだのじゃ」
ひかりが息を呑む。
「じゃあ……」
「ルーメリアは」
「深層に落ちたってこと?」
リリアスは答える。
「そうじゃ」
「大地ごと」
「深層へ」
塔の空気が重くなる。
ひよりが顔を青くした。
「そんな……」
「国一つが……?」
リリアスは静かに言った。
「わらわが言ったであろう」
「世界は一度」
「食われかけたと」
風が止む。
レグルトが低く言う。
「……魔王」
「沈んだルーメリアに」
「人は……」
言葉が止まる。
リリアスは少しだけ目を細めた。
「生きておる可能性はある」
その一言で、レグルトの肩が揺れた。
「ただし」
「保証はない」
「深層は」
「地上とは違う世界じゃ」
ひかりが腕を組む。
「でも」
「行くしかないよね」
全員が彼女を見る。
ひかりは意を決した顔だった。
「魔王の封印を解くには」
「深層に行く必要がある」
「しかも」
「門はもう開きかけてる」
肩をすくめる。
「だったら」
「今しかないでしょ」
ヴァルドが笑った。
「違いない」
「俺に失うものは、もう無い」
セレナがため息をつく。
「あなた達って本当に……」
そしてレグルトを見る。
「あなたは?」
レグルトは黙っていた。
やがて。
ゆっくり顔を上げる。
「……行きます」
拳を握る。
「確かめたい」
「ルーメリアが」
「どうなったのか」
そして小さく呟く。
「ミリアが死んだ意味を……」
ひよりと、つむぎは、何も言わない。
ただ、二人とも軽く頷いた。
リリアスが腕を組む。
「決まりじゃな」
赤い瞳が遠くを見る。
「ルーメリアまでは」
「三日の距離」
「じゃが」
声が低くなる。
「気をつけよ」
ひよりが聞く。
「何にですか?」
リリアスは静かに言った。
「門が開きかけておるなら」
「何かが」
「出てきておる」
沈黙が落ちる。
その時だった。
遠くの空。
地平線の向こうで。
黒い雲のようなものが、ゆっくりと動いていた。
ヴァルドが目を細める。
「……おい」
「見ろ」
全員が振り向く。
つむぎが息を呑んだ。
「なに……あれ」
⸻
空を覆うほどの
黒い影。
リリアスが低く呟く。
「……早すぎる」
赤い瞳が細くなる。
「もう」
「這い出してきておる」
塔の上に、冷たい風が吹き抜けた。




