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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第一章

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第六話 ぽにゃと召喚と、時間のずれ

 その日の夜。


 私は、治療所の簡素なベッドに腰掛けたまま、しばらく動けずにいた。


「……ひかりさん?」


 ひよりの声が、少し心配そうに聞こえる。


「さっきから、元気ないですけど……どうしました?」


 どうした、か。


 どう説明すればいいんだろう。


 私は、ぎゅっとシーツを握った。


「……私、戻らないと」


「え?」


「元の世界に」


 ひよりが、目を瞬かせる。


「もしかして……帰りを待っている……大切な恋人さん、とか……?」


 ぶんぶん、と私は首を振った。


「いない。そんなの」


 即答だった。


「違う。家族」


「ご家族……?」


「私の家族は、一人と一匹だけ」


 喉が、少し詰まる。


「ポメラニアンの、ぽにゃ」


 ひよりの表情が、やわらいだ。


「わんちゃんですか」


「うん。小さくて、白くて……すごく甘えん坊で」


 気づいたら、声が震えていた。


「私がいなくなってから……もう何日も、一人のはずなの」


 頭の中に、最悪の想像が浮かぶ。


 誰もいない部屋。

 空の餌皿。

 玄関の前で、帰りを待ち続ける小さな背中。


「ご飯も食べてない。水も……」


 胸が、きゅっと締めつけられる。


「……怖い」


 何が一番怖いかって。


「誰にも気づかれずに……一人で……」


 そこまで言って、言葉が続かなくなった。


 ひよりは、何も言わずに私の隣に座った。


 そして、そっと聞く。


「……ひかりさん。他に、ご家族は?」


 私は、首を横に振った。


「両親は、早くに亡くなって」


「兄妹も、いない」


「本当に……私と、ぽにゃだけで生きてきたの」


 しん、と静かになる。


 ひよりは、少し考え込むように視線を落としてから、顔を上げた。


「……ひかりさんの能力で」


「?」


「その子、呼び寄せられないんですか?」


 私は、苦く笑った。


「もう、とっくに試した」


「でも、ダメだった」


「私の能力……どうやら生きてるものは呼べないみたい」


 思い出す。


「攻撃ヘリも、操縦者はいなかった」


「物だけ。人も、動物も……ダメ」


 ひよりが、唇を噛む。


「……そんな」


 そのとき。


「グランさん!」


 ひよりが、勢いよく立ち上がった。


「なんじゃ?」


「召喚で、ぽにゃを呼べませんか!?」


 グランは、気まずそうに頭を掻いた。


「……すまんのう」


「最近、どうも召喚がうまくいかんのじゃ」


「呼びたいものが、呼べん」


 私は、がっくり肩を落とした。


「……やっぱり」


「いや、原因は分かっとる」


「老いじゃ」


「……老い?」


「腰じゃ」


 え。


「儂な、召喚中にぎっくり腰をやっての」


「集中が切れて、失敗するんじゃ」


「……腰」


 ひよりが、ぽかんとした。


「……腰ですか」


「うむ」


 次の瞬間。


 ひよりは、すっと前に出た。


 両手を、水平にかざす。


「……?」


 空気が、わずかに震えた。


 干してあった薬草が、ふわりと宙に浮く。


「……え」


 数種類の薬草が、光を帯びながら回転し、絡み合う。


 混ざり合い、溶け合い――


 ぱっと、緑色の液体になった。


 さらに、空中に小さな薬瓶が現れ、その中へ液体が注がれる。


「……ひよりさん?」


 彼女は、少し照れたように笑った。


「これが……私の、この世界での能力みたいです」


「薬の調合が……道具なしで、その場でできます」


「……凄い!」


 グランが、目を見開く。


「ほう……!」


 ひよりは、薬瓶を差し出した。


「グランさん。飲んでください」


「これは?」


「腰痛に効く薬です」


「ほっ?」


 半信半疑で、グランが飲む。


 数秒後。


「……ほっ!?」


「な、なんじゃこれは!」


「嘘みたいじゃ……腰の痛みが、ひきおった!」


 私は、思わず叫んだ。


「グラン!お願い!」


「ぽにゃを、呼んで!」


「お安い御用じゃ!」


 グランが、杖を構え、詠唱する。


 光。


 風。


 そして――


「クゥーン!」


「……!」


 白い毛玉が、床に現れた。


「ぽにゃ!!」


 次の瞬間、私は床に膝をついていた。


「ぽにゃ!ぽにゃ!生きてる!?」


「クゥーん!くぅっ!」


 ぽにゃは元気いっぱいで、私の顔をぺろぺろ舐めてくる。


 しっぽ、ぶんぶん。


「……よかった……」


 涙が、止まらなかった。


「でも……」


 私は、ふと疑問に思う。


「おかしくない?」


「もう何日も、ご飯食べてないはずなのに……」


 グランが、ほっほっと笑った。


「どうやら……」


「こっちと、あっちの世界では、時間の進み方が違うようじゃ」


「こっちの数日が、あっちでは数時間、というところかの」


「……!」


 胸を撫で下ろす。


「……よかった……本当に……」


 でも、次の疑問が浮かぶ。


「……じゃあ」


「私たちが戻ったら……」


 ひよりが、首を傾げる。


「?」


「しわくちゃのおばあちゃん、とか?」


「逆・浦島太郎?」


 一瞬の沈黙。


「……そうなる可能性も、なくはないの」


「えええ!?」


 私は、ひよりに縋りついた。


「ひよりさん!若返りの薬、作れる!?」


「ありません!」


 即答だった。


 ぽにゃが、間の悪さゼロで「くぅん?」と鳴く。


 ひよりが、くすっと笑った。


「……大丈夫ですよ」


「ひかりさんは、今のままで素敵です」


 その言葉に、胸の奥が、少しだけ温かくなった。


 ぽにゃを抱きしめながら、私は思う。


 この世界は、危険で。

 不思議で。

 お金も、時間も、常識もズレている。


 でも。


 白衣の天才と。

 腰を治した召喚士と。

 元気な愛犬がいるなら。


 ――なんとかなる気がした。


 節約しながら、世界を救って、犬も守る。


 そんな異世界生活も。


 ……悪くない。

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