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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第三章

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第27話 同じ空の下で(真実の欠片)

 食後の片付けが終わる頃には、草原はすっかり夜に沈んでいた。


 ログハウスの窓の外には、虫の声と風の音だけが広がっている。


「今日はここまでにしよっか」


 ひかりが大きく伸びをする。


「明日から大変だしね」


「うん。見張り、どうする?」


 つむぎが聞くと、レオルドが静かに立ち上がった。


「私が外の結界を整えます」


 扉が開き、冷たい夜気が流れ込む。


 外に出たレオルドは、ログハウスから少し離れた場所で立ち止まった。


 杖を掲げ、低く詠唱する。


 淡い光が地面を走り、円を描き、空気に溶けるように広がっていく。


「隠蔽魔法、展開」


 空間がわずかに歪んだ。


 次の瞬間――


 そこにあったはずのログハウスの姿が、夜の闇に溶けるように消えた。


 草原には、ただ風に揺れる草だけが残る。


「これで外からは見えません。魔力探知にも引っかからないはずです」


「すごい……」


 後ろから小さな声がした。


 振り向くと、ひよりが立っていた。肩に薄い毛布を羽織っている。


「ありがとうございます。これで安心して休めますね」


「いえ、当然のことをしたまでです」


 少しぎこちない返事。


 沈黙が落ちる。


 夜の草原は思った以上に静かだった。


 ふと、レオルドが空を見上げる。


「……今日は、kuu(クー)が綺麗ですね」


 レオルドが指をさす。


 ひよりもつられて空を見上げた。


 大きな丸い円が、澄んだ夜空に浮かんでいる。


 淡い光が草原を銀色に染めていた。


「え?…あれは…月?」


 ひよりは目を細める。


「この世界にも月があるのね……」


 ぽつりと漏れた言葉。


 そして、何気なく視線を動かす。


 星。


 瞬く無数の光。


 その並びを、ひよりはぼんやりと眺め――


 次の瞬間、息が止まった。


「……あ」


「どうしました?」


「……あの星……」


 指が震えながら夜空をなぞる。


「……に、似てる……」


 視線を横へ。


「あっちの並び……オリオンに似て……」


 さらに反対側。


「北のあの明るい星……あれ、北極星……?」


 言葉が、だんだん小さくなる。


「……同じだ」


「え?」


「星の並びが……私のいた世界と……同じ……」


 風が、すっと強く吹いた。


 レオルドは空を見上げるが、彼にはただの星空にしか見えない。


「こんなに一致するなんて……ありえない……」


 ひよりの胸が早鐘のように鳴る。


 記憶が蘇る。


 研究室の窓から見た夜空。

 仕事帰りに見上げた月。

 あの世界の、当たり前の景色。


「……グランさん」


「師匠?」


「私に何度も聞いてきたんです。元の世界のこと。どんな国があって、どんな考えを持っているのか。……そして、どんな争いがあるのかって……」


 ぞくり、と背筋が震える。


「どうしてそんなことを聞くんだろうって思ってた。でも……」


 再び夜空を見る。


「もし……もしここが、まったくの異世界じゃなかったら?」


 レオルドが息をのむ。


「どういう意味ですか」


「遠い未来とか……遠い過去とか……同じ星の、別の時代だとしたら……?」


 自分で言って、自分が一番動揺していた。


「そんな……」


 レオルドは言葉を失う。


 だが、月はそこにある。


 変わらぬ形で。


 変わらぬ光で。


 ひよりは毛布を握りしめる。


「この世界はいったい……なに……?」


 答えは、夜空のどこにも書かれていない。


 ただ星だけが、ひよりの世界と同じ場所で、静かに瞬いている。


 まるで――


 すべてを知っているかのように。

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