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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第二章

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第十八話 歌が届いた日、世界が壊れた

 ログハウスの周囲は、不気味なほど静まり返っていた。


 戦いの気配はない。

 だが、安心もなかった。


 ひよりが、小さな声で言った。


「……話せませんかね」


 私はその横顔を見る。


「誰と?」


「谷の主とです」


 つむぎの手が止まる。

 鍋を拭いていた布巾が、きゅっと握られた。


「……話し合い、ですか」


「だって」


 ひよりは迷いなく続ける。


「私たち、来てすぐ攻撃しました。それで“仲良くしてください”は虫が良すぎます。でも……」


 一度、唇を噛む。


「それでも、争わない方法を探したいです」


 グランが低く唸る。


「理想論ですじゃ。既に戦っておる。相手は警戒し、我らを敵と認識しておる」


「だからですよ!」


 ひよりは拳を胸の前で握った。


「言葉がダメなら……歌です!」


「……は?」


 反射的に声が裏返った。


「レバベアの歌、あるじゃないですか!」


「アイドルごっこの!?」


「違います!今回は本気です!」


 ひよりの目は真剣そのものだった。


「言葉が通じなくても、音楽は心に届きます。だから……オリジナルの歌、作りましょう!平和の歌!」


 つむぎが小さく笑う。


「……無茶だけど、嫌いじゃないです」


 私は天井を見上げた。


「……やろう、ひより」


 グランが目を丸くする。


「本気ですかな!?」


「ダメだったら全力で逃げる!でも、何もしないで戦争始まるのは、もっと嫌!」



 その夜。


 私たちは徹夜で歌と踊りを仕上げた。


 作詞作曲:ひより

 振り付け:ひより


 ……体力お化けの天才か。


 私は途中で何回も倒れた。

 つむぎは静かに息切れしていた。


「アイドルは笑顔と元気が命です!」


 そう言って、ひよりはスーパーポーションを差し出した。


 飲んだ瞬間、疲労と目の下のクマが消し飛ぶ。


 ……これ日本に持ち帰りたい。



 そして、朝。


 谷へ向かって、三人で並ぶ。


 衣装は王都で仕立てたステージ衣装。

 無駄に完成度が高い。


「……いくよ」


 地面が震え始める。


 土が割れ、魔物たちが姿を現す。


 昨日と同じ群れ。


 でも今日は、武器を構えない。


 私は深呼吸した。


「せーの!」


 三人の声が重なる。


 ♪ レーバレバレバ ベアベアベア〜


 明るい旋律が、谷に広がる。


 グランがDJブースに立ち、私が取り寄せた機材に魔法を重ね、音圧を底上げする。


 つむぎの声は震えていた。

 でも、止めなかった。


 ひよりはセンターで笑っていた。

 本物のアイドルみたいに。


 ぽにゃが楽しそうに駆け回る。


 魔物たちの動きが止まる。


 唸り声が、戸惑いに変わる。


 歌は、谷の奥へと届いた。


 そして――


 大地が割れた。


 山が立ち上がるように、巨大な存在が姿を現す。


 岩の王。

 土の精霊。

 谷の主。


「我が名は、グラニス。この谷の記憶そのものである」


 その瞳が、私たちを見下ろす。


「……なぜ、歌う」


 声が、頭の中に直接響く。


 私は一歩前へ出た。


「話したいの!」


「人は、全てを奪う」


「生きるために来た人もいる!でも奪いたいわけじゃない!」


「ここは我らの大地」


「分かってる!だから一緒に生きる方法を探したい!」


 グラニスの視線が、つむぎへ向く。


「そなたは、撃たなかった」


 つむぎは震えながら答える。


「……撃てなかっただけです」


「それでよい」


 主の声が、わずかに柔らいだ。


「ならば――」



 その瞬間。


 地鳴り。


 尾根の向こうから、土煙が立ち上る。


 グランの顔色が変わる。


「まさか……!」


 次の瞬間。


 炎。

 雷。

 竜巻。


 属性魔法の嵐が、谷を薙ぎ払った。


 魔物たちが、消し飛ぶ。


「やめてぇぇぇ!!」


 叫びは爆音に呑まれる。


 丘の上に、軍勢。


 タリナ王国の旗。


 一万の兵。

 属性部隊が整然と並ぶ。


「谷の主は土属性と判明!火・雷・風部隊、総攻撃!!」


 グラニスが、怒りに震える。


「……欺いたな」


「違う!!私たちは呼んでない!!」


 だが、もう届かない。


 主の身体が崩れ、土煙となって舞い上がる。


「人は、やはり奪う……」


「違うってばぁぁぁ!!」


「覚えたぞ、人間」


 怒りと悲しみの声。


「生きるために、我らも奪おう」


 谷の主は消えた。


 谷に残ったのは、焼けた大地と、倒れた命。


 そして……最悪の未来。


 グランが呟く。


「……これで、止まらなくなった」


 私は拳を握りしめる。


「戦争が……広がる……」


 遠くの空へ、魔物たちの影が飛び立つ。


 追われた者たちが、奪う側になる。


 ひよりが、その場に座り込む。


「……歌、届いたのに……」


 つむぎが唇を噛む。


 私は空を睨んだ。


 ――本当の敵は、どこかで笑っている。

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