おアツいクソたちの集い
放課後――悠斗は帰り支度をしていた。
「悠斗、今日は部活に寄らず帰るの?」
友人の佐々川理央が話しかけてきた。
「あぁ、今日はレンタルビデオ屋寄る」
「そう、またクソ映画?」
「もちろん」
「ははっ⋯相変わらずだな」
「お前はどうせ部活終わったあと、あいつと帰るんだろ?」
「もちろん!」
理央の答えに、はいはいと言わんばかりに肩をすくめた。
「おアツいことで⋯」
「黒崎殿ーーー!!!!」
当然の乱入者に悠斗ははぁーと頭を抱えた。
「なんで俺のクラス来てんだよ⋯」
「細かいことか気にしないでほしいでござる〜。ん?おやや?黒崎殿のお友達でござるか?」
「え?うん。俺、佐々川理央よろしく」
「よろしくでござる!!拙者、桐野琉宇でござる!!」
「わぁー!悠斗いつの間に友達できたの!!」
「友達じゃない」
「そんなことないでござる!拙者たちはクソという絆で繋がったマブダチでござるよ!!」
「???⋯よくわかんないけど、悠斗の共通の趣味仲間なんだな!!」
「理解を示さないでくれ、めんどくさい⋯」
「そうでござる!!昨日もクソ映画を三本も一緒に見た仲でござる!」
「えぇ!?それはすごい!!アレに付き合ったなんて⋯悠斗、良い友達に出会えたんだな」
涙ぐみながら理央は感動を覚えた。
「えぇ!?泣くほどでござるか!?黒崎殿、友達になんてことしてるんでござるか!!」
「いいんだ!桐野⋯俺が一緒に見たいって言ったのが、悪いんだ」
「佐々川殿⋯なんてお優しい方でござるか!」
「謎の友情が芽生えてやがる⋯つーか、なんの用だよ」
「おっと、そうでござった!黒崎殿!お主を拙者の家に招待するでござる!!」
「はっ?死ね」
「直球!?デレがないござる!?でも、それが黒崎殿でござるね〜」
「悠斗ー、死ねとか言うなよ。家にまで誘ってくれるなんて、こんないい子を蔑ろにするなよ」
「お前⋯こんな『ござるござる』言ってるヤツによくそんな感想言えるな」
「え?可愛いじゃん、弟みたいで可愛い」
「え〜照れちゃうでござるよ〜佐々川殿〜!」
「お前の中の弟の幻想、どうなってんだよ。今すぐ破壊してくれ⋯⋯てか、なんで家に来いなんて急に言うんだよ」
「あっ!そうでござる!昨日あんなにクソ映画を紹介してくれて嬉しかったでござるから〜お礼にと思ってこれを⋯」
そう言うと、カバンからゲームソフトを取り出す。
「っ!?それは⋯」
「ほほーう⋯黒崎殿はやはりご存知であったでござるか⋯この、クソゲーオブキング受賞作品『七つ星学園〜妖怪奇譚〜』を!!」
「お前っ⋯それをどこで⋯プレミアがついてんだろ!?」
「ネットの海を渡り歩いてついにゲットしたでござる!定価の二倍超えでござったか、後悔はしないでござる⋯」
「やっぱお前、頭おかしいな!」
「なんなのそれ?悠斗が驚愕するってことはクソゲーだろうけど⋯」
「おっ!佐々川殿気になるでござるか?これはでござるな、存在自体が''奇譚''と言われたクソという名のなにかでござる!!」
「すごい罵倒の声が聞こえる⋯」
「⋯⋯で、それを見せびらかせてどうすんだよ?それだけじゃねぇだろ?」
悠斗が眉をひそめながら、半分呆れたように問いかける。
「当たり前でござる!」
琉宇は胸を張って、続けざまに言い放った。
「このクソというなにかを――黒崎殿と一緒にプレイしたくて、誘ってるでござるよ!!」
そして、少しの間を空けると――
「⋯キャー!言っちゃったでござるうぅぅ!!」
顔を真っ赤に染めながら、両手で顔を挟むようにしてクネクネと悶える琉宇。
喜びと恥ずかしさが一気に噴き出したのか、笑顔を隠すどころか全力で垂れ流している。
「⋯キモッ」
「なんとでも言うでござる〜今の拙者は無敵!なに言っても効かないでござる!」
「なんなんだ⋯こいつ⋯嫌すぎる」
「いいじゃん、悠斗!!行ってきなよ!こんな機会滅多にないよ!お父さんは応援するよ!」
「お前の子どもになった覚えはないからやめろ⋯わかったよ、そんなキラキラした目で見るな理央!行けばいいんだろ、行けば!!」
「え!?ガチでござるか!?やったー!佐々川殿、感謝でござる〜!!拙者ってば前世でどんな徳を積んだでござるか!!」
「ん?よくわからないけどありがとう、どういたしまして。」
「どうでござる?佐々川殿もクソを嗜むでござるか?」
「理央をお前の変な世界に引き込むな!!」
「うーん、ごめん。俺、これからサッカー部の練習あるから無理かなー。でも、二人で楽しんできて!」
「くっ〜!!そうでござるか⋯くやしいでござるなぁ!ではまた今度⋯」
「やめろやめろ!!理央を巻き込むな!!⋯チッ、さっさと行くぞバカ野郎!!」
そう毒づきながら、悠斗は椅子を乱暴に引いて立ち上がる。ドアを豪快に開け放ち、勢いよく廊下へと飛び出して行った。
「え!?く、黒崎殿?早いでござるー!待つでござるよ〜!⋯あ、佐々川殿それでは、またねでござるー!」
「ははは!うん、またね⋯⋯ねぇ、桐野くん」
「んん?」
「悠斗が、あんな風に楽しそうにしてるの、久しぶりだったんだ⋯だから――」
じっと、真っ直ぐな目で琉宇を見つめる。
「悠斗と友達になってくれて、ありがとう⋯これからも、よろしく」
「⋯⋯そ、そんなの当然でござる!⋯拙者、その任務、全身全霊で遂行する所存でござるよっ!!」
「ははっ⋯任務か⋯ありがとね」
「はいでござる!!⋯あっ、黒崎殿を追いかけねば!ではでは、どろんするでござるー!!」
琉宇は元気に言うと、悠斗に続いて廊下に飛び出して行った。
残された理央は、小さく笑い、ぽつりと呟く。
「どろんって⋯本当に面白い子だな!悠斗が気に入るわけだ」
廊下で声が聞こえる。
「黒崎殿〜待つでござる〜!」
「うるせぇ、置いてくぞ」
「置いてくも何も、拙者の家知らんでござろ〜!!」
「ははは!⋯そっちの方がおアイツことじゃないか!」
理央はそう言って、カバンを肩にかける。
教室の扉をくぐりながら、呟く。
「ありがとう、桐野⋯」
あんな風に笑う悠斗を、見ていけたら――
うん、とっても嬉しい、と思った。
『どろんっていつの時代の人間だよ』
『え?かっこよくないでござるか?』
『おめでたいやつだな』
『というか、聞こえてたでござるか!?』
『⋯知らねーよ』
『あ、絶対聞こえてたでござるな!黙秘権はなしでござる〜!!』
クソゲーで結ばれた絆は深くて浅い。
だからこそ、良い。