虐殺2
「おいおいおい!なんだよこれ!」
「これじゃあ逃げられないわ!」
住民達は檻を壊そうとありとあらゆるもので叩きつけた。しかし、檻は壊れるどころか傷つく気配すらない。
「何だよこれ!この!この!この!」
「グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオォ!」
「ひっ……!来るな!来るな!こっちに来るなあぁぁ!」
逃げ場を失った者から一人、また一人と喰われていく。
そして一一「終わった……もう……終わったんだ……ハハ……ハハハ」
恐怖は絶望へと変化し、モンスター達の顎{あぎと}へと吸い込まれるのは必定。
「グシャグシャ」
弱肉強食を司る自然界を生きるモンスター達は、実に狡猾に動く。そして、人間達の思考は違う方向へと向かった。
自己正当化。自分が死ぬことを正当化するだけの理由。それは多少の矛盾や理不尽を許容する。生きるために当然として備わっている恐怖の感情を、無理やり納得させるのだから。
だがしかし一一多くの者の恐怖が混濁する中、花を片手に生に執着する一人の少女が願いを叫ぶ。
「死にたくないよ……死にたくない。だから……!来るなあぁぁ!!」
力がない。知識もない。この世界のあり方すら知らない。少女だからこその行動。知らないから動ける強さがある。
モンスターの強靭さ、逸話、習性。その全てを知っているものは、戦う前から敗北を知る。しかし少女は、無知であるが故の一歩を踏み出した。
だが、知らないからと言っても恐怖がないわけではない。目の前の悲劇を知ってなお動ける強さは、少女の強さ。
いや、女の強さなのだろう。少女は母親の手を振り払い、兵士が落としたであろう刀を手に、モンスター目がけて刀を振るう。
「やめない!戻ってきなさい!」
母親の静止を聞かずに振り下ろされた刀は、モンスターの背中に直撃した。しかし、カーンとモンスターの厚い外殻に阻まれ鈍い音が響き渡る。
甲虫型のモンスターは少女から受けた攻撃に気づき、「ギャァァァ!!」と汚い高音を上げ少女を襲う。