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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第三章

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第二十二話 裏切りの王都

 タリナ王国が死の谷を制圧した報せは、瞬く間に大陸全土を駆け巡った。


 魔物の巣窟を滅ぼした軍事国家。

 新たな資源地帯の併合。


 豊かさと武力を兼ね備えた最強王国は、さらに強大になった。


 歓喜した国もあった。

 恐怖した国の方が多かった。


 とりわけ――北の大国、雪の国フロストリア。


 凍土の王国は、痩せた大地と短い夏に縛られ、常に資源不足に喘いできた。

 死の谷に眠る鉱脈と食料は、長年、彼らが密かに狙っていた希望だった。


 それを、タリナが奪った。


 均衡が崩れる。

 力の天秤が、音を立てて傾く。


「……看過できぬな」


 氷の王城の奥で、白銀の王が低く呟く。


「西方の大国ルグウェインとの同盟は健在です。両国が手を組めば、軍事介入も可能かと」


「戦は避けたい。だが――」


 王の視線は地図の一点、死の谷に落ちる。


「手を打たねばなるまい」


 静かに、世界がきしみ始める。



■ タリナ王都・王城地下牢


 石壁は湿り、光はない。


 魔力を遮断する封印石が埋め込まれた独房。

 魔法も、精霊の加護も届かない空間。


 そこに、ひかりとつむぎは閉じ込められていた。


 罪状は――

「魔物との融和を唱える危険思想者」


 和平の場で魔物を庇ったこと。

 そして何より――


 王国の「正義」を否定したこと。


「……皮肉だよね」


 ひかりは壁にもたれ、小さく笑った。


「世界を救う勇者のはずだったのに」


 王国は結論を出したのだ。


 召喚は失敗だったと。


 召喚を担当したグランの腰痛が魔法陣を歪め、真の勇者ではなく異物を呼んだのだと。


 グランには再召喚が命じられた。


 ひよりだけは例外だった。


 彼女の作った回復薬は、重傷兵すら戦線復帰させた。

 王国にとって価値がある。


 だから処罰は保留。

 監視下での研究続行。


 切り捨てられたのは、ひかりとつむぎだけ。


 食事も、水も与えられない。


 面会もない。


 看守すら来ない。


 ――静かに死ぬのを待つ部屋。


 それが、この牢獄だった。



 七日目。


 それでも二人は、生きていた。


 衰弱も、脱水もない。


 つむぎは膝を抱え、ひかりを見上げる。


「……誰も来ないね」


「うん」


 ひかりはスマホの画面を見つめる。



 現在残高:12,830,900円


〈使用内訳〉

 テーザーガン(ライフル型)×3

 1,500,000円


 音響機材一式

 50,000,000円


 食料

 18,000円



「……減ったなぁ」


 戦いの記録。

 必要だった物の記録。


 それでもこの数字は、ひかりが“元の世界の人間”である証だった。


「でもさ」


 ひかりは微笑む。


「私の力、まだバレてない」


 王国は知らない。


 彼女がこの世界の(ことわり)から外れた存在であることを。

 魔力に依存しない力を持っていることを。


 この牢獄は、魔法を封じる場所。

 だが――


 ひかりの力は、魔法ではない。


「だから、まだ詰んでないよ」


 つむぎの目に、かすかな光が宿る。



◾️死の谷・開拓地


 タリナ王国は死の谷の開拓を宣言し、難民と兵士を送り込んでいた。


 魔物はいない。

 資源は豊富。

 新たな繁栄の地。


 ――のはずだった。


「おい、地面が……動いた?」


 足元の土が脈打つ。


 呼吸するように。


 少女の手に浮かぶ土色の紋様。


「痛い……熱い……!」


 皮膚が石へと変質していく。


 悲鳴が連鎖する。


 目が琥珀色に濁り、声が低く歪む。


 そして地面から無数の石の腕が伸び、人々の足を掴んだ。


 谷が、生きている。


 谷が、拒んでいる。



◾️王城・研究棟


「報告します!! 死の谷の開拓団に異常発生!!」


 ひよりの顔色が変わる。


「住民と兵士の一部が魔物化しています!!」


 ひよりの脳裏に、あの少女の声が蘇る。


 ――憎しみは巡る

 ――この国に災いが来る


「……グラニスの怨念じゃ」


 グランが低く呟く。


 ひよりは拳を握る。


「ひかりさんなら……」


 その名を口にした瞬間、部屋の空気が凍った。


 今、彼女は――


 この国の地下で、見殺しにされている。



 世界は動き出した。


 国々は疑い合い、大地は怒り、そして――


 本当に必要な存在だけが、闇の中に閉じ込められている。

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