第32話 もう一人の至高位大魔導師
王都中央区画。
崩壊した塔の上で、グランは杖を突き立てていた。
魔導兵の波状攻撃。
雷、炎、氷、重圧――。
それらすべてが、彼の周囲で歪み、逸れ、砕けていく。
「……くっ……!」
歯を食いしばるフロストリアの魔導兵たち。
「これだけの数で……!」
「さすが……至高位大魔導師グラン……!」
だが、グランの表情は険しい。
余裕などない。
内心、耐えているだけだ。
「数を誇るだけの魔法などで、このグランを倒せると思うな」
杖を振る。
空間が撓み、放たれた雷撃が地面へと逃げる。
「ほっ……甘いわ。未熟だの」
その声は老練だが、確実に体力は消耗していた。
⸻
雷雲が唸る。
「エターナル・サンダードラゴン!!」
咆哮。
雷の竜が天より落ちる。
だがグランは、召喚陣を展開しない。
「……同じ手は、二度も喰らわぬ」
詠唱すると同時に雷は霧散し、光の粒となって消えた。
「召喚獣すら呼ばずに……受け流しただと……!」
フロストリア魔導兵の間に、動揺が走る。
だが――
その瞬間だった。
空気が、凍りつく。
天空から、ひとつの影が降り立つ。
紫紺の法衣。
夜空のような長髪。
静かに、優雅に。
「……久しいのう、グラン」
その声を聞いた瞬間、グランの瞳が見開かれた。
「……アウレリア・ノクティス……!」
フロストリア至高位大魔導師の女性。
この世界に、二人しか存在しない頂の片割れ。
「なぜじゃ……!」
グランの声が震える。
「なぜ、お主がフロストリアに与する……!この戦が何を意味するか、分かっておろう!!」
アウレリアは、静かに微笑んだ。
「分かっているからこそ、ここにいる」
「フロストリアは世界の秩序を選んだ」
「タリナは……選ばれなかっただけだ」
「戯言を……!」
怒りが魔力となって漏れ出す。
だが、アウレリアの瞳は揺れない。
「……それより」
彼女は、グランの杖に視線を落とす。
「まだ、二柱しか呼べぬままか」
グランの呼吸が、止まった。
「……何を……」
「イフリートと」
アウレリアが、淡々と言う。
「エターナル・ブルードラゴン」
――言い当てられた。
「魔王を封じた時の代償……そのせいだろう?」
グランの拳が、震えた。
「黙れ……!」
「お主は、魔王封印の対価として召喚の扉を差し出した」
「世界を守るために、自らの召喚獣を切り捨てた」
アウレリアの声は、どこか哀しげだった。
「だから、わしの召喚には……及ばぬよ」
「……知っておったのか……」
グランの声は、かすれていた。
「当然だ」
アウレリアは目を閉じる。
⸻
アウレリアは、ゆっくりと両手を広げた。
「ならば、確かめよう」
「お主が守ろうとした世界が……守る価値があるのなら、わしを打ち破ってみよ」
魔力が、次元を越えて収束する。
空が、悲鳴を上げる。
グランの顔色が変わる。
「やめよ……それは……!」
「召喚!」
静かな詠唱。
退避するフロストリア魔導兵たち。
彼らは知っている。
この魔法が、都市を消し飛ばすことを。
「バハムート!!」
世界が、裂けた。
巨大な影。
翼一振りで、文明を終わらせる存在。
グランは歯を食いしばり、結界を展開する。
だが分かっている。
イフリートでも、ブルードラゴンでも敵わない。
(……それでも)
杖を強く握る。
(それでも、わしは――)
「退かぬ……!」
魔王を封じるために、力を捨てた男。
その覚悟が、今、試されようとしていた。
剣聖と将軍の激突。
至高位魔導師同士の衝突。
王都の空に、終焉の影が落ちる。




