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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第三章

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第26話 同じ味の記憶

 ログハウスの中には、外の草原とは別世界のような静けさがあった。


 木の壁。暖かなランプの光。小さな丸テーブルの上には、湯気を立てる料理が並んでいる。


「腹が減っては戦はできぬ、だよ」


 つむぎがエプロン姿で振り向いた。

 鍋から立ちのぼる優しい匂いが、部屋いっぱいに広がっている。


「なんかさ、こういうの久しぶりだね」


 ひかりは椅子に座り、ふうっと息を吐いた。

 つい数時間前まで処刑場にいたとは思えない光景だった。


 ひよりは服を着て、ぽにゃを膝に乗せている。

 ぽにゃは料理の匂いに鼻をひくひくさせながらも、大人しくしていた。


「お口に合うといいんだけど……」


 つむぎが皿を並べる。


 白いスープ。

 香草と野菜を煮込んだ優しい味のシチュー。

 焼きたての丸パン。

 それに、ほんのり甘い卵焼き。


「いただきます!」


 ひかりが元気よく手を合わせる。


 レオルドは少し緊張した面持ちで木のスプーンを取った。


 一口、口に運ぶ。


 目が見開かれる。


「……この味は……」


 ぽつりと漏れた声に、ひかりが顔を上げる。


「え、まずかった!?」


「い、いえ……その逆です」


 レオルドはもう一口すくい、確かめるようにゆっくり飲み込んだ。


 優しい塩加減。

 素材の甘みを引き出す煮込み方。

 後味にほんの少しだけ残る香草の風味。


 胸の奥が、きゅっと締めつけられる。


「……似ている」


「何に?」


 つむぎがきょとんと首を傾げる。


 レオルドは、しばらく言葉を探すように黙り込んだ。


「昔……よく食べた料理に」


 視線が、自然とつむぎに向く。


 ランプの光に照らされた横顔。

 柔らかな目元。静かな仕草。

 顔立ちだけではない。

 空気が似ている。誰かを安心させる、あの雰囲気。


「……ミリア」


 部屋の空気が、ほんの少しだけ止まった。


 ひかりがレオルドを見る。


 ひよりも静かに視線を向ける。


 つむぎは目をぱちぱちさせた。


「みりあ?」


「……私の、婚約者でした」


 静かな声だった。


「死の谷で……命を落としました」


 つむぎは戸惑いながらも、そっと言う。


「ごめんなさい……私、似てるんですか?」


「はい……でも、年齢も違う。背丈も違う。顔も、よく見れば別人です」


 レオルドは苦く笑う。


「なのに……なぜか懐かしい」


 ひかりはそっとつむぎを見る。


 つむぎは、ただ静かにレオルドを見返していた。


 その瞳の奥に、見覚えのないはずの深い優しさが宿っている気がして――


 レオルドは思わず言葉を漏らす。


「この料理はどこで……」


 つむぎは困ったように笑った。


「母に教わった味です。ご先祖様から代々受け継がれてるって言ってました」


「そうですか……」


 レオルドは俯き、ふっと息を吐いた。


「不思議ですね。この味って偶然できるものじゃない」


 ひかりがパンをちぎりながら言う。


「でも、大事な人のこと、ちゃんと思い出せたんでしょ?」


 レオルドは目を伏せ、小さく笑った。


「……そうですね」


 つむぎがスープをよそい直しながら言う。


「また作りますね。レオルドさんが思い出せる味なら」


「ありがとうございます」


 その声は、先ほどよりずっと柔らかかった。


 ひよりは静かにその様子を見ていた。


(ヴァルド将軍もつむぎの顔をじっと見てた……ミリアとつむぎには何か関係があるの?)


 つむぎはミリアではない。

 けれど、どこかで繋がっているような気がする。


 遠い遠い昔から続いてきた、何かが。


 ぽにゃが、つむぎの足元に寄っていき、ちょこんと座った。


「わ、ぽにゃ、なに?」


 尻尾をぱたぱた振っている。


「……合格ってことかな」


 ひかりが笑う。


「ぽにゃは、つむぎの料理の虜だもんね」


 部屋に、小さな笑い声が広がった。


 張り詰めていた空気が、少しだけほどける。


 外では風が草を揺らしている。


 世界は不穏な気配に満ちているのに、ここだけは穏やかだった。


 レオルドはスープの残りを飲み干し、静かに思う。


(守りたい)


 この温もりを。この笑顔を。

 あの時、守れなかったものの代わりではなく――


 新しく出会った、大切なものとして。


「ごちそうさまでした」


 深く頭を下げるレオルドに、つむぎは嬉しそうに微笑んだ。


「お粗末さまでした」


 その笑顔を見た瞬間、レオルドの胸の奥に、理由の分からない懐かしさがまた灯る。


 それが何なのか、彼はまだ知らない。

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