結人を探しに①
「兄ちゃん…」俺は無力感に苛まれ、立つこともできず泣き崩れた。
ふいにちりん、と鈴の音が聞こえた。目を上げると、真っ白な美しい猫が僕の目の前に座っていた。いつの間に来ていたんだろう。
「やあ、楽人。君が無事でよかった。」
猫が、しゃべった。
あの靄といい、兄ちゃんの様子といい…僕はファンタジー世界の中に入り込んでしまったんだろうか。今は、なんでもいい。
「もしかして、お前今、しゃべった?」
「しゃべったさ。君を助けてやったのも私だよ。」
「もしかして、お前、兄ちゃんとあの黒い靄のこと、何か知ってるの?」
僕がそう問うと、猫は満足そうに微笑んだ。
「さすが、話が早い。そう、私たちはあの“黒い靄”と戦う存在なんだ。」
「兄ちゃんは?もしかして…」
そこから先の言葉が紡げず口をつぐむ。
「大丈夫、生きてると、思う。あくまで私の推測に過ぎないけれど。さっきの怨霊が3年は育てると言っていた。それを信じるなら、少なくとも3年間はお前の兄さんは無事のはずだよ。」
「ほんと!?っていうか、“怨霊”ってなに……?」
「…長くなるから今全ては説明できない。ただ、君もさっき見ただろう。
あの黒い靄が怨霊だ…。君の先生は怨霊だったんだよ。」
「そんな…じゃ、じゃあ兄ちゃんも怨霊になっちゃうの!?」
「そうすぐにはならない、なりきれないはず…だよ。」
「じゃあ兄ちゃんを助けることもできるの…?」
「うん……はっきりとは言えないけど、方法はあるはず…さっき君がみた悪霊…あの雷を使う集団を根絶やしにすれば、きっとお前の兄さんは帰ってくる。でも…」
「でも、何?」
「きっとつらい道になるよ。」
そういわれて、俺は一瞬口をつぐんだ。
「もし嫌なら、僕の能力で、今見たことや、君の兄さんの記憶を君からなくすこともできるよ。そうして元の日常に、周りの人と同じように戻してあげられる。」
「そんなこと…」俺は逡巡した。
兄ちゃんを探して恐ろしい奴らと戦う未来と、兄ちゃんのことをすっかり忘れて日常に戻る未来。
迷ったのは、一瞬だった。




