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車内5

 ユカに手を引かれ入った車内は人でごった返していた。

 正確に言えば人なのかは怪しい、人の形をした黒い影だ。

 ユカは男の手を引き男とともに、二人分空いている座席に座った。

「私、お母さんが怖いの。」

突然、ユカが小さな声でつぶやいた。

「お母さんはね、すごく優しいの。でもね、毎日夜遅くまでお仕事してるんだけど、時々すごく機嫌が悪くなるの。私は、お母さんが作ってくれたご飯とか、お店で買って置いてくれてるパンを晩御飯で食べるの。お母さんはね、機嫌が良くて帰ってくる時は、ジュースとかお菓子とかいろいろ買ってくれるの。でも、機嫌が悪い時は、私はお布団で寝てるふりをするの。起きてると怒られるから。」

ユカは、普段の日常の話を男にした。

「でね、そのことを私がおじさんに話したの。そしたらおじさんがママを叱って、私はママと離れ離れになって、今のおうちに引っ越したの。今のおうちはね、晩ご飯も温かいし、ぶたれないし、お友達もたくさんいるし、素敵なところなんだよ。でもね、ママはいないの。それで、私がママに会いたいなぁって思ってたら、この先の駅でいつも会えるの。でもね、ママはこの電車に乗れないの。だからいつも私は、ママに手を振ってるんだよ。そしたらママは、電車の窓とかドアとかいろんなところから電車に乗ろうとするの。そしたらいつも、笑ったお顔の人からママは連れて行かれちゃうの。ママはね、嫌だって、まだここにいたいってユカと一緒にいたいって。ユカを連れていきたいって。そう言ってくれるの。でもね、ここにいる黒い人たちと、笑ったお顔の人たちがいつもユカとママを会わせてくれないの。それでいつも、ママはエスカレーターで下に連れて行かれるの。」

 男は、ある光景が浮かんだ。

 少し前、駅の前でマユリに手を引かれ、3人で階段を登った、登りきった先で仮面の人間たちがこちらを見ていた、そして、電車の中でユカと話した、一瞬目を離した隙にユカがマユリになっていた、車両の連結が解除され、マユリが外に飛び出した、ユカは黒い影に守られていたが、マユリが黒い影を押しのけてユカを抱いていた。

 そう、自分は今あの時の1両目にいる。ふと後ろを見ると、1両だったはずの車両が2両になっている。

 男は確信した。自分はあの時の黒い影だったのだ。そして今周りにいる黒い影はおそらく、ユカを守っている何かなのだ。その何かに、自分は呼ばれてここにいるのだ。

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