第60話 予言の残響
塔の頂。
風が強くなっていた。
崩れた王城の上空を、灰色の雲がゆっくり流れていく。
誰もが黙っていた。
戦いが終わったというのに、空気は少しも軽くならない。
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レグルトだけが、まだセレナを見ていた。
疑うような目。
(この者たちが人を土の魔物に変えた…この世界に大きな陰謀の芽が渦巻いている。なら、そもそもの始まり、ルーメリアが消滅したのもこの者たちの仕業では…)
肩が震える。
事の始まりはルーメリア。
消滅が無ければ最愛の婚約者、ミリアが死ぬこともなかった。
「……まだ信用はできませんね」
腕を組みながら言う。
「魔王の封印を解く」
「その結論に至るには、判断材料が少なすぎます」
塔の空気が静まる。
セレナは何も言わない。
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その時。
ひかりが口を開いた。
「……レグルト」
少し迷いながら。
「あなたは、死の谷の決戦の場にいなかったよね」
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レグルトが視線を向ける。
「ええ」
「私は王都防衛に残っていました」
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ひかりはゆっくり頷いた。
そして言う。
「じゃあ……知らないよね」
遠くを見るような目。
「グラニスの分霊体の女の子が、死の谷で言ってた言葉」
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ヴァルドが、わずかに反応する。
ひよりも顔を上げた。
あの時のことを思い出している。
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ひかりは静かに続けた。
「彼女、言ってたの」
胸の奥から掘り起こすように。
「この国に、大きな災いが来るって」
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風が塔を吹き抜ける。
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ひかりははっきりと言った。
「魔王でない限り、止められないって」
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レグルトの目が細くなる。
「……」
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ひよりが口を開いた。
「私も覚えてる」
ゆっくり頷く。
「あの子、確かにそう言ってた」
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セレナが、少し驚いた顔をする。
「……そんなことを」
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ひよりは頷く。
ヴァルドが腕を組む。
「……つまり」
低い声。
「今回の件は、その災いの一部かもしれないということか」
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ひかりは小さく頷いた。
「うん」
「イグナートの研究」
「魔物」
「ノーム」
「全部、繋がってる気がする」
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塔の上に沈黙が落ちる。
レグルトが目を閉じる。
考えている。
最悪の可能性を。
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やがて、ゆっくり目を開いた。
「……もしそれが本当なら」
低く言う。
「この世界は、すでに危機の入り口に立っているのですね」
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セレナが静かに言う。
「魔王の血が必要なの」
「魔物の暴走を止める力」
「そして――」
少し言葉を止める。
「きっと、この世界が救われる、唯一の方法」
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ヴァルドが空を見る。
雲が流れている。
「魔王、か……」
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ひかりは拳を握った。
「行こう」
小さな声。
でも、迷いはなかった。
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「リリアスのところへ」
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塔の上で。
新しい決断が、静かに下された。




