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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第三章

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第30話 救援の名の下に

 王城深部、古代転移陣の間。


 床一面に刻まれた魔法紋様が、青白い脈動を繰り返している。

 空気は重く、肺に絡みつくようだった。


 中央に浮かぶ魔鏡に映るのは、極東最大国家であるアストレア連邦王国の宮廷執務室。


『タリナ王よ』


 低く、よく通る声。


 豪奢な玉座に腰掛けるアストレア王は、戦場の将でもある男だった。

 背後には、甲冑姿の将官たちが居並ぶ。


『貴国の危機、同盟国として看過はできぬ。救援軍はすでに出立準備に入っている』


 その言葉に、タリナ王の強張っていた顔が崩れる。


「……恩に着る、アストレア王。民を救うため、どうか力を貸してほしい」


 王は深々と頭を下げた。

 一国の王が、他国の王へ頭を垂れる。


 重臣たちがざわめく。

「世界の警察とまで言われた、タリナ王国の王が頭を下げるなど……」


 そのときだった。


『お父様』


 柔らかな声が、魔鏡越しに響いた。


 金色の髪を揺らし、一歩前に出たのは若き王女。

 タリナ王の一人娘、エリシア。


 かつて同盟の証として、アストレアへ嫁いだ姫だった。


「エリシア……!」


 王の喉が震える。


『ご安心くださいませ。アストレアは必ずタリナを救います。私が保証いたします』


 その微笑みは気丈で、しかしどこか無理をしているようにも見えた。


『私の夫も出陣の準備を進めています。両国の絆は本物ですわ』


 アストレア王が力強く頷く。


『我が軍の精鋭三万。魔導兵団、竜騎兵、そして聖騎士団も動かす。感染魔物など、我らが蹴散らそうぞ』


 重臣たちから安堵の吐息が漏れた。


「救われた……!」


「これで王都は持ちこたえられる!」


 タリナ王の目にうっすらと涙が浮かぶ。


「……よく言ってくれた。我が娘よ……」


 エリシアは微笑んだまま、胸の前で手を握りしめていた。

 その指先が、わずかに震えていることに気づいた者はいない。


 魔鏡の光が、ふっと消えた。


 室内に安堵が広がる。


 ただ一人、枢機卿カーディスだけが、目を細めて静かに笑っていた。



「封印解除、開始します」


 古代鍵杖が転移陣中央に差し込まれる。


 封印の光が砕け散り、魔法陣が咆哮する。


 次の瞬間。


 ドォン……ッ


 大地がうなった。


 城全体が揺れ、窓ガラスが一斉にひび割れる。


 キィィィィィン――!!


 耳を裂く異音。

 重臣たちが膝をつき、王が玉座にしがみつく。


 そして、王都上空の雲が、円形に抉れた。


 現れた影は、一つではない。


 無数の影。


「……間に合った……!」


 王が感極まった声を上げる。


「救援軍だ!!」


 空を埋め尽くす軍勢。

 整然とした飛行陣形。


 だが。


 最初に降り立った兵の姿を見た瞬間。


 ヴァルド将軍の血が凍った。


 黒。


 紋章なき漆黒の鎧。


 翻る旗。


 刻まれた紋章は……雪の結晶。


「……フロストリア軍だ」


 その声は、かすれていた。



 軍の中央が割れる。


 そこから歩み出た、一人の男。


 長身。

 白銀の長髪。

 背に担ぐ、身の丈を超える大剣。


 その姿を見た瞬間、ヴァルドの呼吸が止まった。


「……嘘だろ……」


 男の瞳が、まっすぐヴァルドを射抜く。


 口元に浮かぶ、懐かしい癖のある笑み。


「久しぶりだな、ヴァルド」


「……アルディオン……?」


 剣聖アルディオン・レイス。


 かつて同じ師のもとで剣を学び、幾度も競い合い、笑い合い、そして……。


 魔物の群れからヴァルドを庇い、命を落としたはずの男。


「お前は……俺の目の前で死んだはずだ……!」


 アルディオンは肩をすくめる。


「死にきれなかったらしい。フロストリアに拾われた」


 その声音に、かつての陽気さはない。


「蘇生の代償に、俺は剣を差し出した。それだけの話だ」


「そんなもの……お前が受け入れるはずがない!」


 ヴァルドの叫びに、アルディオンの視線が揺れた。


 ほんの一瞬だけ、昔の面影が戻る。


「……俺も、そう思ってたさ」


 空を見上げる。


「だがなヴァルド。戦場で死に損なった人間に理想を選ぶ余裕はない」


 ゆっくりと大剣を抜く。


 刃が、蒼白の光を帯びる。


 圧力だけで、城壁の兵士たちが後ずさる。


「安心しろ。お前個人に恨みはない」


「ならなぜ来た!!」


「命令だからだ」


 冷たい答え。


「フロストリアはこの地を手に入れる。その障害は排除する」


「タリナの民もか!?」


「……戦場に立った時点で、皆同じだ」


 ヴァルドの拳が震える。


「違う……! お前はそんな男じゃなかった!!」


 アルディオンの瞳が細くなる。


「だったら止めてみろ、ヴァルド」


 静かな挑発。


「お前が信じる俺を」


 二人の視線がぶつかる。


 かつて背中を預け合った親友同士。

 今は、国を背負う敵同士。


 その間に横たわるのは、取り返しのつかない時と、選べなかった運命だった。



 次の瞬間。


 黒鎧の魔導兵たちが一斉に詠唱を開始した。


 空が雷雲に覆われる。


「エターナル・サンダードラゴン」


 雷の龍が城壁へ直撃。


 結界が砕け、石壁が崩れ落ちる。


「突撃しろ」


 アルディオンが静かに命じた。


 フロストリア軍が雪崩れ込む。


 同時に、感染者の群れもなだれ込む。


 だが魔物はフロストリア兵を襲わない。


 統率された軍のように動き、タリナ兵と民だけを噛み裂く。


「なんでだ……!!」


 悲鳴、炎、血煙。


 王都は地獄へと変わった。



 崩れた城壁の上。


 アルディオンが剣を構える。


「来い、ヴァルド」


 その声は、かつての稽古場と同じ響きだった。


「今度こそ決着をつけよう」


 ヴァルドはゆっくりと剣を抜く。


 炎が刃を包む。


「……絶対に止める。お前も、この戦も」


 親友との再会は、王都崩壊の号砲となった。

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