第5話 静かな夜
馬車の中で目覚めるとすでに日は暮れ、夜を迎えていた。そっと馬車から降りると私は大きく息を吸った。森の新鮮な空気が体内に潜り込み、思わず頬を緩める。そばの木にもたれかかり、真っ暗な空を見上げた。
やっぱり夜は好きだなあ、と思った。
物音一つしない静寂、自分以外の全ての時が止まっているように感じる。私は杖の先に明かりをつけそっと歩き出した。ふと周りを見渡すと近くにうさぎの姿が見えた。
(可愛い……)
そっと忍び寄り、撫でようとしたその時だった。
『ピィーーーーーーーーーーー!!!!』
どこからか甲高い音が森に響き渡った。うさぎはびっくりして逃げてしまった。
(何があったの!?)
私は好奇心と恐怖と心配が入り混じったようなものにそそのかされ、鳴き声のする方へ向かった。
「確かここら辺のはず……」
耳を頼りに3分ほど歩いて、音の出どころと思われるところにたどり着けた。もう一度音がしないかと耳を澄ましていると、弱々しいかすれたような鳴き声がした。あまりに死にそうな鳴き声で放っておけず、そっとそちらへ向かった。
『ヒィー……』
そこには周りに羽をちらした小鳥が一匹横たわっていた。まだ微かに息はあるが全く動こうとしない。
「どうしよう……」
私は迷いながらもそろそろと小鳥を手に平に乗せた。杖を持ち上げ光で傷口を確かめる。
「“イ・アムブロシア”」
薄いピンク色の光に小鳥が包まれる。こびりついた血が少しずつ元に戻っていった。攻撃魔法ではないため『代償』、魔法使用への対価は生じない。光が消え、不規則的だった呼吸が安定したのを確認すると、両手で小鳥を包み込むようにして馬車へと足早に向かった。
小鳥を布にくるみそっと地面に置くと、私はそばの木の幹によりかかり眠りについた。