放課後②
「楽人、お前、陰陽師なんて興味あったのか。」
真横から声をかけられて、思わず飛びのく。
いつの間にか兄ちゃんが真横にきて俺の手元の本をのぞき込んでいた。
「びっくりしたあ!もうちょっと離れたところで声かけてよ、兄ちゃん」まだ心臓をドキドキがする。
「悪かったよ。声かけたけど全然反応なかったからさ、よっぽどおもしろいのかと思って。」
そういわれ、改めて手元の本を見る。『陰陽師全書』…?
無意識で手にしていたその本は、たまに見る図書館の奥のほうに蔵書されている本たちよりもはるかに古かった。
「紙もぼろぼろだねえ」いつのまにか紬も左からのぞき込んでいた。
「安倍晴明が菅原道真の呪いを収めたんじゃないか、って説が書いてあるみたいだな、この本。時代的には確かに安倍晴明は道真の死後の人間だけど…清明の頃ってすでに道真の呪いって、落ち着いていたんじゃないかな…?」優等生の兄ちゃんは歴史ももちろん守備範囲内で、淡々と時代考証をしていく。
「さっすが結人さん!このボロボロの本から、そんなことまでわかるんですか!?」紬が語尾にハートをつけそうな勢いではしゃぐ。
「そう、ボロボロすぎるし修繕も難しいから捨てようと思ってそこに置いておいたんだ。」
図書カウンターの中から優しく声がかかった。
「本山先生。」兄ちゃんが顔を上げると、そこには司書の本山先生がいた。
「あと高橋さん、図書室では静かにね。」紬の名前を呼んで、指を唇に当ててほほ笑む。紬が慌てて「はいっ」と小さく返事をしてうなずいた。
司書の本山先生は、ほっそりとしたきれいな指と首筋、障害のあるという目を守るための銀縁に色の暗いグラスのメガネが特徴だ。
一部の熱狂的なファンクラブの女子生徒を中心に男女問わず人気の先生で、男性にしては高い声と低い身長も人気の一端を担っているらしい。
穏やかで、他の先生と比べても生徒を叱ることが圧倒的に少なく、優しく諭してくれることが多い。いつも本を読んでいるからか、博識で俺たちが宿題なんかで困っている時には解決につながる本を探す手伝いをしてくれたり、時には自ら考え方や解き方を教えたりしてくれる。
本山先生の穏やかな人柄が安心するのか、保健室だけでなく図書室にだけ登校する生徒もかなりいるみたいだ。
図書室で兄ちゃんが勉強を見てくれるようになってからは(紬曰く、「結人さん塾 図書室校」だ)、俺たちを気にかけてくれるようになり、仲良くしてくれている。
目の他に足も悪いらしく、いつも車椅子に座り、紺色のブランケットをかけている。
基本的にはカウンターの中で仕事をしていて出てくる事はほとんどない。




