車内4
もう男はこの程度のことでは驚かなくなっていた。マユリに向き合う。
「あなたは、どうしてここにいるのですか?」
男は自分でも無意識のうちに敬語で話していた。慣れたとはいえ突然のことに無意識に驚いていたのかもしれない。
マユリは答えた
「おかしなことを言うのですね。私はずっとあなたと座っていましたよ。ほら隣の車両に娘が乗っているんです。」
男はマユリの言葉に違和感を覚えた。初めに乗った電車に状況が似すぎている。そう思った瞬間大きな音が鳴り、前方車両との連結部が外れ、2人が乗っている車両がだんだんと離れ始めた。
マユリは突然立ち上がり、ユカの名前を叫びながら前方車両に向かって走り始めた。
慌てて男が止めようとするも間に合わず、マユリは車外へ飛び出した。男もあとに続く。
おかしい、電車は減速していないにも関わらず電車とマユリとの距離が離れるどころか近くなっている。男はまゆりを追いかけながら、前方車両を見た。中でユカがうずくまっており、その隣に黒い影が守るように立っていた。
マユリは走って前方車両の扉を掴み、電車に飛び乗った。そして、黒い影を押しのけ、マユリがユカに抱きついたところで男の意識は遠のいていった。