愚者か賢者か2
「あなたのお仲間も、あなたに負けず劣らず騒がしいのね。で、なぜ私までこんなところに?」
テーブルをはさみ、向い合わせに座るアルベールに個人的な嫉妬と疲労感を感じる声色で発する。
「何だ、私を支持してついて来てくれたのではなかったのかい?それに、君と私の勝負はまだ続いている」
レナは時折紅茶を口に含んでは、目の前の男から湧き上がった万感な思いを押し込むように飲み込んだ。
それを知ってか知らずかアルベールは毎度のごとくヘラヘラとした態度をとりながら、本を片手に珈琲を嗜む。そこに一一
「お客さん。ここは皆が食事をとりながら会話を楽しむ場所よ、辛気臭い顔で文学と向かい合うのはこの私に失礼よ」
決まりきった運命の日より解放された住民たちがバカ騒ぎをする中、比較的静かにたたずむアルベールに背筋をピンと伸ばし物申す。
自信ありげに胸を張る姿からは自分自身への絶対的な可愛さに対する自負が伺える。
「これは失礼。まさか君のような美少女がいると思わなくてね」
アルベールは口につけたコーヒーカップを皿に戻すと、相手を冷静に見定めるような瞳でウエイトレスを舐めるように見る。
その実確かにアルベールが発したように彼女の容姿は美少女と呼ぶべき顔立ちをしていた。頬に傷こそあったが、むしろ、その傷こそ彼女の魅力を引き立てるようにも見える。
「そうでしょそうでしょ!私、可愛いの。そこのお姉さんと比べると見劣りするけど、私だってそこそこよ」
テンションを一段階上げるようにむっふんと誇らしげにした後、彼女は視線をちょっとばかしレナへと向けるがレナは視線が飛んでくる事を理解していたように視線を交わさず紅茶を啜る。
「でも、私に恋は良くないわ。私のお相手は決まっているの。冷たい目で、皮肉屋だけれどもどこか愛がある人。だから私に恋はダメ。諦めてね」
スルッとアルベールへと視線を戻し、手を合わせて頬にくっつけ突然の惚気。陶酔するような具体的な言い回しに誰か特定な一個人を指している気がしてならないがそれに突っ込むのも野暮ってものだ。レナとアルベールの両者は言及するもなく静かに受け入れた。
「それは残念。次あった時は、その人に近づける準備でもするよ」
「ええ、頑張ってね」
最後そう言って立ち去ろうとする店員であったが、言い忘れた一言をたった今思い出したように問いを投げこむ。
「そういえば。今、王都で有名になってる反乱軍てあなた達でしょ?」