第4話 旅立ち
私たちは多くの国民に見送られて国を旅立った。今までのドレスをやめ、新しい服装に着替えた私と母は馬車に乗り込んだ。
しばらくすると国民の声が聞こえなくなり、沈黙が続いた。母をちらりと見るとまだ国の方を見ていた。
「お母様。本当に私についてきて良かったのですか?」
私は今ならまだ間に合う、という思いを込めてそう聞いた。母は私の突拍子もない質問に驚いたようだったが、すぐに口を開いた。
「魔王は私の敵でもあるのよ。私の夫、あなたの父を奪った魔王。私自身の手で倒したいという思いもあるわ。だから後悔なんてするわけがないわ。」
私をまっすぐに見つめて母はそう言い切った。私は小さくため息をつくと他のことを考えようとカバンから1枚の紙を取り出した。行く直前に父の部屋から見つけたものだ。
「それ、どうしたの?」
母が声をかけてくる。キラキラとした闘志の宿った目に"後悔"というものはどこにも見えない。
「お父様の部屋にあったものです。先程見たところ、おそらく祖父の後世への言伝のようなものかと。……魔王討伐の際の道のりが記されています。」
母は私からそれを受け取るとしげしげと眺め始めた。
「最初の行き先はオリーブ国なのね。私たちと同じでよかったわ。」
「オリーブ国はスノウ国とも仲が良いですからね。もしかしたらお母様のことを知っている方も多くいらっしゃるのではないですか?」
私は最早母を国に戻すことは無理だと悟ってしまったので、せめて母がついてきてくれることをありがたく受け止めようと必死に話題をそらした。
「オリーブ国に?そうねぇ、もしかしたらおじい様の代の顔見知りはいるかもしれないわね。アキレアは行ったことなかったかしら?」
「ええ。とても平和で美しい国だと噂には聞いていますが実際に行ったことはありません。」
私はそれまでの疲れがどっと押し寄せてきて、それだけ言うと目を閉じた。母は小声で何かつぶやいていたが、すでに眠っていた私はそれをほとんど聞き取ることができなかった。
「美しさはね……」