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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第三章

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第25話 それぞれの選択

 処刑場から二人が消えた直後。


 王都は混乱に包まれていた。


「消えただと!? 王都では転移魔法は封じられてるはずだ!」


 王の怒号が謁見の間に響き渡る。


「やはりあの娘は災厄の種……悪魔の加護を受けているに違いない!」


 重臣たちが口々に叫ぶ中、ただ一人、黙していた男がいた。


 ヴァルド将軍である。


 彼の脳裏に焼き付いていたのは、処刑直前に見たつむぎの顔。


(あの目……やはり似ている……)


 記憶の底に沈んでいた、少女だった頃の娘の面影が重なる。


 だが今は口に出せない。


 王の怒りは、すでに別の方向へ向いていた。


「回復薬の女はどうした」


 空気が凍る。


 玉座の前に引き出されたのは、ひよりだった。


 両手を拘束され、それでも真っ直ぐ前を見ている。


 足元には、白い小さなポメラニアン、ぽにゃが震えていた。


「この女は悪魔の仲間だ」


「未知の薬を作り、民を惑わす危険人物だ!」


「死の谷の異変も、こやつの薬が関係しているやもしれぬ」


「その薬……危険です! 廃棄すべきです!」


 兵士がひよりのポーション瓶を床に叩きつけようとする。


「やめて!!」


 ひよりが叫ぶ。


「違います! 私は人を助けたいだけです!」


「それは人を助ける薬です!!」


 ひよりの叫びを、王は冷たく遮った。


「害が無いと証明できるのか」


 答えに詰まる沈黙。


「グラン」


 名を呼ばれ、広間の奥から至高位大魔導師が進み出る。


「お前の忠誠を示せ」


 王の視線は鋭い。


「この女を処刑せよ」


 ざわめきが広がる。


 ひよりの顔が強張る。


「……グラン、さん……?」


 彼は何も言わない。


 ゆっくりと杖を掲げ、魔法陣を展開する。


 蒼く、巨大な召喚陣。


 空間が裂ける。


「エターナル・ブルードラゴン」


 現れたのは、王都を覆うほどの巨躯を持つ蒼竜。


 重臣たちがどよめき、王は満足げに頷く。


「そうだ、それでよい」


 ひよりの足がガタガタと震える。


「やだ……やだ……」


 ぽにゃが必死に彼女の足にしがみつく。


 ドラゴンの巨大な口が開いた。


 闇のような喉奥。


 グランは目を閉じた。


 そして――


 ひよりとぽにゃは一緒に飲み込まれた。


「きゃあああ!!」

 一瞬の悲鳴。


「ベキ…バキ…ゴリ…ボキッ…」

 すぐに無言になり、骨の砕けるような音だけが広間に響いた。


「ぐちゃ…ぐちゃ…ぐちゃ…」

 咀嚼する音と血の匂いが漂う。


 数秒後。


 ドラゴンは、ぺっと何かを吐き出した。


 地面に落ちたのは、血に濡れた服。


 ひよりが着ていた白衣だった。


 王は立ち上がる。


「見事だ、グラン! 真の忠臣とはこのことよ!」


 歓声が上がる。


 ……誰も気付かなかった。


 ドラゴンが飲み込んだ瞬間、ほんの一瞬だけ、空間が歪んだことに。


 そしてグランの指先が、背中で微かに動いていたことを。



  数刻後

 王城地下の、誰もいない下水処理施設の一角。


 魔法陣が淡く光る。


 その中央に、ひよりが倒れていた。


「……ここは……?」


 身を起こし、はっとする。


 服は消え、薄い下着姿のまま。だが体に傷はない。


 頬に温かい感触が残る。


 ぽにゃが必死に顔を舐めていた。


「ぽにゃ……生きてるの……?」


 尻尾を振り、胸に顔を押し付ける小さな命。


「静かに」


 闇の中から若い魔導士が現れる。


「あなたは……?」


「師匠の命で来ました。あなたは死んだことになっています」


 ひよりの目に涙が浮かぶ。


「助けてくれたんですね……」


 若い魔導士は頷いた。


「王は疑い深い。完全に信じさせるには、あの演出が必要でした」


 ひよりはぽにゃを抱きしめる。


 ぽにゃは何も言わない。ただ、強く寄り添っている。


「転移魔法が封じられてる王都では、師匠の力を持ってしてもこの場所に転移させるのが限界でした。この水路を下れば外に出られます」


「グランは……来れないの?」


「師匠は王のそばで真実を探る道を選びました」


「私が同行します」


「あなたは……王に忠誠を誓っているんじゃないんですか?」


「師匠より全て聞きました。……私は、王に従いながらも、全てを信じているわけではありません。王ではなく、この国に忠誠を誓っているのです!」


 小舟に乗り込む二人と一匹。


「お二人に合流しましょう。あなたの薬が必要になる時が必ず来ます」


 静かな水音だけが、暗闇に響いた。



 その頃・草原


「ひより大丈夫かな」


 つむぎがそっとひかりの手を握る。


 無言で、ぎゅっと。


 それだけで、少しだけ不安が薄れる。


 その時、背後の空間が光った。


 現れたのは――


「ひより!?」


「ぽにゃ!?」


「無事だったんだねえええ!!」


 泣きながら抱きつくひかり。


 ぽにゃも混ざってもふもふの団子状態。


 少し離れた場所に、一人の男が立っていた。


 若い魔導士。


「あの時は助けていただきありがとうございます。グラン様の弟子、レオルドと申します」


 一連の話を聞き、ひかりの表情が引き締まる。


「そう、グランは来れないのね……」


 風が吹く。


「……くしゅん!」


 ひよりがくしゃみをした。


「寒いね……ん?……きゃあああ!」


 恐怖と緊張から解放されて、始めて気がついた……自分が下着姿な事を……そして、若い男に見られている事を。


「あらあら……ひよりさん、すごい格好ね!新しいコスプレ?」


 ぷっ、と、ひかりが笑いながら茶化す。


「ひどい!……えーん、えっちな目で男に見られた!」


「なっ!……そんな目で見てません!」


 笑いの中、王国に追われる者たちが、いま一つの場所に集った。


 ひかりは空を見上げる。


「……行こう」


 逃亡ではない。


 これは選択だ。


 守りたいものを守るための、彼女たちの戦いが始まる。


 ここに、新たなパーティが結成された。


 世界の裏側で進む“真の戦い”に立ち向かうために。

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