靄⑤
「もういい、殺せ。」と靄が叫んだ。
次の瞬間、苦悶していた兄ちゃんの顔がまた虚ろになった。
虚ろな兄ちゃんの目と僕の目が合う。
兄ちゃんが俺の方に手を伸ばし、手のひらを僕に向けた。
手は徐々に電光がに包まれ、俺の眼前で火花を散らした。
ああ、まずい、俺ここで死ぬんだ…。
そう覚悟ともいえぬ思いを抱いた瞬間、また鈴の音が聞こえた。
ぐにゃり、歪む視界。二回目だ。なんだこれは。
瞬間、体がまた投げ出された。着地したのは床…じゃない。土だ。
直後、バリバリバリ、と雷が空気をつんざく音が聞こえた。しかしそれは予想よりずっと遠い音だった。
辺りを見回した。
外だ。
室内にいたはずなのに……。
さっきと同じだ。
一瞬で……移動している……?
横には紬が倒れていた。
心配して様子を伺うと、苦しそうに呻いている。
まだ気を失っているようだ……とりあえず紬が生きていることに胸を撫で下ろした。
ここは…しばらくぼやける視界で見渡すと理解できた。
校庭だ。大きなイチョウの木が目に入ったことでわかった。
さっきの音はどこから聞こえたんだ……よく見ると、周囲の学生たちが空中の一箇所を指さして大騒ぎしている。
皆が指さす方を見ると、落雷の落ちた場所がわかった。
校舎の一部が……燃えていた。
息が止まるような光景だった。
いつも学んでいる見慣れた建物が…メラメラと炎と煙を上げて燃えている。
あそこは……図書室……?周辺も焦げ付いたように黒くなっている。
雷は俺たちのいた図書室に落ちたのだ。
「兄ちゃん…兄ちゃん!!!!」




