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Dungeon core 迷宮の主

 私とアルバがデネブラウの屋敷に移ると、GUILDも本部機能の一部をテネヴァー領へ移し、旧本部の運営はフムスに任せる事になった。旧本部は名称を何の捻りも無くそのまま旧本部とし、所属する領にはGUILD発祥の地を名乗らせ、観光資源として先の未来までの利益を提供する事で納得させた。


 テネヴァー領の新本部は、ソフィアの生家インテューム家の跡地に建てられる事になった。それは強大な武力と莫大な富を築くGUILDの中枢であり、ソフィアの家族への慰霊碑でもある。


 私は本部の建屋が完成するまでは、デネブラウの屋敷でお付きのアルバと一緒に住み込みで働いている。働くと言っても、旧本部とは距離も離れているから迅速な判断が必要な事は出来ず、大規模で長期な支部の展開とかの事業の承認くらいだ。

 それとGUILDの仕事と並行して、落ち込んだ作物の生産高を向上させる為、グレイスお得意の天候占いで、畑の気候対策や収穫時期の指示を領主へ細かに出していく。指示するだけでは多忙が板に付いた今では暇過ぎるので、微力ではあるが私達も畑に出て草毟りくらいは手伝った。


 当然私のお付きのアルバの方も妊娠しており、そこにはソフィアの元侍女のヘレナを捜し出して、娼館から買い戻しお付きのお付きとして付けた。

 只の道具として扱われ、生傷が絶えないボロボロのヘレナを私は助けた気でいたが、未来視で見落としたヘレナの「もう一度ソフィアお嬢様にお仕えする事だけを夢に思っていました」の言葉に、荒んだ私の心の方が救われる事になった。


 



 アントニオが情婦を優雅に侍らせ、マルティナが悔し涙を流し、私とアルバのお腹が目立つ様になって来た頃、急な話が舞い込んできた。それはGUILDの噂話を聞いた国王軍からの依頼で、“魔物により壊滅したという町の調査をせよ”との事だ。

 私は直ぐに未来視をするが、そこには私の理解を超えたものがある様で、未来のヴィジョンは鮮明に映らず、そこからは情報を得るに至らなかった。



 私はヘレナに留守を預け、マグナオルド王国の北西に位置するその壊滅したという町に、アルバとウェルとレプリス、シノビが選んだ10名の精鋭により組織された特殊部隊“カゲ”、それと10名の手練れの用心棒と、二体の魔物を連れて調査に向かった。


 その町に近付くに連れて、体が人の頭程もある新種の虫を見るようになり、その内在する魔力量から魔物だと判断した。

「ウェル、虫の魔物なんていたかしら?」

「俺は見たこと無いな? ───皆は?」

 ウェルが他にも聞いてみたが、皆ここで見たのが初めての様だった。

 その種類は地を這うもの、跳ねるもの、空を飛ぶものと種類こそ少ないが、何とも大きくて気持ち悪い。それ等は新種である事から情報を持ち帰る為、なるべく状態良く倒して、アルバが眉間に皺を寄せながらSketchをしていく。

 目的の町へ辿り着くと、そこで目にしたのは、他の町に避難した生存者の証言通り、町の真ん中に出来た魔物を吐き出す大穴だった。



 私達は魔物を討伐するチームと、拠点を作るチームとに分かれて作業を始めた。

 町には虫の魔物と住民の遺体が溢れており、女や子供、それに老人が多い様に見える。その遺体の状態から虫の魔物は麻痺毒を使うと推測され、戦闘能力や運動能力が低い者達から多くの犠牲を出してしまった様だ。

 私達は遺体を埋葬しつつ余り汚れていない家を探し、そこを拠点として使用させて貰う事にした。

 魔物退治の方は精鋭を連れ来ただけあって順調ではある様だが、脆弱な翅の魔物は問題無いとして、甲殻虫の堅牢な殻や、血の匂いに誘われた森の中の大型の獣型魔物には中々に手を焼いている様で、重傷者こそ出していないが、医療品の補充は必要になりそうだ。


 魔物を倒し続けて三日が経った。穴から出現する魔物の数が目に見えて減ってきて、町に溢れていた魔物も、今はもう気配を感じる事ができない。これで大穴の周囲に監視を付ける事で、漸く調査に本腰を入れる事ができる様になった。



 調査拠点で休憩や食事の際に、穴を見てきたウェルやシノビ、それに手練れの用心棒達が、頻りに話題に上げているのは“炭坑”の話だった。

 私もその話に交ぜてもらうと、過去には炭坑が突然口を開けたと言う噂があると言う。中に棲み着いて居る魔物を討伐し続けていれば、人が炭坑として使える様になってくる様で、今ある炭鉱の殆どはその様に魔物の棲処だった所を利用していると言う事だ。


 そして更に奇妙な話もある様で、「炭鉱の最奥には宝が有り、最奥の宝に手を付けると炭鉱が崩れ去る」というものだった。

 魔物が多くて最奥になんて行ける可能性も低い上に、宝を取れば炭坑が崩落するというのだ。全くの根も葉もない噂かと思ったが、この調査を終えた未来で炭坑について情報を集めてみれば、実際に突然崩落した事例も有ると言うのだから、ただの噂で終わらせてくれそうに無かった。


 取り敢えず町の穴には梯子を作って降りられる様にして探索を進める事にした。私は安全確保も兼ねて穴の縁に立って未来視をしてみるが、まるでこの真っ暗な穴を覗いている様に、未来視は全く使い物にならなかった。

 きっと私の想像だにしないものが有るに違い無い。まるでグレイスが読んだ本にあったDungeonの様だ。······あ

「Dungeon... そうだ!」

 その言葉を紡いだ瞬間、私の未来には数多くのDungeon関連の依頼が飛び交い、忙しなく働くGUILDの光景が映った。



 それからDungeonの探索を始めて月が一巡する頃には、「冒険」と称して調査を楽しみ始めた「冒険者」達からの情報で、内部の地形も詳細に分かって来た。そしてこのDungeonにも、鉄や宝石としての価値のある鉱物が見付かり、各地の炭坑=Dungeonの仮説の裏付も取れた。

 そしてDungeonは奥に行くに連れて強力な個体が出るようで、外に出てくるのは生態系の弱者だった様だ。


 それと魔物がDungeonから生み出されているところを見たと言う者も現れた。なにかこう······壁がうっすら光って「にゅっ」と出て来たらしい。

(Dungeonも出産するのだろうか? まさか生き物でも有るまいし······出産か───)

「マリア様、どうされたのですか?」

 アルバに声を掛けられ、私はハッと我に帰った。どうやら私は、お腹を摩って遠い目をしていた様だ。

「なんでも無いわ。魔物ってDungeonの子供なのかな? って思っただけよ」

「ダンジョンが子供を······ですか?」

 アルバが呆けた顔でこっちを見ている。我ながら馬鹿げた事を言ってしまった様だ。恥ずかしい───

「では······ダンジョンも、その······スルのでしょうか?」

 私はきっと凄く呆けた顔でアルバの事を見ているに違い無い。まさか彼女の口から私以上に馬鹿げた言葉が出るなんて───

「───あるかも」

「え? いや、冗談ですよ!? 無いですよ!」

「最奥よ! 宝が有るじゃない!」


 Dungeonには噂がある。最奥の宝に手を出すと、Dungeonが崩落するというものだ。今ここのDungeonは最奥に向かって強力な魔物が出現する。

 ───それは何故だ?

 自分に置き換えたらどうだ───。私は弱い私自身を守るために、ウェルやシノビ達カゲを配置している。それと同じだ。Dungeonもその最奥に有る宝───Dungeonが出産をする様な生物めいたところがあるのなら、恐らくDungeonの命······心臓の様な、そんな重要な器官が有るに違い無い。

 きっとそれは脆弱な生き物なのだ。だから強い魔物を生み出し、それに自身を守らせる。だから脆弱過ぎるそれが死ぬ時は、Dungeonが死に、崩落する事になるのではないだろうか───



 それから月が半巡りする頃には、私達の魔物の討伐速度はDungeonの魔物の······出産だと生々しいので、再生産速度と呼ぶ事にした現象を上回り、実質的にDungeonの最奥迄の安全を確保することが出来た。

 今、身重の私とアルバもDungeonの最奥に到達出来、もうこのDungeonの構造は地図に細かく記されている事から、踏破したと言っても差し支えない状況だ。


「マリア、あれがこのダンジョンの心臓部だ」

 ウェルが指差す先に居たのは、水······ではない。少し固めの······膠質(ゼラチン)の様な、そんな感じの人の頭くらいの小さな塊だった。


 それの下······Dungeonの地面に接触しているところには、ゼラチンから伸びてDungeonと接続している管の様な物が見える。

(間違いなくコレがこのDungeonの心臓部······本体······Core! Dungeon Core!)

 私は誰も近付かない様に指示を出して、流動し形が定まる事の無いソレ───Dungeon coreをアルバにSketchさせた。アルバは苦慮しながらも何パターンかSketchを描き、私達は初めてDungeonの最奥の宝の存在を、外に持ち出す事に成功した。



 この段階迄来れば、私の未来視でもDungeonの詳細を見る事が出来る様になり、私達はこれを以てこのDungeonの調査を打ち切り、国へ報告をする事に決めた。このまま何事も無く一晩拠点で夜を明かしてから帰路につく予定だったが、私達はどうやら一つ報告事項を増やさなければならない様だ。


 それはDungeonの崩落の報告だ。GUILDの冒険者数名が欲に駆られてDungeon coreを持ち出し、珍獣として売ろうとしたらしい。───勿論私は知っていたし、ウェルやアルバ達側近は、私が黙って行かせたと言う事は“回避してはいけない未来”だったと言う事を理解している。


 彼等の未来のヴィジョンで見る事が出来たのは、Dungeon coreを掴もうとしても簡単に崩れてしまう事。袋に詰めて持ち去ろうとして管を切断するとDungeonの崩落が始まる事。そこからの彼等の視界は真っ暗になり、炎の魔法で照らして閉じ込められた事に絶望する事。動けなくなった仲間から順に、Dungeon coreに食われていった事だった。

 崩落してからの事は、外に居た者が確認する事は不可能なので見なかった事にして、今回は“Dungeon coreを切除して持ち出す指示を出した”と報告させて頂こう。



 帰りの中継地の町の宿の食堂で一人暇を持て余していると、予知通りにウェルがやって来た。

「マリア······本当に彼等の犠牲は必要だったのか?」

 ウェルは本当に優しい人だ。私の手は自然とお腹に移り、明かせぬ父親の代わりに摩ってやった。

「誰かがやらなければ、この結果を手に入れることは出来なかったわ。Dungeonを持っている領や国にとって、富をもたらすこの情報は有益なの。これが有れば交渉を有利に進められて、世界にGUILDを迅速に展開出来るのよ」

 私は力説するが、ウェルの方は余り乗り気で無い様で、悲しい───いや、心配の目を私に向けている様だ。 

「マリア、俺はもっとゆっくりで良いと思うんだ。それこそ、今はお腹に子供が居るだろう」

「そ、そうね! 元気な赤ちゃん産むわ!」

「ん? ああ、そうだな。領主の跡取りになるかも知れないからな」

 ウェルにはバレていないと分かっていても、少し返答に詰まってしまった。

 私はウェルを隣に呼び、私のお腹に触れる様に言った。この子の父は本当に優しい人だ。私の手は自然とウェルの手に被さり、叶わぬ願いを思い描いた。


 私は何れGUILDと領を率いるアルバの娘の為に、ウェルに何と言われようとも、私の代でGUILD運営の基盤を作らなければならない。

 その一環として、私達は彼等の尊い人柱のお陰で、確かな実績を以てDungeon coreとDungeonの関係性を報告書に纏め、後の世代に引き継ぐ事が出来る様になった。

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