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第7話 終業式後

~終業式後~


 ――セミの声ががらんとした校舎の中に響き渡る。


 今、この教室には秋たち三人しか残っていない。先ほどまでの喧騒(けんそう)が嘘のように、教室内には静かな時間が流れていた。


「いやぁ、やっぱりみんなが帰ると静かだね。同じ建物とは思えないよ」

 花がたまご焼きを箸でつつきながら呟いた。

「そーだねぇ」

 秋もうなずきながらおにぎりをほおばる。


「つーか、何でお前らは弁当もってきてるんだよ?」

 直は秋からもらったおにぎりと、花からもらったウインナーを両手に持って聞く。


「だってー。今日は給食ないんだもん。それに家に帰ってお昼ごはん食べる時間ないじゃない?でも旧校舎に行く前にちゃんと腹ごしらえはしとかないと」

 花がもぐもぐと咀嚼(そしゃく)しながら答えた。


「なんだよ。俺も何か買ってくればよかったぜ。お前ら、母ちゃんに迷惑かけんなよな」

 直があきれたように言いながら、ウインナーを口に入れる。

「ご心配なく。自分で作ったから。材料はお母さんが買ってきたけど」

 花はにっこりとほほ笑んで小さくピースサインをした。

「え、マジかよ」


 直はそう言って改めて花の弁当箱をのぞき込んだ。中には小さなおにぎりと、アスパラガスの肉巻き、花の形に切られたニンジン、玉子焼き、ミックスベジタブルなどが入っている。なぜかおかずの量が多い。

 しかし、彩りもおかずの配置の仕方もバランスがとれていて、とても女の子らしい内容となっていた。


「冷凍食品を使っているにせよ、すげえな」

 直は素直に感心した。

「へへ。ぜーんぶ手作りだよ」

 花は得意気に説明する。

「そりゃあ、すげえな。不良少年もびっくり」

 直はそう言ってまじまじと弁当箱を見つめる。すると花は恥ずかしくなったのか、「これ、あげる」とごまかすようにアスパラガスの肉巻きを直に箸で渡した。


「ちなみに、俺も自分で作ったよ」

 秋が自慢する風でもなくさらりと言った。とはいっても、秋のお弁当箱にはおにぎりしか入っていない。ゆかりや、ふりかけを混ぜ込んである大きなおにぎりが4つあり、海苔はラップで別にしてあった。


「いや、お前の弁当おにぎりだけだろ。まあ、それでもすげえけどさ」

 直は感嘆するように、おにぎりにかぶりつきながらわざとらしく後ろにのけ反った。


「でもよ、何でそんなにでかいおにぎりを4個も作ったんだ?お前そんなに大食いだったっけ?」

 直が秋に向かって聞くと、秋はにやりと笑った。

「半分は直の分だよ。おかずは花が多めに作ってきてくれると思ってたから、俺はおにぎりだけ作ってきた」

「とゆーか、しゅうちゃんはおにぎりしか作れないもんね?わたしもそう思っておかずたくさん作ってきたよ」


 花はそういうと、「はい、とゆーわけで」と言って秋にたまご焼きをあげた。たまご焼きは秋の好物なのだ。


「『しか』ってなんだよ。少し料理ができるからって調子にのっちゃって」

「それじゃあ、私の作った玉子焼きはいらないってことかな?」

「いりますけど?」

「そんなこと言う子にはあげないですけど?」

「もう食べてますけど?」

「ふーん。・・・おいしい?」

「・・・うん」


 秋がそうつぶやくと、花はとても嬉しそうに笑って「よしよし」と秋の頭をなでた。秋は照れくささを隠すようにおにぎりにかじりついた。


「なんつーか、その、お前らは安泰だよ」

 そんな二人の様子をながめながら、直はあきれるように言った。


 ――お昼ごはんを食べた三人が、しばらくトランプでローカルルールの大富豪をしていると、がらりと教室のドアが勢いよく開いた。


「おーい、おいおい。待たせちゃったね」

 山中先生がうちわをあおぎながら入ってくる。先程まではかっこいい黒のスーツ姿だったのだが、今はいつもの格好に着替えていた。首にはぼろぼろの手ぬぐいをかけ、よれよれになった白いTシャツと、学校指定の青ジャージのズボンを膝まで巻くって履いている。


「せ、せんせい。いつも思うけど、もっとおしゃれしたらどう?さっきまではかっこよかったのに」

 秋が真面目な顔で言うと、直も「うん」と素直にうなずいた。


「えー。だって、これ楽なんだもん」

 山中先生は全く気にするそぶりもなく頭をぼりぼりとかいた。 

 しかしこういった、美人なのに男勝りな性格をしているというところが、山中先生の魅力でもある。横山の祭りの時も誰よりもはりきって参加し、お酒を飲みすぎて校長先生から説教されたり、体育祭や文化祭では誰よりもはしゃいで楽しんだりしている。


「でも、わたしはそんな先生が好きだけどな」

 花がそう言いながら山中先生に抱きついた。「そんなってどういう意味よ」と山中先生は、花の髪の毛を両手でくしゃくしゃにした。

「んじゃ、早速行きましょうか。私のかわいいお尻についておいで、かわいい子猫ちゃんたち」


 山中先生は花の肩に手をまわしながら、トランプを片づけている秋たちに声を掛けた。


 直が「子猫って歳なのかよ俺ら・・・」と呟きながら立ち上がった。


次回は11日の7時に更新予定です。みんなが忙しい時間です。

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