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愚者か賢者か

一一王国から少し離れた小さな町

 人の営みなど久しく感じさせないがらんどうの空間の廃墟が立ち並ぶ忘れられた町に、唯一活気がある酒場が一つ。


 そこには美少女からシニア世代まで実に幅広い年齢層のウエイトレスが働いており、アルベールの口車に乗せられた王国に不満を持つ者たちが酒場で一休みしていた。


 その中には当然のようにレナも含まれており、アルベールの向かいの席で鎮座していた。しかし、その様子に不満そうにジト目をするセレンが声を上げる。


「おいアルベール。何で仕事で来た王都から逃げるように立ち去ることになるんだ?おまけに、変なおまけまでくっついて来てるし」


 あまりの露骨な態度からは何らかの個人的な感情が混じっているきさえした。少なくとも初対面のレナが違和感を感じる程度には。


「ん?あんた化物が押し寄せた国にまだいたかったのかい?」


「そうじゃねーよ。私は、何で逃げるようにいなくならなきゃ行けなかったのか聞いてんだよ!まさかお前、また面倒事引き起こしたんじゃねーだろうな?」


「おいおい。私を少しは信用したらどうだ?私が今までそんな迷惑をかけることをしたか

い?」


 本を片手におちゃらけるアルベールに傭兵団は肩をすくめる。


「してねえと思ってるのか?」


「え?何かした?」


「……。」


 しばしの沈黙のあと、フィナは先程から気になっていた質問をぶつけた。


「それよりアルベールさん。向かいにいる方は誰なんですか?新しい傭兵仲間でしょうか?」


 荒っぽい傭兵達が多い中で優しく丁寧な口調で接する彼女は、町民達が入り混じるこの場でもやはり異質であった。これをただ単純に生まれの違いと一言でいいものか、それとも彼女自身の性質なのだろうか?


「あー、そういえば紹介してなかったな。彼女はレナ。私のフィアンセだ」


「違うのだけれど。レナよ、よろしく」


「こちらそこよろしくお願いします。フィナと言います。こちらのお酒を飲まれている方は一一キャッ!」


 そっけなく挨拶をするレナに、ペコリと頭を下げるフィナ。その途中で、フィナ胸部が何者かに弄られる感覚が走る。


「そんなかたっ苦しい挨拶はいいんだよ。私はセレンな、よろしく。お前もこの胸みたくちょっと堂々とすりゃあいいのによ」


 セレンはフィナの背後に回り、彼女の豊かな胸を弄り続ける。


「あ、あの……。わかったので早く離してもらえますか」


「う――。」


 彼女が胸を弄ってしばらくしたあと、唸り声を上げる。

 そして、弄っていただけの胸はピンポイント攻撃へと移っていた。


「な、なんですか?」 


 声を少し抑えている彼女は少し魅力的だったが、アルベールの視線はなかった。

 馬鹿騒ぎしてる住民達もまた、その行為に目線が移ることなく女同士の会話が続く。


「私もこれくらいデカかったら、今頃結婚してたのかな?」


 なんとも悲痛な嘆きがポロリとこぼれる。女の戦いに負けた少女の嘆きは、着やせするフィナの戦闘力を見誤った女の末路だ。


 いや、彼女は理解した上で手を出した。だが、ふとした瞬間に湧き上がる感情が不幸にも今だったというだけ。


 現にセレン自身もけして恵まれなかったわけではない。十分女として戦える戦闘力は有している。ただ、挑むべき相手が悪かっただけ。


 しかし、彼女自身結婚を焦る理由も存在する。彼女は傭兵、ただでさえ嫌悪される存在が年までいってしまえばいよいよ価値を失ってしまうからだ。


 だが彼女はけしてモテないわけでもない。むしろモテる方だ。傭兵と社会的価値が低いのにも関わらず、必ずと言っていいほど貴族たちからの縁談の話が移転や渡来するたびに舞い込んでくる。そんな彼女の嘆きに、


「無理じゃない?」


 とあっさり同じ傭兵仲間であるカゲミツは即答で否定する。

それもこちらに一切視線を向けることなく興味なさげに仕掛けてきた。


「あっ!?無理ってどういうことだ!」


 すかさず反応するセレンだったが、


「そういえば、お酒の飲み過ぎで太られていましたね」


 追い打ちをかけるように続くフィナに涙目である。


「うぅ……フィナまで。もう……みんな嫌いだ」


「ハッハッ。安心しろ、私がちゃんともらってやる」


「うん。ありがとよ、アルベール。親父、ビールなビール」


「あれ?ダイエットしなくていいのですか?」


「うるさーい!」


 わちゃわちゃとせわしなく、そして楽し気にする傭兵団はレナが幼い頃より語り聞かされた無情な傭兵とは異なった。


 彼女が想像する彼らは、町民以上にやさぐれており日々内ゲバで目も当てられな野蛮な連中とばかり思っていたが、ふたを開けてみれば自分たち以上に人間らしい和気藹々とした会話が飛び交っている。


 日々絶望的な明日に向かって指折り数える者と、永住権と引き換えに誇りを捨て奴隷のように生きる者のとどちらが人間らしいのだろうか自問自答していたレナにとっては驚愕の事実であった。


しばらくの間アルベール達の実にくだらない会話に耳を傾けていると、アルベールだけ残しセレンに引き連れられるように彼らはカウンターへと移動した。


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