最強4
「…………。」
すぅーはぁー。わずかに感じる風。そして暖かな気温。早朝にくらべ暖かくなり過ごしやすくなった事を目をつぶって感じ精神を落ち着かせた。
そして、アルベールの言いつけを守り目を逸らさず一人の男に注目した。
「パパは……。お前のために頑張るからな」
首から垂らすペンダント。その中に映る男と、その男に抱えられた幼い少女の写真を胸に抱き震える手と声を何とか静めようとする。
モンスターの足音が刻一刻と迫る中で、小汚い恰好をした男は微動だにせず震える身体に言い訳をするように同じ言葉を何度も何度も繰り返す。
住民達の身体に不自然に巻き付いている謎の物体。そこからのびる配線の先をペンダントと一緒に手で握りしめいよいよ最後の覚悟を決めた。
そして、モンスターにとって恐怖の象徴たる男から逃げるように突っ込み眼前に迫ったところで――――
「パパはッ!お前達のために……!うわああァァァァァァァァァァァ!一一一ッ!」
男は絶叫した。震えて動かない指を、頭で無理くり押し込み弾け飛ぶ。爆音が男の絶叫をかき消した。
そう一一彼らは人間爆弾。モンスターをできるだけ引き付けたと思えば、自ら自爆したのだ。
その一つ目の爆発を皮切りに、数百人もの人間が一斉に絶叫し続けざまに自爆した。時間にしてわずか3分。
そのあまりに短い時間の中で、おびただしい数の屍が宙を舞う。吐き気がした。焼けた肉の臭いに、腐臭に限りなく近しい臓器の悪臭。
無惨としか言い表せない飛散する骸の数々にアルベールの距離ですら気が遠くなる。
それを間近で浴びる王国兵(彼ら)がまともでいられるはずかない。ましてや、これが一体何度目の体験なのだろう。
「ハッハッ!どうだ化物共!これであらかた片付いたぞ!ハッハッ!」
狂喜の笑い声が響く。絶叫と爆音の次が、王国兵(下賎の者達)による下卑た笑い声。たった今失われた数え切れないほどの尊い命の灯になんの感慨も寄せることなく業を称える。
彼らはもはや人ではなかった。否、人ではいられなかった。こんなことが数年も続いて正気を保っている方がどうかしている。
「ひどい……。ひどすぎる……!これが、人なの?生きるために、ここまでしているの?」
現場の苦労は現場の人のみぞ知る。生贄として連れて行かれた以上レナとて、彼らの死が生半可なものでないことを理解していた。
それでも、これはひどい。さすがのアルベールもこれには言葉が出ない。目をそらすレナを気遣うこともせず、静観し、アルベールはこの光景を焼き付ける。
傭兵家業を営むアルベールが忘れかけていた感覚。久しく湧き上がった吐き気と胸糞悪い酸鼻さは、貴族たちの娯楽の所業よりたちが悪い。
彼らが行っている行為は王国、もとより人類を救う行為と言えなくもなかったからだ。悪行をなして正義を成したと勘違いする彼らを咎めるものがいないのも、彼らがここまで墜ちた要因なのだろう。
そしてアルベールの後方に控えるレナにとっては、想像を絶するトラウマになったことに違いない。正直、アルベールの想像を優に超えていた。
レナには世界を改めて眺望を望んだアルベールだったが、これほど人類が堕ちているのならアルベールもレナを連れて出向こうとはしなかった。