プロローグ
お父様が死んだ。
お母様は演技かってほど泣き崩れて、侍女たちは袖で顔を隠しながら肩を震わせている。私は母の隣で唇を強くかみながらピクリともしない父の遺体を無表情に眺めていた。
「16時49分、御臨終です。」
父の主治医であるタラムが時計を片手にそう告げた。泣きじゃくっている母の代わりに私が返事を請け負う。
「最期まで面倒を見てくださり、ありがとうございました。父上の魂もあなたに感謝していることしょう。」
「いえ、こちらこそ何もお力になれず……」
ベッドのシーツをしわがつく程きつく握っている。
父上、この国の元国王を治せなかったという苦しみは大きいだろう。私だって本音を言えば今すぐにでも自室にこもり涙が枯れるまで泣きはらしたい。
しかし、この国の新たな女王、誇り高き父の娘としてここで逃げるわけにはいかない。
「父上のことは、あまり気負わないで下さい。天命だったのでしょう。あなたは最善を尽くしてくれた。心から感謝しています。」
「その通りっですっ、タラム殿っ。改めてっ本当っにっありがとうございます。」
目を真っ赤に充血させた母もしゃくりあげながら主治医に感謝を伝えている。
「アキレア、あなたも疲れたでしょう。後は私達に任せなさい。」
「ありがとうございます、お母様。それでは、失礼いたします。」
私もそろそろ限界だ。部屋にいる人達に軽く会釈をし、足早に自室へと向かった。自室へ入り、ドアに鍵をかけ、ベッドに倒れ込む。
胸が苦しい。意味がないとわかっていても、消えたはずの父の魔力を探してしまう。
(あんなに優しくて、素晴らしいお父様が亡くなる訳ない)
目からはとめどなく涙が溢れてくる。父との思い出が、数え切れないほどの思い出が、頭の中で走馬灯のようにながれていく。
「うわああああああぁぁぁぁぁっっっっっ!!!!!!!!」
静まり返った部屋に、廊下に、私の泣き声だけがこだましていた。