裏通り
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再び商業通りに戻ったアルベールは、先程と違いゆっくりと静かに往来する人々に流されるように身をゆだねながら周囲を見渡すと。
どうやら、商業通りという理由だけで人が詰め寄せているわけではないようだった。
何か特別なイベントでも行われているのだろうか?そう感じさせる異様な浮かれ具合がある。
その一方で、この場に似つかわしいない表情をする者たちもいた。喜々としている者たちが大半を占める中で、そう遠くない絶望に打ちひしがれる者たちである。
その両者のあまりの対局具合にアルベールも違和感を感じたのか、情報収集がてらに最寄りの店には入店する。
そこには花がずらりと並び、色とりどりの様々な花が並んでいた。見た限り花屋である。アルベールに花を愛でる趣味はない。
だが、いきなり話をしておさらばともいかない。いっちょ前に花を選ぶそぶりを取りつつ店主に問いを投げかける。
「やけに人が多いが、祭りでもやるのかい?」
チロリと店主の様子を伺う。
「さてはお客さん外から来たな。今日はな、平和を願って神様にお願いする日なんだよ」
店主の厳つい顔から元気よく言い放たれた言葉に、アルベールは住民達の暗い顔が少し過り。それと同時にもう一つアルベールの中で疑問が湧き上がった。
それは、普段花を愛でないアルベールが花を綺麗だと感じたことだ。
店主の厳つさが花の良さを引き立てているのか、花の美しさが店主の顔を厳つく見せているのか?
美女や美少女が花を売った方が売れ行きは良いだろうが、花の単体の良さを伝えるのなら多少厳つい顔のおっさんの方がいいのではないか?
アルベールは赤い花を手に持ち、店主の目線と共に自分の目線の高さまで持ち上げる。店主と花。その両方を見比べ、自分の中で回答を探った。
「へぇー。やっぱり祭りなんだな。それで、祭りなんだから何かお供えでもするのかな?」
アルベールの質問に急に言葉が詰まる。
「どうかしました?私はそんなに変な質問でもしてしまったかな?」
店主は目だけをキョロキョロと動かし、誰も話を聞いていなかったことを確認すると、口元を手で隠しヒソヒソと話し始めた。
「いいか、俺以外にそんな馬鹿な質問するなよ。今日はなぁ、悲しみと喜びが混在する日なんだよ!」
店主は異様な焦り具合を見せた。額に汗を滲ませ、周りに聞こえないように口元に添えた手にも尋常じゃない手汗をかいていた。
「ああ、すまなかった。また来るよ」
アルベールはどこか楽し気に笑みをうかべ、花をもとの場所に戻すと再び人混みの中へと消えていった。
「お、おい!何も買わねえのかよ!」
「悲しみと喜びが混在する日ねぇ。ふーん」
既に人混みに紛れ込んでいたアルベールには店主の声は届かず、店主が深妙な顔つきで言った言葉を呟き流されていった。