悪霊③
「まずい、まずいぞ…もっと、もっと…」
声だ。人か?
男女ともつかない嗄れた声は、高さの中に不気味な低温が入り混じり、この世のものとは思えない音となっている。全身の細胞が警告を発する。
汗が吹き出す。
警備員室に、もどらねば…これは手に終えるものではない…何かはわからないが…何も見なかったことにして明日の朝は「見に行きましたが何もいませんでした」と報告すればいい…そうだ…警備員がそう心に決めた瞬間、白い影の上部がぐるん、と動いた。
動いたと思ったそこは、頭だった。
一対の目がギラギラとこちらを見ている。
両眼で色が異なっている。
白く輝く眼球に、猫のような瞳孔が光る右目に…左目は…数珠…暗闇でよく見えないが、青か、紫色に発光しているように見える。
そして大きな口。
歪めて開けられたその大きな口には、これまたそのサイズに見合った大きな牙が生えているように見える。
そしてその手には何かをがっしり掴んでいる…よく見ると…人間の頭のようだった。
頭からは脳髄が見えており、脳の一部が潰されたように欠けていた。
違う。
はっとした。
考えている場合じゃない。
まずい、まずい、まずい。バレたんだ。俺の存在が。
警備員はその異なる両目を凝視しながら、一歩、また一歩と後ずさった。
「またまずそうだが…仕方ない…よこせ…お前の…も…」
またあの嗄れ声が聞こえた。
内容を理解した瞬間、警備員は後ろを振り向き無我夢中で走り出した。
足が震えてうまく走れない。とにかく逃げなければ。やがて頭がなにかに掴まれた感触が
「たすけ…」
…男の意識は、そこで途絶えた。




