朝①
はっとして目が覚めた。
なんだかとても嫌な夢を見ていたような気がする。
全身がぐっしょりと冷や汗をかいている。
時計を見るとすでに7時。
1階へ降りると、一人で朝食の支度をしていた優秀な兄ちゃんが俺に気づいて声をかけた。
「楽人、今日は一人で起きれたのか、さすがだな」
兄ちゃんが焼き立てのソーセージと目玉焼きを更によそいながら、こちらを振り向く。
バスケ部のエースとして活躍する兄ちゃんは高校1年生ながら身長が178cmとかなり背が高い方で、少し茶色がかった髪も相まって制服の上にエプロンをつけているだけで様になっている。
バスケ部の練習中、同じ体育館で練習するバレー部やバドミントン部の女子から黄色い声援が上がっているのを何度も見かけた。
「なんだよ、中2なんだからさすがに一人で起きるくらいできるよ」
「やるなあ。ならテストまであと1週間だし、今日から30分家出るの早くして、朝も図書室で勉強するか?」
「それはちょっとな…」
兄ちゃんがきれいに揃った前歯を見せながら爽やかに冗談だよ、と笑った。
俺と兄ちゃんは同じ私立中高一貫校に通っている。
住宅街にある学校はうちから徒歩で行けるほど近いが、地元ではそこそこの名門校だ。中学受験では「家から近い」という理由で真っ先に志望校に入れたが、正直俺の偏差値だと入学圏内ギリギリで、入れないんじゃないかと合格するまでヒヤヒヤしていた。最初は家から近いという雑な理由で選んだ学校だったが、学園祭やオープンスクールなどに遊びに行くうちに、自由な校風と青を基調とした冬はブレザーや夏は紺地シャツの制服、そして何よりも兄ちゃんが通っていることで受験中惰性だった理由は憧れに変わり、入学が決まったときは胸を撫で下ろしたと共に本当に嬉しかったのを覚えている。
しかし安堵して入学したのもつかの間、さすが中高一貫校。勉強はなかなかに過酷だった。高校2年生までに高校3年生までのすべての学習範囲が終了するというカリキュラムは小学校とは比べ物にならないスピードだった。1年生ではなんとか学年で真ん中くらいの順位を取れていた俺だったが、焦って勉強のペースを加速させた友人たちの学習速度に置いていかれたのか、学年末試験では悲惨な結果を残してしまった。結果を見せはしなかったものの、俺の落ち込みようからその悲惨な結果を推測したのか、2年生になった今年の春からは兄貴が学校の図書室で勉強を見てくれるようになっていた。
しかも放課後だけでなく、早朝の図書室で勉強を教える兄ちゃん、そして眠気を我慢して勉強する自分と、もう一人を想像し…そこまではしたくないぞ…と身構えたその時、ピンポーンという玄関チャイムの音と同時にドアが開く音が聞こえた。
こんな早朝の来訪者は一人に決まっている。




