第11話 シェフ
「皆様、お食事の準備ができましたよ」
いつからそこにいたのか、ドアの前にセバスさんが立っていた。側には何人かのメイドも居る。
「ありがとう、セバス。さあ、行きましょう!うちのシェフは腕がいいの、きっと気にいると思うわ」
パンっと手を叩くとアマリリス様はそう言って席を立った。私たちもそれに続く。
「クレマチスも。うちのシェフの腕前は知っているでしょう?前に来た時はレモンクッキーが美味しいって感動してたじゃない」
「いつの話よ」
母がクスリと笑みをこぼした。アマリリス様は少しほっとした表情になり、それからはシェフがすごいという話をずっとしていた。
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「ようこそ!オリーブ国へ!」
下の大広間に降りると大勢の使用人達が声をそろえて私たちを出迎えてくれた。その中で白い制服を着た若い男の子が前へ進み出た。
「私はシェフのクリスと申します。こちらの料理は全て特別な時のみに出されるものとなっております。新しいメニューのものもご用意しましたのでどうぞごゆっくりおくつろぎください」
最後に一礼をすると、他の使用人達を含め彼らはそそくさと大広間を去ってしまった。
「シェフの方、お若いのにすごいですね!」
と私は言った。実際、テーブルの上に置いてある料理はどれも美味しそうで、何から手をつけて良いのか悩むほどだ。
「見た目は、よ。だって彼確か今年で460歳、でしょう?」
母が机の上に並べられた食べ物を見回しながらそう言った。
「よ、460歳!?何か魔法でも使っているんですか?」
ジュナが素っ頓狂な声を上げた。460歳、なんて人間ではどんな手段を使おうとありえない。だとすると……
「もしかして、エルフ、ですか」
エルフ。人間と妖精のハーフのような立ち位置で、平均寿命は推定2000歳とされている。近年では極めて稀少で、その個体数はおおよそ人間の1000分の1にも満たないと考えられるー
これがエルフに関する唯一の情報だ。彼らの寿命が長すぎるが故に、そのことを語り継ぐ人間が減り、今に至っている。
アマリリス様は私の言葉に静かに頷いた。
「昔、城の前で瀕死の状態で倒れていたの。今でこそないけれど数年前まではエルフ狩りも珍しくなかったもの。慌てて治療したけれど、身元が分からなかったからここで住み込みで働かせているの。十分稼いだら親を探す旅に出るそうよ」
「エルフ狩り……」
「エルフは貴重だから。特に彼らの目は澄んでいて宝石として高く売れるの」
悲しそうにアマリリス様が言った。申し訳ないことを聞いてしまった。けれど、彼女はふるふると頭を振って、私たちに微笑みかけた。
「今はこんな話は無しね。彼の料理は本当に美味しいのよ。早速頂きましょう」
ジュナと私はお互いに顔を見合わせてから大きく頷き、待ってましたと言わんばかりにさらに盛りつけ始めた母を横目に料理に手をつけ始めた。
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