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『億り人だった私、老後資金が底をつく前に異世界を救います』 〜今日も散財して召喚しまくってます〜  作者: talina
第二章

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第十六話 正義のない戦場と、つむぎの葛藤

 祠は、谷の最奥にあった。


 それは神聖とは程遠く――

 むしろ、世界に残された“傷口”のように見えた。


 黒ずんだ石で組まれた門。

 苔ではない、何か粘つく影が這い、魔力が地面に染み出している。


 ここから先は、車では進めない。


 EVトラックを降りると、つむぎが無言で空間へと仕舞い込んだ。


「……嫌な気配ですね」


 ひよりが、喉の奥を押さえるように呟く。


「空気が澱んでる」


 つむぎの声は淡々としていた。

 けれど、先のテントで見た死体が、まだ彼女の心から離れていないことは、表情で分かった。


 グランは、祠の門を見据えたまま、動かない。


「……来ますぞ」


 次の瞬間。


 地面が、割れた。


 岩と土を引き裂き、這い出してきたのは――

 数え切れないほどの魔物。


「多っ……!」


 思わず声が漏れる。


「構えるのじゃ!」


 グランが杖を振る。


 召喚陣が幾重にも展開され、炎と咆哮が谷を揺らす。


 だが――


「……多すぎる」


 グランの声に、焦りが混じった。


 倒しても、倒しても、次が来る。

 魔物は尽きない。


「再生してる……?」


「いや、補充されておる」


 グランの息が、わずかに乱れる。


 その時。


 祠の門が、音もなく開いた。


 中から放たれた、黒い衝撃波。


「グラン!!」


 間に合わない。


 ――直撃。


 いや。


 グランは、杖を地面に突き立て、無理やり結界を張った。


 だが。


 血が、ぽたりと地面に落ちる。


「……っ」


 膝をついた。


 ひよりは、もう血を見ても怯まない。

 必死に、回復薬の準備をしている。


 その姿を見た瞬間、私の中で何かが切れた。


「……ダメ」


 考える前に、スマホを握っていた。


 残高が、脳裏をよぎる。


 足りるかなんて、分からない。


 でも。


「……守るって、決めたんだ」


 その時、グランが叫んだ。


「ひかり殿!これを!」


 つむぎの空間から、武器が取り出される。


「……ボーガン?」


 黒光りする弓。

 弦には淡い魔力が走っている。


「王都で用意しておいた武器です」


「素人でも当たるよう、補正魔法を施してありますじゃ」


 私は、震える手で構えた。


 狙う。


 引き金を引く。


 矢は、真っ直ぐに飛び――

 魔物の中心へ突き刺さった。


「……当たった!」


 だが。


 次の瞬間。


 矢は、ずぶりと沈み込み、何事もなかったかのように飲み込まれた。


「……効いてない?」


 その横で。


 つむぎは、ボーガンを握ったまま、動けずにいた。


 指が、引き金にかからない。


 ――撃てない。


(……先に、仕掛けたのは、誰?)


 死の谷に来たのは、タリナ王国。


 領土を広げるため。

 資源を得るため。


 魔物は、ここに元からいた。


 攻撃されたから、反撃しただけではないのか。


(この戦いに……正義はあるの?)


 魔物といえど、命あるものだ。

 理由もなく、奪っていい命なんてない。


 つむぎは、じっとその場に立ち尽くしていた。


 その時。


 一体の魔物が、つむぎの方に向かった。


 大きな岩を、持ち上げる。


「……つむぎ!」


 声を上げた時には、遅かった。


 投げられた岩は、家ほどの大きさ。


 当たる。


 ――潰される。


 そう思った瞬間。


 つむぎの身体が、横に吹き飛ばされ地面に転がった。


「……え?」


 視界に映ったのは――


 黄金色の毛並み。


 そこにいたのは、巨大なゴールデンレトリバーだった。


 つむぎを突き飛ばし、歯を食いしばり、必死に吠えて魔物を威嚇する。


「……ぽにゃ……?」


 つむぎの声が、震えた。


 魔物が、再び動こうとした。


 その時、グランが叫んだ。


「この者たちは、土属性ですじゃ!物理攻撃は効かぬ」


 私は、悟った。


「テーザーガン!」


 空間が揺れ、重たい武器が現れる。


 ひかり、ひより、つむぎの手元に、ずしりとした重量が伝わった。


「……重っ」


「ひかりさん、これ……?」


 ひよりが戸惑う。

 銃とも違う、無骨な形。


「銃は恐らく効かない。でもこれは違う」


 私は、息を整えながら言った。


「海外の警察が使う、ライフル型のテーザー銃。電気を発射して熊も気絶させる。殺さない」


 私は、グランを見る。


「グラン!魔法で軽くして!」


「ほっほ。お安い御用ですじゃ」


 杖が触れた瞬間、嘘のように重量が消えた。


「威力と射程距離も伸ばしておきましたじゃ」


 ……ほんと、有能すぎる。


「よし、いくよ!」


 私は叫ぶ。


「電流だから、一時的に気を失うだけ!命は取らない!つむぎ!いいね!」


 つむぎは一瞬だけ躊躇い、それから小さく頷いた。


 私は、引き金を引いた。


 放たれた電流が、魔物を貫く。


 痙攣し、倒れる。


「……効いてる!」


 次。

 次。


 必死だった。

 綺麗な戦いなんて、できない。


 それでも、魔物の群れは確実に押し返されていく。


 グランが、低く告げる。


「……谷の主は、恐らく土の精霊」


「儂の後継者は土属性じゃった。だから魔法が効かなかったんじゃ」


———


 つむぎは、それでも攻撃することが出来なかった。


 ぽにゃを見つめ、震える手で、テーザーガンを下ろす。


「……ごめんなさい。私にはできない」


 小さく、ぽにゃに、そう呟いた。


———


 祠の奥から冷たい視線が、こちらを見下ろしていた。


 ――谷の主が、完全に目を覚ましていた。

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